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小林製薬の紅麹原料を含む機能性表示食品を摂取した消費者に健康被害が確認された問題が波紋を広げている。
ドラッグストア等で、気軽に購入できる身近なサプリメントであったこともあり、改めて、自分が飲んでいるサプリメントに関心が向いた人も多いのではないだろうか。
湘南いしぐろクリニックの院長である消化器内科医の石黒智也氏は、「サプリメントの飲み方を間違えると危険だ」と警鐘を鳴らす――。(取材・文/鳥居りんこ)
サプリメントを自分で選んではいけない
厚生労働省発表の「2019年 国民生活基礎調査」によると「サプリメントのような健康食品を摂取している人の割合(入院者を除く)」は、男性21.7%、女性28.3%。
年齢階級別では、男性は60~69歳が28.1%、女性は50~59歳が37.6%で最も高くなっており、40代以上80代未満で見れば、男性は約4人に1人、女性は約3人に1人が何らかの健康食品を摂取している。
一方、インテージが行った『健食サプリ・ヘルスケアフーズレポート2022』によると、2022年度の日本の健康食品・サプリメント市場規模は1兆3729億円。
1人当たりの平均購入金額は2万7195円にも上るという数字が出ており、市場は上向き傾向にあるという。
日本人は美容も含めた健康に気を遣っているということが見て取れるが、では、どのようなサプリメントを摂取しているのだろうか。
国民生活センターが2019年に実施した調査(「錠剤・カプセル状の健康食品の品質等に関する実態調査」)によると、健康食品に期待していることとして「足りていない栄養素(ビタミン類、ミネラル類)の補給」「体力・持続力の維持向上(疲れやすさの改善)」「美容・デトックス、エイジングケア(抗加齢)」が上位に挙がる。
どちらかといえば、疾病を治したいというよりは、今の健康状態をできるだけ長く保ちたいという意識がうかがえる。この現状を踏まえ、神奈川県にある湘南いしぐろクリニック院長である消化器内科医の石黒智也氏は次のように話す。
「テレビやネット広告でも頻繁にサプリメントのCMを目にしますし、ドラッグストアやネットでも簡単に入手できることから、気軽にサプリメントを手にしている人は多いと思います。
サプリメントを飲むのは悪いことではありませんが、商品に含まれている成分を確かめもせず、自己流で選んで服用しているならば問題が起こる可能性があります」
石黒医師によると、「健康に良かれ」と思って飲む行為が、身体にとっては、逆に良くない作用をもたらすこともあるという。「宣伝文句に踊らされ、自己流で複数のサプリメントを飲んだ場合、重複した成分を過剰に摂取している可能性があるからです。
言うまでもなく、身体は食べたものでできているので、生命活動を支えるための食事は重要です。しかし、何かの栄養素の摂取が極端に低すぎたり、高すぎたりすると、バランスが崩れてしまうので問題となるのです。サプリメントは英語で『補助するもの、付け加えるもの』という意味。
要するに、食事だけでは補えない栄養素を補足する場合に有効な栄養補助食品ですので『身体に良さそう』とか『健康不安を解消できそう』という理由で闇雲に飲み続けるものではありません」
ここで、石黒医師にサプリメントの服用をする際に、注意すべきことを3点、挙げてもらった。
1.予防としてサプリを飲むべきか?
「サプリメントはお手軽に購入できることもあり、中には症状がまったくないにもかかわらず、『安心』や『予防』のために飲む人もいます。しかし、不調を感じていないのであれば、既に栄養が足りていると判断して、さらに栄養を追加する必要はありません。かえって栄養素の過剰摂取になりかねませんので、注意が必要です。
症状がなく、『何となく健康に不安がある』という漠然とした悩みがある人は、まず先に生活習慣を見直してみましょう。健康維持の基本は栄養バランスの取れた食事、適度な運動、十分な休養の3つ。改善できる点があれば、そちらを優先してください。
よくコレステロールの数値が高いことを気にされて、サプリメントを利用なさる方も多くいます。しかし、コレステロールが高いということはなんらかの「栄養過剰摂取」というケースがほとんどです。
偏った食事や暴飲暴食で食べ過ぎているわけですから、バランスのよい食事をとる、腹八分目にする、また適度な運動をすることで、減量するだけでも数値は良い方向へ向かっていきますよ。
まずは、自力でできることをやっていきましょう。なるべく薬にもサプリメントにも頼り過ぎない暮らしが、望ましいのです。
2.過剰摂取の重大なリスク
栄養補助食品であるサプリメントは、あくまでも食品。薬のように、痛みを緩和したり、病気を治したりする効果が期待できるものではありません。それゆえ、誰もが自由に購入できますから、気楽に摂取することができます。
しかし、サプリメントには摂取したい栄養素以外の成分が入っていることがほとんどです。数種類のサプリメントを併用している場合には、それぞれの一日当たりの摂取上限を守っていても、知らずに同じ成分を二重に摂ってしまうことになりかねず、それが栄養素の過剰摂取に繋がってしまいます。
過剰摂取がなぜいけないかといえば、重大な疾病を招く可能性があるからです。例えば、カルシウム。適量を摂るのは良いことですが、大量に摂ると、 高カルシウム血症・高カルシウム尿症・軟組織の石灰化・泌尿器系結石・便祕を起こすこともあります。
また、血液サラサラ効果があるEPAですが、こちらも過剰に摂ってしまうと、血を固める成分を疎外しますので、出血しやすくなったり、内出血が止まりづらくなったりするリスクがあります。健康に様々な効果があることが実証されていても、やはり、摂り過ぎの弊害はあるわけです。
特に薬を飲んでいる人は、必ず医師に相談を。薬の効果を邪魔する成分が入っていることもありますし、薬と同じ成分を重複して摂取してしまう可能性もあります。
また、見過ごせないのは肝臓と腎臓への影響です。先日も、患者さんで肝臓の数値が急に上がった方がいたのですが、よくよく聞いたら、6種類くらいのサプリメントを飲んでいるということが分かりました。
口から入って来た食べ物の毒素を分解し、老廃物と共に体外に出す機能を持つ臓器は肝臓と腎臓です。「最も重要なこと」という意味を持つ「肝心(腎)」は肝臓と心臓・腎臓から来ているといわれていますが、それほど大事な臓器なのです。
肝臓は便、腎臓は尿を作るために、日々、必死で働いてくれているのですが、入ってきたものが過剰であれば負担になります。毒素を分解、濾過する処理量が追いつかなくなると臓器障害が起こるのです。
そんな大変な目にあわないために、サプリメントの摂取目安量や注意事項は必ず守りましょう。また、調子が悪くなったら、即刻、飲むのを中止してください。
サプリメントは大量に飲めば、それだけ健康になるということはなく、それどころか不健康になることもあります。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」は健康食品についても言えることです。
3.脂溶性ビタミンは特に注意
皆さんが気にしがちなビタミン不足。実はビタミンは、水に溶けにくく油脂に溶ける性質を持つ「脂溶性ビタミン」と水に溶けやすく熱に弱い「水溶性ビタミン」に分けられます。水溶性ビタミンは、たとえ多く摂取したとしても余分なものは尿として排泄されます。
そのため不足がちになりますので、水溶性ビタミンであるビタミンB群(B1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン)とビタミンCの9種類は毎日、一定量を摂取するのが望ましいのです。
一方、体内に蓄積されやすいのが脂溶性ビタミンです。水溶性ビタミンとは違い、欠乏症にはなりにくいですが、大量に摂取した場合には肝臓に蓄積されるため、肝臓が処理しきれず、肝機能障害を起こすこともあります。
そのため、脂溶性ビタミンをサプリメントで摂取する場合は特に注意が必要です。脂溶性ビタミンはビタミンD・A・K・E。ローマ字読みで「だけ」と覚えて、くれぐれも過剰摂取にはお気を付けください」