1日の時間を有効に使うにはどうすればいいか。物流エコノミストの鈴木邦成さんは「『早起きは三文の徳』といわれるが、朝の時間に大きな期待を抱くと、それ以外の時間帯への滞りを生み全体でみて効率的ではないことが多い。
人間は昼行性の生き物なので、『時間医学』の考え方としても体験的に考えても、起床してから4時間から6時間後あたりの日中に重要な案件をこなしておくということが、もっとも効率よく仕事に取り組める」という――。
※本稿は、鈴木邦成『はかどる技術』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
「早起きは三文の徳」はウソだから早朝に期待するな
時間が上手に使えない人は多いと思います。
そんな時間管理に悩んでいる人の話を聞いてみると、ある共通点があります。
それは「朝早く起きて勉強する」「週末に積み残してきた仕事をまとめてやる」といったように、ある特定の時間帯に集中して取り組んでいることです。それ自体は悪いことではないのでしょうが、そうなると、どうしてもその時間帯でできることに過度な期待が生じていきます。
しかも、それは「時間の滞り」を解消していく視点から考えると、合理的な対応とはいえません。「まとめてやる」ということで、特定の時間帯に対する期待値を高くすれば、その通りにできなかった場合、逆に挫折感も大きくなるからです。
それがもっとも顕著に出るのが朝です。「早起きは三文の徳」「朝の時間はゴールデンタイム」といわれるように、朝の時間に大きな期待を抱く人が少なくありません。
「朝早く起きて、頭がさえている状態の午前中にプレゼン資料の作成や資格試験の勉強をしたりするといい」
「仕事ができる人は、朝早く起きて、始業前に重要なメールに返信したり、大切な用件に手をつけたりするものだ」という理屈です。
早朝の忙しい時間帯に、ぼんやりした状態で続ける意欲を保てるか
しかし、その言葉を真に受けて、朝早く起きてみたものの、「三日坊主で終わってしまった」「結局、起きられず挫折感だけが残った」という人が実に多いような気がします。
30代くらいまでならば、早朝はぎりぎりまで寝ていて、大急ぎで身支度を整え、出社するのが普通だと思います。実際のところ、朝起きてしばらくは、ぼんやりしている人が多いはずです。
学生の場合、授業が1時間目からあれば、午前9時前には大学に着いていなければならず、始業前の早朝からがんばっているという人は、部活の朝練などを除けば、ほとんどいないはずです。
それに通勤・通学ラッシュのなかで、勉強したり、副業をしたりするのは、かなりの意思・意欲がなければなかなかできることではありません。朝6時に起きて、寝ぼけ眼(まなこ)で電車に乗り、職場で仕事を始めて調子が出てくるのは、午前10時くらいのはずです。
起床してから4時間から6時間後あたりが、もっとも効率よく仕事に取り組めるというのが、「時間医学」の考え方ですし、体験的に考えてもそうでしょう。
「朝を制すものが1日を制す」で不必要な挫折感
たとえば朝4時に起きて、資格試験の勉強をしようと思っても、ペースが上がるのは朝8時くらいになるはずです。サラリーマンなら通勤途中でこんな時間に頭が冴さえても、冴えるだけムダかもしれません。
「朝が効率的」といわれ、それを実践した人が、「朝を制す者が1日を制すというが、眠いだけであまり勉強はできなかった。自分はダメな人間だ」と不必要な挫折感を味わうのは、こういうことも大きな原因の1つなのです。
ちなみに早朝に仕事をしている人はあまり多くないのか、私が早朝(午前4~6時の時間帯)にメールをもらうことはほとんどありません。ただし、「仕事は朝のうちに済ませてしまえ」と思っているのか、午前9時から10時過ぎくらいまでのビジネスメールはかなりの量になります。
人間は昼行性の生き物
だとしたら、早起きなんて無意味です。朝にそんなに高い期待値を持つ必要はありません。それに「昼は眠くて働けない」というのなら、昼休みにでも10分程度、仮眠すれば十分眠気は取れます。
また、頭を冴えさせたいなら、コーヒーを飲むだけでも十分かもしれません。人間は昼行性の生き物なので、朝早くとか夜遅くとかは関係がなく、日中に重要な要件をこなしておくということがもっとも効率的なのです。
ただし、不思議なほど、世の中には「朝神話」が蔓延(まんえん)しているようです。
個人レベルではなく、会社単位も同じです。多くの会社では仕事を午前中に集中させています。
物流の現場作業でも、午前中に納品や搬入が集中することが少なくありません。宅配便も「午前中時間指定」が非常に多くなっています。「午前中に用事は済ませておいたほうが、あとの時間を有効に使える」と考えるからでしょう。
デスクワークもしかりで、重要な会議や打ち合わせは午前中に行うのがほとんどです。しかし、そういう人たちに本心を聞いてみると、「集中すべき仕事は、絶対に午前中にこなさなければならないというわけでもない」とのことです。
加えていえば、「午前に仕事を全部済ませたので、午後には何もすることがなくなった」ということもよくあるといいます。
午前中の出荷の終わった物流センターの午後のアルバイトさん、パートさんは手持ち無沙汰(ぶさた)になります。営業パーソンも午前中の会議を終わらせて取引先に出向いたときには、重要顧客も社内にはいなくなってしまうというわけです。
計画的に常時早起きする必要はない
しかし、午前中に集中するこうしたタスクを少し昼以降に回すだけで、午前中の疲労や負担が軽減できるし、午後以降の仕事の効率も上がるようになるといったら、どうでしょう。
朝早く起きること自体、否定はしませんが、午前4時に起きて眠たい目をこすりながらメールに返信したり、資格試験の問題集を解いたりしても効果は薄いだろうし、効率も悪くなるだけです。
「午前中、がんばりすぎて午後は身体がだるい」「午前中やりたいことはやったので午後は暇になる」という声もよく聞きます。
それならば、朝は出社直前の午前7時まで寝て、前日の疲れをしっかりとってはどうでしょう。午前中はゆっくりと仕事をして、午後からペースを上げればよいのです。
私は基本的にこのやり方です。
やむを得ない理由で早起きして作業をすることもありますが、それはあくまで「時間に追われて」の話で、計画的に常時早起きするということはありません。結局、「朝しかできないと思っていたけど、意外と午後とか夜のほうが、効率が上がる」ということになります。
もちろん、朝型でがんばれる人もいるでしょう。しかし、標準的な生活パターンで過ごしているごく普通の人には朝型の生活はかなりの負担となるはずです。朝が苦手な人はムリに早起きなどはせず、逆にゆっくり眠って、1日乗り切るエネルギーを蓄えるのがいいのです。
朝への過度な期待でダメになる人
1つ例を出して考えてみることにしましょう。
Cさんは午前中、部署の営業戦略の立案や企画などといった頭を使う仕事をしています。ただ、昼食のあとは眠くなったり集中力が落ちることから、昼食前に商談や打ち合わせを増やすようになりました。
そして夕方から経費精算や日報・日誌などの作成などを行い、急に入ってくる飛び入りの仕事や打ち合わせも午後の遅い時間帯に入れます。したがって必然的に残業は増えます。
残業なども終えて帰宅するのは午後7時過ぎになります。食事は外で済ませたり、帰宅してからとったりするのですが、どちらにせよその日はそれ以上のことはできません。
資格取得の勉強も継続的にしていきたいので、朝早く起きて出社前に試験に出てくる専門用語を暗記したり、参考書に目を通したりしています。
一見、Cさんの1日の過ごし方には大きな問題はないような気がします。しかし、このような1日の過ごし方で仕事の効率が上がったり、資格試験に受かったりするのでしょうか。
一番重要なことは昼にやるのがもっとも効率的
私の考えをいいましょう。かなり厳しいと思います。
人間をはじめ、哺乳類(ほにゅうるい)の多くは昼行性の生き物とされています。そして、その行動は体内時計によってコントロールされています。そうなると、私たちがもっとも効率的に動けるのは昼間、つまり午後の時間帯ということになるわけです。
1日の流れはたとえるならば、マラソンのようなものです。いきなり全速力で飛び出すのではなく、先頭集団からは遅れないようにするものの、まずは「慣らし運転」のような感じで徐々にペースを上げていくのです。もちろん、必要ならばラストスパートをかけます。
「本当だろうか。午後になるとぼーっとして仕事がはかどらなくなるような気がする」という人もいるでしょう。しかし、これには理由があります。
たとえば昼食をたっぷりとってしまった場合、午後の仕事の能率は確かに落ちます。けれどもこれは「午前中がんばったので安心したり、お腹が空いたりしたこともあり、昼食をしっかりとった」ということが原因となっているのです。
朝早く起きなければ、昼もそれほどお腹も空かないはずですから、昼食もほどほどの量で済むでしょう。それならば血糖値が上がることもなく、眠たくもならず、午後も集中力は落ちないはずです。けれども、朝に仕事が集中していると、その反動が午後に出てきてしまうようになるのです。
午前中の仕事は「慣らし運転」でいい
したがって、午前中の仕事は「慣らし運転」のようなものと考えて、軽めにこなし、午後にメインの仕事を持ってくるというのが、効率的に仕事をこなしていくコツにもなります。
Cさんの例でいうと、朝から営業戦略の立案などを行うのは、いうならば最初からギアをトップに入れるようなものです。慌ただしい朝にじっくりと時間をかけて行わなければならないタスクを入れるところにムリがあるのです。
午後の商談は悪いというわけではありませんが、相手の都合もありますから、状況に応じて朝や夕方も活用することにして、午後に固定するという考え方はとらないほうがよいはずです。
このような考えに至ったのは、私も以前、朝に仕事を集中していた時期があったからです。朝方の仕事はタバコを吸いながら、コーヒーを飲みながら、ゆっくり取り掛かると、快適なものです。仕事もはかどるような気もしました。
ところが35歳くらいのときにタバコをやめてから考え方が変わりました。タバコをやめてみると、朝の慌ただしい時間帯にゆっくりと立案を練るというのはどうも落ち着かないのです。そこでタバコをやめたことをきっかけに、朝重視型から昼重視型にシフトすることにしたのです。
当初は午後の仕事効率が落ちましたが、「昼を活かすためにはどうしたらよいか」ということを考えるうちに、「朝から全力で飛ばさない」「朝のタスクは軽めにして、午後を仕事のメインに据える」という考え方に至ったのです。そしてさらに工夫を重ね、昼重視型を自分なりに改善していくと、より一層、効率的に仕事をこなせるコツもわかってきたのです。
鈴木 邦成(すずき・くにのり) 物流エコノミスト、日本大学教授 一般社団法人日本ロジスティクスシステム学会理事、電気通信大学非常勤講師(経済学)。専門は物流およびロジスティクス工学。物流改善などの著書、論文多数。普段から学生やビジネスパーソンから専門分野に関する相談を受ける一方で、就職、転職、資格試験の勉強方法、職場での時間管理や人づきあいなど、幅広い悩みについても意見を求められるという。そうしたやりとりのなかで、物流・ロジスティクス工学の知見を、「仕事や人生の滞りをなくす」という視点から悩みに当てはめることで、思いがけない解決策を導けることに気づく。主な著書に『トコトンやさしい物流の本』『入門 物流(倉庫)作業の標準化』『トコトンやさしいSCMの本』(いずれも日刊工業新聞社)、『シン・物流革命』(中村康久氏との共著、幻冬舎)、『物流DXネットワーク』(中村康久氏との共著、NTT出版)などがある。