長野県の佐久市立国保浅間総合病院「スマート外来」では、患者の8割が3カ月で約5kgの減量と脂肪肝の改善に成功しています。その減量ノウハウとはーー。
肝臓外科医・尾形哲氏が上梓した『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術 予約の取れないスマート外来のメソッド』から一部抜粋・再構成してお届けします。
「スマート外来」を訪れるのは、肥満・脂肪肝の改善を目指す方々ですが、これまで何度もダイエットに挑戦して、しかし痩せることができなかった人も多くいらっしゃいます。若いころは痩せていたのに、40代半ばを過ぎるころから急に太り出して、どうしていいかわからない人もいます。
年齢が進むにつれて基礎代謝が下がり、だれしも脂肪をため込みやすくなるものですが、特に女性は、更年期以降、女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少していくことで太りやすくなります。
エストロゲンには内臓脂肪の増加を抑える働きがあり、それが閉経に向かって枯渇していくのです。この内臓脂肪から溶け出した脂肪は肝臓にたまりますから、女性は40代後半から脂肪肝になるリスクが急激に高まります。
ストレスも肥満の原因に
太ってしまう原因には、男女とも、精神的ストレスが影響していることもあります。事情はさまざまですが、脂肪肝リスクが高まる40代後半以降は、親の介護や家庭のこと、仕事のことで、自分自身を顧みる時間もないほど忙しくしている人がたくさんいます。
そのうえ「太ってしまったから痩せなくては……」と思うことは、むしろ追い打ちです。心身ともに疲弊してしまいます。しかも、疲れやすいのは肝臓に脂肪がたまり、肝機能が低下していることも関係しているという不調スパイラルです。
こうした状況下でダイエット生活をスタートしても、早々に我慢の限界が訪れ、甘いものやお酒に手を出すなど、かえってよくない結果を招きかねません。つまり、がんばりすぎていることで、減量が続かないのです。
ストレス太りがある人は、減量より前に、環境を整えることから始めてもらっています。根本的な原因を解決しない限り、ストレスは増え続け、肝臓の負担も大きくなるばかりです。あれも、これもとがんばりすぎては、かえって脂肪肝を悪化させていることもあるのです。
外来でもよく伝えていますが、1人の医師が診る重症病棟の患者は2人までというのが鉄則です。3人以上になると急にミスが増えてしまう。悩みもストレスも同じで、3つ以上になると、たちまちこなせなくなります。
心配事は2つまで。1人で抱え込まず、周囲の誰かに頼ってみる。この、頼ることを“悪”と思わないことや、我慢やストレスを手放す勇気は、とても大切です。
ストレスをため込むことが肝臓によくないのと同様、便秘で出すべきものが出ずに体にため込まれている状態もよくありません。これは便が出ないから、その重さで体重が減らないという単純な問題ではありません。
栄養は小腸で吸収され、大腸では水分が吸収されるといわれてきました。しかし、大腸でも栄養分を吸収していることがわかってきたのです。
大腸で、腸内細菌の働きによってさらに栄養を分解し、それを吸収しています。一方、肥満のある人ほど糖質や脂肪から栄養を吸収する腸内細菌が多いことも判明しています。同じものを食べても、太っている人ほどより多くの栄養を吸収するのです。つまり、“太っているほど太りやすい”という悪循環が起きているわけです。
腸のために、糖質をゼロにしてはいけない
腸内環境を整えるにあたり、糖質制限で見落としてはいけない大切なことがあります。
ご飯やパン、麺などの糖質を急激に減らすと腸の運動が低下してしまうことが実験的に証明されているのです。人体にとって、急激に、入ってくる栄養が少なくなると、少ない食事から栄養を吸収しようと、腸内に長く食べ物をとどめようとするからでしょう。
だから、糖質をゼロにしてはいけないのです。糖質を減らした重さ以上の野菜を食べて食物繊維を十分に摂ること、そして減量中こそ水分をたっぷり摂ることが、便秘を予防するうえで大切です。
とくにおすすめの腸活食材は、キャベツ、納豆、ヨーグルト、大根、山いも、みそです。ぜひ、食卓に取り入れてみてください。
看護師をはじめ、シフト勤務の方々は、どうしても不規則な食事時間にならざるをえないですね。こうしたケースでは、どうやって日々、規則正しくできるかを、患者と一緒に考えることが多いです。
例えば、お昼に出勤するときは、その前に昼食をとる。帰りが深夜なら、帰宅後には食事はとらず、勤務中の休憩時間に食べるようにするなど、できる範囲で毎日の食事時間を同じようにすることをアドバイスしています。
また、勤務時間帯から野菜をとりにくい患者も多いので、野菜スープなどの簡単な料理法もお伝えしています。
空腹は肝臓から脂肪を減らすチャンス
お腹が空いたとき、「あーつらい。食べたい……」と思いを巡らせるか、「あー、今、私の脂肪が減っている。肝臓も喜んでいる」と喜びにつなげるかで、ダイエットのモチベーションは大きく変わるのではないでしょうか。これは、考え方の問題ともいえますが、実際に空腹がもたらす効果を知ることで、患者の受け止め方に変化が現れています。
細胞のエネルギー源となるのはブドウ糖ですが、血液中のブドウ糖濃度は100mg/㎗に保たれています。細胞のエネルギーとして使われなかったブドウ糖は、いくつも合わさって「グリコーゲン」という糖質になり、肝臓と筋肉に蓄えられます。そして、筋肉を使うと筋肉内のグリコーゲンがエネルギーとして使われます。
一方、空腹になると、肝臓内のグリコーゲンが分解されてブドウ糖になり、低くなった血糖濃度を維持しようとします。空腹で肝臓のグリコーゲンを使い始めるときに、脂肪がエネルギーに変換されるスイッチが入るので、このスイッチを逃して食ベてしまうと、体内の脂肪がエネルギーに変わることはなくなってしまうのです。
なぜなら、食事で摂る糖質が少なくなると、脂肪やタンパク質から糖を生み出す「糖新生」という仕組みが人体にあります。この働きは肝臓で行われていて、脂肪を減らすという意味でも有効です。
体に糖が十分足りていれば糖新生は起こりませんが、グリコーゲンを完全に枯渇させなくても、グリコーゲンからブドウ糖への変換が起こることが刺激になって、脂肪や筋肉から糖が作られ始めます。つまり、脂肪が分解されて減っていくということです。
少し専門的になりますが、もう1つ、空腹がもたらすメリットがあります。糖尿病でない人の場合は、糖新生が行われるときに脂肪が分解されて生まれる物質「ケトン体」は、糖に代わって体を動かすエネルギーになります。
ケトン体についてはいろいろな研究が進んでいて、ケトン体をエネルギー源にすると、「集中力」や「持続力」が増すという報告も。スポーツ界でも注目されるなど、その有用性が認められつつあります。
がんばらなくてよい減量法を求めて…
肝臓をいたわる食べ方のコツは、まずは3食のうち1〜2食をマンネリ化してみることです。
バランスを考えて作って食べるのは、1日1食だけ。残りの食事は、野菜たっぷりの宅配弁当や、前日のみそ汁に豆腐と卵を加えた具だくさんのみそ汁などと固定してしまうのです。続けるためには、がんばりすぎないことがとても大切です。
そして、脂肪肝を改善するのに、遅すぎることはありません。もし、一度目はうまくいかなくても、いつからでも、何度でも、再スタートすればよいのです。
肝臓には、それを受け止めるだけの再生力があります。一生続けられる、無理しない肝臓のいたわり方を知り、多くの方が健やかな肝臓で過ごされることを願っています。