心から笑うことがない、気づくとため息ばかり。
そんなストレスフルな日々を解放するセルフケアを教わりました!
こんなことありませんか?
□ 夜、寝られない
□ 食欲がない
□
やる気が出ず心が重い
□ 涙がとまらなくなる
□ うまく笑えない
□ 死にたいと思うことも
「女性の50代は、体調も心も揺れ動くころ。仕事の責任も重くなり、家庭でも親の介護や子どもの独立など、変化の多い時期でもあります」
伊藤絵美さんは、カウンセラーとして30数年、心の悩みや問題を抱えた女性たちに伴走してきた。病院にかかるほど深刻ではないが、体調不良が続き、気分も晴れないなら、知らないうちにストレスを抱えているのかもしれない。
「まずは自分がどんなことを感じているのか、心を覗くようにセルフモニタリングしましょう。
それを友だちや家族に聞いてもらう、カウンセラーやかかりつけ医に話す、紙に書いてみる、SNSに投稿するなど、心の中を明らかにすることを心理学専門用語で〈外在化〉といいます」と、伊藤さん。
同じ職場、同じような境遇で仕事をしていても、ひどくストレスを感じる人もいれば、まったく平気な人もいる。このような個人差は、幼いころからの思考のクセや偏りによるもので、これを「スキーマ」という。
日本のスキーマ療法の第一人者である伊藤さんは、「18のスキーマのうち、代表的な9つを紹介します。自分にあてはまるもの、近いものはどれか。自分自身のスキーマに気づけたら、対処法も見つかりやすい」と説明する。
自分の思考のクセ=スキーマを受けとめて、ストレスに対処する方法を考え、セルフケアする「コーピング」に取り組むと、効果も出やすくなる。
「コーピングを試してうまく折り合いをつけられるようになれば、ストレスからも解放されて心も少し軽くなるはずです」
大上段にかまえずに、深く息を吸ってゆっくり吐くだけでも、それがコーピングになる。
「自分の心に棲む幼いころの私と対話するのも、コーピングです。〈えみちゃん、今日は何が食べたい?〉と問いかけると、無邪気に答えてくれますよ」
〈 40代・50代女性が抱えるストレス 〉
●仕事
上司と部下のあいだで板挟みになったり、オーバーワークで心が悲鳴をあげたり。キャリアの長さに比例して大きな重圧になることも。
●家族
夫の無理解、年老いた親の介護や見守り、きょうだいとの確執、子どもの不登校など、"家族"だからこそ、悩みが深まりやすい。
●環境
地方移住、子どもの独立、介護同居など、環境が変化するタイミング。新しい環境になじむまでは、孤独になりがちで心に負荷が。
●体調
更年期、閉経期の女性の体は嵐のよう。心がついていかず、うつ症状が続くことも。休息をとりつつ心のサインも見逃さないで。
●将来
仕事はいつまで続けるか、住まいはどうするか、お金は不足ないか、大きな病気になったらどうしようと、老後には不安がつきない。
ストレスの背景、スキーマについて知ろう。 あなたの心のクセはどれ?
ストレスを深掘りすると、幼いころの生活環境による「早期不適応的スキーマ」にたどりつく。
代表的な9つのタイプのスキーマのうち、どれが自分にあてはまるか気づくことで対処法が見つかりやすくなる。
「誰もわかってくれない」タイプ
人は誰しも「理解されたい、愛されたい、守られたい」という欲求がある。それが満たされるのは、親から無償の愛情を注がれたからこそ。
「自分は理解されている、愛されている」という安心感がないまま育つと、「わかってもらえないスキーマ」が形成される。大げさな愛情表現をしたり、求めたり、あるいは誰に対しても距離をとろうとするのは、このスキーマからくる思考と行動だ。
「ひとりでは何もできない」タイプ
責任ある仕事をまかされるのが不安、指示がないと動けない。プライベートでも、ひとりでカフェに入れず、どの店でランチを食べるかも決められないなど、ささいな判断も人まかせ。
これは「無能・依存スキーマ」のしわざで、たとえば、幼いころ親から過剰な保護や干渉を受けて育った結果。課題を先送りにしたり、「自分には無理」とあきらめがち。一方で自己解決を急ぎすぎることもある。
「どうせうまくいかない」タイプ
「どうせわたしなんてダメ」「どうせうまくいかない」と、「どうせ」が口グセになっている人は、「否定・悲観スキーマ」を持っている人。
心配性、マイナス思考の超強力版で、行動は消極的。新しいことに取り組む意欲もうすく、現状維持を強く望んでいる。やる気になっている人に対して「どうせムダ」と水を差してしまうのは、楽観的で明るい性格の人をうらやむ気持ちの裏返し。
「ダメな自分が恥ずかしい」タイプ
幼少期に「こんなこともできないのか」「おまえはダメだ」と、頭ごなしに蔑まれたり、優秀なきょうだいと比較され続けた人は「欠陥・恥スキーマ」が形成されがち。自分はダメな存在という思い込みと、こんな自分が恥ずかしいという自意識が複雑に絡み合う。
ダメな自分を隠そうと極度に失敗を恐れるか、実際以上に自分を大きく見せようと自慢したり、尊大にふるまうことも。
「自分は変わり者だ」タイプ
人と同じようにしているつもりが、気づくと「変わり者」扱いされる。その結果、「世界で自分だけが孤立している」とイメージしてしまうのが、「孤立スキーマ」。
このスキーマを持つ人の思考パターンは「なぜ、変わり者と思われるのだろう」「自分の居場所はどこにもない」「世界中の誰とも交われない」「仲間外れにされている」など。自分が変人だと苦しんでいることもある。
「自分は特別な存在だ」タイプ
根拠のない自信にあふれ、自己愛が強く、自分だけ特別扱いされるように要求し、それがあたりまえのようにふるまう人は、「オレ様・女王様スキーマ」の持ち主。
人を見下す言動や、ルールを守らない社会性のなさは、幼少時代に親から甘やかされ、自分の要求は通ることが当然として育った代償かもしれない。自分より強い存在には卑屈になり、本心では恥じていることも。
「自分が犠牲になればいい」タイプ
いつも自分のことは後回しで、誰かが苦しんでいるのを見過ごせない。それで問題が解決するなら自分が犠牲になっても仕方ない。みんなが喜んでくれるなら幸せと、あらゆる面で他人を優先してしまう人には、「自己犠牲スキーマ」が潜んでいるかも。
このスキーマは、幼いころに本来は背負うべきではない責任を押しつけられたせい。ヤングケアラーなどもこのタイプにあてはまる。
「完璧でなければならない」タイプ
ストレスを抱えがちな人の典型が、この「完璧主義的スキーマ」タイプ。いつも眉間にしわを寄せて、「70、80%ではダメ、100%でないと意味がない」と、自分を追い込んでいく。
「べき」「べきじゃない」という口調がクセになっていて、自分も周りもピリピリさせてしまう。完璧を自分に課すと、できなかったことばかりに目が向き、心身ともに疲れ果ててしまうことになる。
「もっともっとほめられたい」タイプ
「ほめられたい」という気持ちは、承認欲求のひとつ。生まれつき人に備わっている欲求で、好きな人に「すごいね!」とほめられるのは、人を動かす原動力にもなる。
SNSの「いいね」もほめられ欲求を満たしてくれるが、いきすぎて「人の評価がすべて」になると、「ほめられたいスキーマ」タイプかも。常に他人の評価に一喜一憂していると対等な人間関係は築きにくい。
ストレス対処法、コーピングに挑戦してみよう。
ストレスをそのままにしないで、意図的に対処することを「コーピング」という。アメリカの心理学者リチャード・S・ラザルスが考案し、’80年代に広まった心理学専門用語。
「体調の変化や気分の変化など、ストレスに気づくことが、コーピングのとっかかりになります。
自分に問いかけて、何が不快なのか、どんなときにしんどくなるのかを細かく書き出します。大切なのは、いいのか悪いのかジャッジしないこと。ありのままの気づきを受けとめてください」と伊藤さん。
心がくたびれていても、自分のことは後回しになりがちだが、
「そういうときは、セルフコンパッションといって、ほかの人が苦しんでいるときにどうするかを思い浮かべます。体調が悪そうな人を見かけたら、大丈夫?と声をかけていたわるでしょう。
同じように自分のことを思いやってあげてください」
ストレスを書き出して可視化できたら、心を落ちつけるセルフケアや具体的な対処法をリストにしよう。
「ネイルを塗り替えるのも気分が上がるし、公園を散歩するだけでもいいのです。とはいえ、ストレス発散しようとショッピングで散財すると、さらなるストレスになるので要注意」
まずは今の自分のストレスに気づくことが第一歩に。「自分に問いかけて、具体的に書き出します。
ストレスの原因が苦手な相手なら、『批判的な口調が気に入らない』『タバコ臭い』『卑屈な性格にうんざり』など、その人のどんなところがストレスなのかを具体的に箇条書きにします。できるだけ正直に、思ったままでかまいません」
(例)
・部長はいつも気に入らないことがあると怒鳴る。
・混み合った電車で人の体臭が気になる。
・会社の同僚が、誰かの悪口で盛り上がっている。
・片づけても片づけても、部屋が散らかる。
・義実家の駅が近づくと、鼓動が速まる。
・ハロウィンやクリスマスのイベントが憂鬱。
[書き出してみよう]
気持ちが楽になる、落ちつく方法をリストにしてみよう。
自分だけのコーピングレパートリーを日々更新しておきたい。
何がストレス? 自分の心を見つめて書き出そう。
自分が抱えているストレスをモニタリングして書き出せたら、思いつくコーピング(セルフケア法)をリストにする。「お気に入りのぬいぐるみを抱っこするのもいいし、花を買うのもいい。これをすれば気分が落ちつく、安心するという方法を書き出して」と伊藤さん。自身もリストを紙に書いてクリアファイルに入れ持ち歩いているそう。
(例)
・肌ざわりのいいブランケットにすっぽり包まれる。
・ラベンダーやフランキンセンスのアロマオイルをたく。
・近所の花屋さんで花と植物を眺める。
・ずっと欲しかった時計やジュエリーのことを思い浮かべる。
・ちょっと上等なアイスクリーム(バニラビーンズ入り)を食べる。
・もし、推しのあの人がわが家にやってきたら、と妄想する。
・スーツケースとパスポートと世界地図を広げて旅の予定を立てる。
[書き出してみよう]
対処法を考えて、書き出してみる。
ストレスが外在化できたら、次のアクションはそのストレスへの対処法を考えること。「散らかった部屋がストレスなら、片づけを外注してもいいし、上司の存在がストレスなら、異動願いを出してもいいと思います。人間関係のストレスは相手との距離をとることがいちばん。やんわり断り、フェイドアウトできるように」(伊藤さん)
(例)
・部長よりも上位職に相談して、異動できるよう交渉する。
・会社の産業医に面談を申し込む。
・夫への不満を箇条書きにする。
・通勤時には好きなアロマオイルを数滴つけたコットンを持ち歩く。
・「子どもは子ども、私は私」と、心の中で唱える。
・義実家に行く回数を減らし、行くときは夫から時給をもらう。
[書き出してみよう]
自分の周りのサポートネットを可視化しよう。
ストレスを抱えたとき、あなたの話を親身になって聞いてくれる人、あいさつだけでもかわせる人、リアルには話せなくても心の支えになってくれる人やペット、いざというときに相談できる場所など、あなたのサポートネットワークを図にしてみよう。孤独に打ちひしがれそうなときも、〝お守り〟のように手帳などに挟んでおくと安心。
[以下、それぞれを書き出してみよう]
私 → 仕事上で話せる人は?
私 → 癒やしてくれるペットや動物は?
私 → SNSで繋がっている友人は?
私 → 思い浮かべると元気が出る推しは?
私 → 今は亡き大事な家族や恩師は?
私 → かかりつけの病院のスタッフは?
私 → 挨拶したことがあるお店の人は?
(こんなときは、要注意。)プロの手に助けてもらおう。
「『眠れない、食べられない、死にたい』、この3つがあるときは緊急度が高いので、一刻も早く医療機関に相談してください」と伊藤さん。
心療内科や精神科の敷居が高いなら、かかりつけ医に相談して紹介してもらうか、薬を処方してもらうこともできる。
そこまで緊急ではなくても、不安が治まらないときは、カウンセリングが受けられる機関に相談しよう。
「内科医以上に心理系の医師やカウンセラーとは、相性の良し悪しが分かれます。『合わないな』『ろくに話も聞かずに薬だけ処方されて不安』というときは、遠慮しないでほかの医療機関をあたっていいのです」
[近隣の病院や心理カウンセラーのほか、電話相談も有効。]
・いのちSOS(特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク)
TEL.0120・061(おもい)・338(ささえる)(通話料無料)
日・月・火・金・土曜0時~24時、水・木曜6時~24時※
木曜6時~火曜24時は連続対応
・よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)
TEL.0120・279(つなぐ)・338(ささえる)(通話料無料)
岩手県・宮城県・福島県からは TEL.0120・279(つなぐ)・226(つつむ)(通話料無料)
24時間対応
・いのちの電話(一般社団法人 日本いのちの電話連盟)
TEL.0120・783(なやみ)・556(こころ)(通話料無料)
毎日16時~21時※毎月10日は8時~翌11日8時
IP電話(アプリケーション間の無料通話を除く)からは TEL.03・6634・7830(通話料有料)
ナビダイヤル受付センター TEL.0570・783・556 10時~22時
伊藤絵美 さん (いとう・えみ)
公認心理師、臨床心理士、精神保健福祉士
洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長。スキーマ療法やコーピングなど、心理的セルフケアを説く著書多数。https://stress-coping.com/
『クロワッサン』1104号より