単純な引き算では「痩せられない?」
「若い頃のようには痩せにくくなった」と感じる人は多いのではないでしょうか? 年齢と共に体重が落ちにくくなる主な要因としては、加齢による基礎代謝量の低下や、活動量そのものの低下などが考えられます。
今の体型を維持し、体脂肪を増やさないようにするためには、食べものなどから得られる摂取カロリーと、体を動かすことなどによって使われる消費カロリーのバランスをとることが大切です。なお、ここでの「カロリー」とはエネルギーの単位を表します。
若いころに比べて体を動かさなくなったという人は、消費カロリー(活動量、運動量など)や摂取カロリー(食事量や食事内容など)を一度見直してみる必要があるでしょう。
たとえば活動量が減って消費エネルギーが少なくなっているのに、食べる量や内容があまり変わっていなかったとしたら……。摂取エネルギーが多くなり、余ったエネルギーは体脂肪として体に蓄積されてしまいます。
エネルギーの収支は単純な引き算によって求められますが、一方で収支のつじつまを合わせようと、あわてて食事量を減らしたり、過度な糖質制限などをしても、その分体脂肪が減るということにはなりません。
極端な食事制限を続けると体脂肪だけではなく筋肉なども分解されてしまったり、カロリー不足の体に適応して基礎代謝量が減ってしまったりするからです。
痩せやすい体に近づく方法は? 3つの消費エネルギーからアプローチ!
人が消費するエネルギーは、体を動かさなくても自然に消費される基礎代謝、運動によって消費される活動代謝、食事をしたときに消費される食事誘発性熱産生の3つに分かれます。このうち、総消費エネルギーの約6割を占めるのが基礎代謝です。
基礎代謝とは睡眠時など体を動かしていない状態の時であっても、生命を維持する活動(たとえば体温を保つ、呼吸をする、心臓を動かすなど)に必要なエネルギーのことを指します。
活動代謝とは文字通り、体を動かすことによって消費するエネルギーのこと、そしてあまり聞き慣れない食事誘発性熱産生とは、食事をした後に消費されるエネルギーのことで一日に消費されるエネルギー量の1割程度を占めるものです。
安静にしていても消費されるこのエネルギーは胃腸での消化吸収時や、肝臓などで栄養をエネルギーに変換するとき、またエネルギーの元となるブドウ糖をグリコーゲンに変えて筋肉や肝臓に蓄えるときなどに使われます。
エネルギー収支から考えると、生活習慣や運動習慣の見直しによる基礎代謝や運動量を増やす活動代謝、それに加えて食後に消費される食事誘発性熱産生という3つの消費エネルギーを高めることが「痩せやすい体」に近づくポイントともいえます。
「よく噛む習慣」で食事誘発性熱産生を増やす
「痩せたいから」といって食事量を極端に減らしたり、食事を抜いたりすると、食事誘発性熱産生から得られる1割程度の消費エネルギーを失うことになります。これでは本末転倒ですよね。
皆さんも食後は体がぽかぽかと暖かく感じることがあると思いますが、これは食事誘発性熱産生によるものです。まずは体を維持するために必要となるエネルギーを食事からしっかりと摂るようにしましょう。その上で、ぜひ心がけてほしいことが「よく噛む」習慣です。
また、あまり噛まずに食事をしてしまうと、満腹感を得るまでに時間がかかってしまい、ついつい食べ過ぎてしまったり、食べたのに満足感が得られなかったりすることが起こります。しかし、よく噛む習慣をつければ過食も防げ、食事誘発性熱産生を高めることができるのです。
あまり噛むことを意識していなかったという人は、一度自分が食べものを口にしてから何回咀嚼しているかをチェックしてみるといいでしょう。
「一口30回」が目安とされていますが、普段の咀嚼回数の少なさにビックリするかもしれません。よく噛むことに慣れていないときはまず食事を「よく味わって食べる」ことから始めてみるのもいいですね。
体脂肪を燃焼させるには、運動だけではなく、食事をよく噛むことによっても消費エネルギーをアップさせることができます。小さな行動の積み重ねで太りにくい体に近づきましょう。
■参考
・ゆっくり食べる(農林水産省)
・食事誘発性熱産生(e-ヘルスネット/厚生労働省)
・よく噛んで、ずっと元気に!(全国健康保険協会)
▼西村 典子プロフィール
20年以上に渡り、スポーツ現場でのトレーナー活動に従事する日本体育協会公認アスレティックトレーナー。NSCA公認ストレングス&コンディショニング・スペシャリスト。選手へのトレーナー活動だけでなく、幅広い年齢層を対象としたストレッチ講習会やトレーニング指導経験も豊富。スポーツ傷害予防や応急処置などの教育啓蒙活動も行い、毎日の健康づくりに役立つ運動に関する情報発信を精力的に行っている。