眼科の専門医が「よく見えるメガネを使うべきではない」と断言する理由 | ~たけし、タモリも…「1日1食」で熟睡&疲れナシ~

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メガネが体調不良の原因となることがある。NHKディレクターの大石寛人さんは「4万人以上の患者を診てきた眼科医の梶田雅義さんによると、患者の7割はよく見えすぎている“過矯正”のメガネをかけている。過矯正は視力に悪影響があり、頭痛や吐気などの体調不良の原因にもなる」という――。

 

※本稿は、大石寛人、NHKスペシャル取材班『子どもの目が危ない「超近視時代」に視力をどう守るか 』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです。

 

メガネから来る不調で仕事を辞めた女性も

聞いているだけでつらくなるような相談もある。

「目の状態が本当にひどくて目が開けられない。毎日、めまいとか偏頭痛とか耳鳴りがします。年末くらいから症状がどんどん悪化して、ひどい時は1日寝込んで立ち上がれないような状態です。

 

仕事も休職しないといけないほどになってしまって……」(40代女性)

 

最後の女性はパソコンを使った事務の仕事をしていた。だが、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった頃から、目の不調がみるみる悪化し、仕事を休職するまでに追い込まれてしまったのだという。

 

また、撮影は遠慮してほしいと言われたものの、話だけならと、ある20代の女性は次のような話をしてくれた。

 

「専門学校を卒業して、映像を制作する会社に就職しました。画面が見えづらくなったのでメガネをかけ始めました。最初の頃は視力も1.5と快調でよく見えていたのですが、段々頭痛や吐き気がひどくなってきて……。

 

色々な病院を回って、脳のMRIをとっても『異常なし』と言われてしまい、仕事もやめて引きこもり状態に。もう死にたいと何度も思いました」

 

しかし、その話の最後に聞いたのは意外な言葉だった。

「それがいまでは、自分にぴったりのメガネをかけることで気持ちも前向きになり、再就職の面接まで受けられるようになりました。信じられません」

 

じつはこの女性は、梶田さんの診療所を受診した結果、「メガネがおかしい」と指摘されたのだそうだ。メガネの合う/合わないが、「人生を変える」と話していた梶田さん。その言葉は、決して誇張ではなかったのだ。

患者の約8割は「合わないメガネ」をかけている

梶田さんは「来院される方で、合わないメガネをかけている方は、全体の8割から9割に及びます」と言う。

梶田さんの診療所には目の不調を訴える患者が多いので、一般の割合より高くなっているのかもしれないが、それでも驚くべき数字だ。梶田さんが特に気をつける必要があると話すのは、度数の強すぎるメガネ=「過矯正」のメガネだ。

 

じつは過矯正が引き起こすのは、眼精疲労だけではない。過矯正のメガネが、近視を進行させるリスクを増大させてしまうことも明らかになってきているのだ。

 

度数的に「ちょうどよくつくるか」「やや弱めにつくるか」という問いに対しては、いまだに議論が続いているものの、「過矯正は避けるべき」との結論はすでに出ている。

 

とりわけ眼精疲労を引き起こすという観点からは、過矯正は避けるべきとされている。しかし、梶田さんを訪れるメガネが合っていない人のうち、およそ7割以上が、過矯正だという。なぜ多くの人は目に「よくない」とわかっている過矯正のメガネを選んでしまうのだろうか。

過矯正を生み出している「超近視時代」

「どうして過矯正を選んでしまう人がこれほど多いのか」。この疑問は、じつは私たちが抱く「よい目」というイメージと密接に結びついている。

 

パソコン、タブレット、スマートフォンなどの「デジタルデバイス」が急速に普及していることからわかるように、目とモノとの距離が、30センチ以内の「近業」をする機会が増加している。

 

みなさんがこの1週間を思い出してみて、近業をしなかった日はあるだろうか。私たちは、まさに超近視時代を生きている。

 

にもかかわらず、どうしてわざわざ近くのモノを見ると疲労が蓄積してしまう「過矯正」のメガネをかけた(コンタクトレンズをつけた)人がこんなにも数多く存在するのだろうか。よくよく考えてみると、時代と逆行しているように感じないだろうか。

 

その理由の一つは、超近視時代「なのに過矯正」、ということではなく、超近視時代「だからこそ過矯正」になってしまっているという実情だ。どういうことか。

 

じつは、先に紹介した梶田さんの「診療所を訪れるメガネが合っていない人のうち7割以上が過矯正」という話には、ある注釈が必要だ。それは、「生活スタイルを考えると、過矯正の状態の人を含む」というもの。

 

つまり、かつてのライフスタイルであれば適切だったメガネの度数も、近業が増加したこの超近視時代においては、その度数が「過矯正」と同じ状況を生んでしまう、ということなのだ。

生活スタイルの劇的な変化にメガネが追いついていない

第1章で説明した通り、目とモノとの距離が近くなればなるほど、焦点は網膜の奥へとずれてしまう。ある程度、距離が離れているものを見ているならば、その度数で焦点が網膜上に来るものが、近業を行うことで目の奥に行きすぎてしまう、というように。

 

要するに、遠くがよく見えるメガネは、こんなに近くを見続けることのなかった時代が基準になっているのだ。

 

生活スタイルが劇的に変化しても、この基準がアップデートされず、多くの過矯正状態を生んでしまっているということなのだ。梶田さんは、この状況について次のような表現をしている。

 

「すごく過酷な時代です。これまで人類が誰も経験したことがないほどの近い距離に、長時間ピントを合わせなければいけない環境ができてしまっているのです」

 

梶田さんの話を聞いて、「なるほど」と思わず膝を打ったもう一つのキーワードが「視力信仰」だ。視力検査で「視力1.0」と診断されたことがある人なら、どこか誇らしい気持ちになった記憶がないだろうか。

 

少なくとも、私はある。かつて、中学1年生の頃、視力1.2なんて言われると「100点満点で120点」と言われたような気持ちになったのを思い出す。しかし、私たちは大事なことを見落としていたのかもしれない。

 

そもそも「視力」とは何だろうか。じつは視力にはいくつかの種類があるのだが、私たちが話題にする「視力」は、「遠見(えんけん)視力」と呼ばれるものだ。つまり、「遠くがよく見えるかどうか」という指標だ。

 

私たちは、近業が増えたこの超近視時代にあって、いまなお遠くがよく見えるかどうかという指標のみで、目のよし悪しを決めてしまっているのだ。

「遠くがよく見えるように」を基準にしてはいけない

取材の過程で、歴史的な視力検査の写真を調べたところ、第二次世界大戦下の徴兵検査の一場面を映した写真が見つかった。

 

ふんどし姿で視力を測る青年たち。確かに、戦地で遠くが見えることは非常に重要だったに違いない。さらに歴史を遡ると、かつてアラビアでは優秀な戦士を選ぶ試験として、北斗七星を使った検査をしていたらしい。

 

北斗七星の「柄」のほうから2番目の星「ミザール」のすぐそばに、暗くて小さい「アルコル」という星がある、この2つの星を見分けることができるかどうかをテストして、優秀な兵士を選抜していたらしい。

 

「戦争」において、いかに遠くが見えることが有利と考えられてきたかがわかる。しかし、現代では運転時や駅の表示を見る時などを除き、基本的に近くを見ている。

 

にもかかわらず、遠くを見る能力を示す「遠見視力」が目の指標としてそのまま使われ、過信されてきた結果(もちろん遠見視力検査は重要な検査ではあるのだが)、メガネを購入する際に「遠くがよく見えるように」つくってしまいがちになっている。

 

度数を強くすれば、より遠見視力は上がり、遠くをよく見ることができるようになる。当然、視力検査の結果は1.0以上など、満足のいく結果になるだろう。しかしその反面、焦点は必要以上に目の奥へずれてしまい、特に近くを見る際、眼精疲労だけでなく、近視をさらに進行させてしまうリスクまで高めてしまっている可能性がある。

結果的に過矯正のメガネを購入してしまう消費者

読者のみなさんは、こうした状況を知りながら、過矯正のメガネを売る販売店や、処方箋を出す眼科医はけしからんと思われるだろうか。

 

確かに、そうかもしれないが、取材に応じてくれたメガネ販売店のあるスタッフは、「お客様から、『せっかく買ったのに、実際にかけてみたら、遠くがよく見えないじゃないか!』と、購入後にクレームをいただくこともあります」と言っていた。

 

つまり、これはメガネを処方したり販売したりする側だけの問題ではなく、どんなメガネを――もっと言えば、どんな見え方を――私たちが求めるか、という問題でもあるのだ。

 

梶田さんは、この問題について、「メガネを処方したり販売したりする側にも、意識しないといけない点はたくさんありますが、メガネを購入するみなさんの意識が変わらなければ、絶対に解決しない問題だと思います」と話した。

 

 大石 寛人(おおいし・ひろと) NHKディレクター 筑波大学大学院数理物質科学研究科修了後、2011年にNHK入局。広島局・福井局を経てNHK制作局・第3制作ユニット(科学)番組ディレクター。NHKスペシャルやクローズアップ現代、ガッテン!、サイエンスZEROなどの番組を担当し、「防災」「原子力」「近視」などのテーマを中心に取材。著書に『子どもの目が危ない「超近視時代」に視力をどう守るか』(NHK出版新書)がある。