我々にとってお馴染みのカビは「真菌」と呼ばれる微生物で、酸素と栄養、それなりの温度と湿度がある環境であれば、どこにでも発生する。
これから夏に向けてはとくに、真菌などの微生物を吸い込むことが増え、決まって風邪のような症状に悩まされる人が多くなるという。東京都立多摩総合医療センター呼吸器内科の担当医は、こう説明する。
「私が診察した患者さんでは、自宅に水漏れがあったり、日当たりが悪かったり、川が近くにあるといった環境にいる人に罹患者が多く見られました。
加えて、ホコリの多い倉庫で仕事をしている人や、古い家電製品を珍しく掃除したときにも、大量のカビを吸い込む。とくに高温多湿の環境の場合は、カビの仲間のトリコスポロンという菌が増えるのですが、これらを吸い込むことで咳や発熱を引き起こし、
肺の奥にまで達してアレルギー反応を起こすこともある。肺全体が炎症を起こすため、呼吸困難に陥りやすくなるのです」
自宅を離れるといったん症状が治まり、再び戻るとまた再発する――そんな状態の場合、「夏型過敏性肺炎」と診断される。
トリコスポロンなどのカビは、肉眼では見えない。形で言うなら卵型で、菌糸を伸ばさない酵母の一種(胞子)。腐った木などによく生え、畳やカーペット、寝具などを温床にすると言われ、完璧に避けて生活するのは難しい。
しかし、少しぐらいであれば吸い込んでも問題はないものの、吸引を繰り返していると体内に抗体が作られ、前述のようにアレルギー反応を起こし、様々な症状が出る。
都内総合医療クリニックの久富茂樹院長は、そうしたアレルギー性肺炎を起こすカビについて、こう説明する。
「夏型過敏性肺炎は30~50歳代に多く見られ、アレルギー性肺炎を引き起こすカビはトリコスポロン以外にもあります。
代表的なものとしては、黒カビの一種(クラドスポリウム)、青カビ(ペニシルウム)、コウジカビ(アスペルギルス)の三つがある。
中でも注意が必要なのは、アスペルギルスによるアレルギー性気管支肺炎。自然界で最も一般的に見られ、その胞子は至る所に存在するからです。パンなどの食品にも発生し、それを気付かずに食べてしまうと罹患してしまいます」
別な専門家によると、コウジカビによる症状は、ゼイゼイという喘息、湿った咳、息切れ、微熱などが長く続くが、気管支喘息との区別がつきにくいため、しっかりとした検査が必要だという。
「喘息の症状がある場合、吸入ステロイド、気管支拡張薬、痰を切りやすくする薬を使いながら、抗真菌を併用して体内のカビを減らしていく治療を行います」(専門家)
このカビによる人体への悪影響につては、微生物学研究家の1人がこんな見方を示す。「体にカビが生じて感染症が問題になるのは、健康な人の水虫ぐらいなもの。アレルギーは人間の体が過剰反応しているだけなのです」