■胃のもたれ、機能性ディスペプシアとは?
食後に胃が重く感じる、胸焼けがするなどのいわゆる「胃もたれ」と呼ばれる症状にお悩みの方はとても多いのではないでしょうか。ここでは生理学的な観点と東洋医学の観点から胃もたれについて考え、症状の改善・予防法についてご紹介していきます。
胃もたれの症状に悩む方が上部消化管内視鏡検査などを行っても内蔵自体の異常が発見されないことが多々あります。こうした場合、近年では「機能性ディスペプシア」という診断をされることが多くなっています。
以前であれば神経性胃炎や慢性胃炎という診断名がつけられることが多かったのですが、胃炎があっても症状がないことや、逆に症状があるのに胃炎がないことなどがひんぱんに見られるなど、胃のもたれに対し統一した見解を得られていませんでした。
こうした問題を解決するために、症状があってもそれを説明できる異常がさまざまな検査において認められない場合、胃の炎症の有無に関わらず機能性ディスペプシアと診断するようになったのです。
■胃のもたれの原因は?
この機能性ディスペプシアですが、心窩部痛・心窩部灼熱感・もたれ感・早期飽満感の4つの症状のうち1つ以上を慢性的に感じながら、消化器自体に異常が認められないものとされています。ではこれらの主な原因はなんなのでしょうか?
まず消化管の運動機能が低下が考えられます。こうなると胃に入ってきたものが腸に送り込まれるまで時間がかかるようになり、胃のもたれや膨満感を強く感じるようになります。
さらには食物を受け入れる際に胃が拡張する機能が働かなくなり、胃の内圧が高くなりやすい状態になるため、食べてすぐに胃が張ってしまい上腹部痛や胃の不快感などの原因にもなります。
さらに胃の内圧が上昇することで胃壁は引き伸ばされますが、こうした刺激が繰り返されることで機能性ディスペプシアを有する方は胃の痛みに対する知覚の閾値(いきち)が低下する傾向があることがわかっています。
さらに忘れてはいけない因子がストレスです。近年ではあらゆる身体の異常をストレスのひと言で説明しようとする傾向があり、さらにそうした傾向に対し批判的な方も多いように感じますが、ストレスと内蔵の関わりは生理学的にきちんと説明できるものです。
機能性ディスペプシアの患者の場合、パニック症候群と同程度の社会的ストレスを受けていたこと、そして心理的状態としてはうつ的要素あるいは不安的要素が強いことが報告されています。
こうした心と身体の関わりはストレスホルモン(副腎皮質刺激ホルモンと副腎皮質刺激ホルモン放出因子)によって引き起こされていることがわかっています。
この2つのホルモンは、なんらかのストレスを心と身体が受けると放出され、胃の働きを抑制し大腸の働きを活性化させます。また、ストレスにさらされたときには副腎髄質からアドレナリンが放出されますが、このときには内蔵への血流が低下するため消化機能は抑制されます。
こうしたことから考えると、胃のもたれの背景にはなんらかのストレスが潜んでいると考えられそうです。
仕事のプレッシャーなどによる精神的な負担ももちろんですが、食べ過ぎや偏食などによって起こる身体への負担、運動不足や寝不足など生活リズムの不全から発生するものなど、さまざまな原因がストレスとして考えられます。今一度ご自身の生活を振り返ってみることが大切だといえるでしょう。
■胃もたれの改善はストレスのスパイラルからの脱出がカギ
前述のとおり、胃もたれにはストレスが深く関与していると考えられます。ストレスが身体に加わったとき、人間は身体を丸める動きをとりやすくなります。たとえば胃が痛いときには自然と身体を丸めますし、机の角に小指をぶつけたときも基本的には身体を丸めるでしょう。
これは屈曲反射といって、何らかの身体を脅かすような事象に対して、身体を丸め防御しようとする原始的な反射によるものです。このときに強く働く筋肉を考えてみると、お腹の筋肉である腹直筋が挙げられます。
腹直筋は下部の肋骨から骨盤帯まで走行している幅広い筋肉であり、姿勢の保持や腹腔内圧の調整に深く関与しています。
ここでひとつ試してみていただきたいのですが、何かストレスを感じる状況を想像してみてください。このとき、お腹を触ってみるとどうでしょう?
腹筋運動をしているわけではないのに勝手に力が入っていることを感じる方が多いのではないでしょうか? これは外からの刺激に対して屈曲反射が現れている状態と考えられますが、知らず知らずのうちにこうした筋緊張の高まりが身体に起きているわけです。
この腹直筋は体幹を曲げる役割をしていますが、持続的に働くと身体を丸めた、いわゆる不良姿勢を呈するようになります。こうなると内蔵が圧迫され、血液循環が低下するなどの状態が身体に発生し、結果として胃腸にストレスを与える原因となるという、負のスパイラルが発生してしまうのです。
■胃もたれの改善に効果的なツボ
こうした身体の状況を改善するためには、腹直筋をリラックスさせるツボが効果的と考えられます。
・建里(けんり)
建里(けんり)は腹直筋上に位置し、へそとみぞおちのちょうど真ん中から親指の太さ1本分下にあります。東洋医学では胃腸の養生のために利用されています。痛みを感じない程度に優しくマッサージをしてみましょう。
・天枢(てんすう)
へその外側、親指の太さ2本分のところにある天枢(てんすう)。こちらも腹直筋上にあり、同様に胃腸のあらゆる症状に効果的とされています。同じく痛みを感じない程度にマッサージしてみましょう。
これらのツボを押した後に、ゆっくり鼻から息を吸い、口から吐き出してみると、呼吸がしやすくなっていることを感じられると思います。腹式呼吸がストレスを和らげる効果があることはよくいわれていますが、こうしたツボを使いお腹の筋肉を緩めることで、腹式呼吸が行いやすくなり、さらにその効果が増すと考えられます。
もちろん医療機関で適切な診察を受けることも大切ですが、こうしたツボを利用して身体の状態を少しでもよくしてあげることも症状を改善するうえでは大切なのではないでしょうか。