剤だけじゃなく、電気や磁気も!? うつ病治療のバリエーション | ~たけし、タモリも…「1日1食」で熟睡&疲れナシ~

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『カッコーの巣の上で』(1975年)という米国の映画があります。古い作品ですが、ジャック・ニコルソン主演の名作であり、往年の映画ファンなら知っている人も多いでしょう。

この作品は管理の厳しい精神病院が舞台で、主人公が頭に電極を当てられ、電気ショックによる治療を受けるシーンがあります。実は、これと同様の治療が現在の日本でも行われているのをご存じでしょうか?
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◆通電療法=通称「電パチ」

精神医療ではこれまで、前頭葉上の皮膚に電極を当て、頭部に通電して「けいれん発作」を誘発する「電気けいれん療法」(ECT:Electroconvulsive therapy)が行われてきました。電気ショック療法、あるいは俗に「電パチ」とも呼ばれます。

ECTは、うつ病、躁うつ病、統合失調症などの治療に用いられることがあります。これらの病気は投薬治療がメインですが、重症で自殺の危険がある、緊急性が高い、薬物療法で症状が改善しないなどの場合に、ECTが選択されることがあるのです。
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◆映画『カッコーの巣の上で』のイメージ

映画『カッコーの巣の上で』では、主人公が病院内の規則に従わないことから、懲罰的に「電パチ」を受けるシーンがあります。非常にショッキングなシーンであり、古い精神医療の「拘束」のイメージを象徴するかのようです。

現在では、インフォームドコンセント(詳しい説明による同意)を得たうえで、最終手段として用いられ、安易に使われることはありません。治療の際も、全身麻酔を使った上で通電するため、患者が苦痛を感じることはありません。

一方で、記憶障害や性格の変化といった副作用も報告されており、専門医の中には医療倫理的な観点から廃止を訴える人もいます。総じて「電パチ」というネガティブなイメージは払拭されていないと言えるでしょう。
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◆磁気によって脳を刺激するTMS

一方、うつ病に対する新しい治療法として最近注目されているものに、「経頭蓋磁気刺激法」(TMS:Transcranial Magnetic Stimulation)があります。これは電気ではなく磁気を用いて脳の特定の部位に働きかけ、脳血流を増加させることによって、低下した機能を元に戻すものです。

磁気を用いた医療器機としては、体の内部を断層撮影するMRI(核磁気共鳴画像法)があります。TMSもMRIの研究から派生したものだと言われています。MRI同様、専用の器機を使って頭部に磁気を当てるだけなので、治療時に痛みはなく、麻酔も不要です。

TMSは米国で開発された治療法で、米国では2008年にはFDA(食品医薬品局、日本の厚生労働省に相当)から認可を受けています。日本では、2012年にNHKスペシャルで放送されたのをきっかけに注目され始めましたが、厚生労働省にはまだ認可されていません。

◆扁桃体の活動を抑制するTMS

最近では、うつ病の人の脳は健常者と比べて血流や代謝が低下していることがわかってきました。そこで、脳細胞に磁気で刺激を与え活性化させることで、脳の機能を回復させることを目的にした治療法がTMSです。

米国ではすでに500か所以上の医療機関に導入されているそうです。保険適用外ですが、日本にも一部、自由診療として取り入れているクリニックがあります。

人間の脳には、認知や意欲、判断に関する領域で、悲しみや不安の感情を引き起こす「扁桃体」(へんとうたい)という部位があります。TMSでは、活動を抑制する働きをつかさどる「背外側前頭前野」(DLPFC)という部位に磁気刺激を与えます。

DLPFCの機能が低下すると、扁桃体の活動を抑えられなくなって「抑うつ状態」を発生させると言われています。そこで、DLPFCを磁気で刺激し機能回復を促すことで、扁桃体の過活動を抑制しようというものです。

◆TMSのメリット

通常の薬物によるうつ病治療と比較したときのTMSのメリットは、不眠、眠気、頭痛、吐き気といった薬物の副作用に悩まされる心配がないこと。施術中や術後に頭にピリっとした刺激を感じる、刺激が歯の神経に伝わり痛みが走るといった訴えもありますが、一時的な現象であり、治療を続けていくうちに治まると言われています。

総じて、薬物療法や電気けいれん療法(ECT)に比べ、副作用が少なく安全性が高いと評価されています。
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◆TMS治療の基本的な流れ

実施しているクリニックによっても多少異なりますが、日本におけるTMSによる治療は、下記のような手順で行われます。

●臨床心理士によるインテーク(面接)を行い、患者の状況を把握する

●医師が診察を行い、TMSの適応の可否を判断する

●医師および専門スタッフにより、TMS治療の内容や注意点を説明し、同意を得る(インフォームド・コンセント)

●適応が可能な場合は翌日以降に治療を開始

治療時には、歯医者さんのようなリクライニング式のシートに座り、磁気を流す装置を頭部にセットします。装置から大きな音がするため、耳栓をして頭部に磁気刺激を与えます。

個人差はありますが、1日1回40分、週3~5回のペースで、およそ30回、6~10週間くらいの期間で行われるのが、標準的な治療法とされています。

◆2つのアプローチ:化学的か物理的か

薬物療法は化学的アプローチです。副作用も出ますが、医師と患者が状態を確認しながら治療を進めていくことができます。これに対してETCやTMSは、電流や磁気によって刺激を加える物理的アプローチです。

外圧をかけて治療をしていくリスクがあり、また新しい治療法であるため蓄積された臨床データも多くはありませんが、治療の長期化といった問題の解決に貢献する可能性があります。両者を併用していくことも実施されており、TMSは今後に期待が持たれている治療法と言えるでしょう。

<参考>
うつ病ナビ:http://utu-yobo.com/tms.html
NHKスペシャル(ここまで来た! うつ病治療)http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20120212

執筆:山本 恵一(心理学博士、メンタルヘルスライター)
監修:坂本 忍(医学博士、公認スポーツドクター、日本オリンピック委員会強化スタッフ)