朝が苦手なのは「低血圧」のせいではなかった? 寝起きをよくするために効果的な生活習慣とは | ~たけし、タモリも…「1日1食」で熟睡&疲れナシ~

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『無敵の「1日1食」 疲れ知らずで頭が冴える!』
さあ、元気に歳でもとりますか!それに女性は明日の美しさを迎えにいこう。

東大の研究員であり現役医師である柳澤綾子さんは、年間500本以上の論文を読む論文オタクでもあります。

 

『身体を壊す健康法』は、そんな柳澤さんが、これまで当たり前とされてきた健康の常識を最新の研究結果をもとに一から見直し、正しい知識を優しく解説します。本書で健康の知識をアップデートしましょう。

 

※本記事は柳澤綾子著の書籍『身体を壊す健康法 年間500本以上読破の論文オタクの東大医学博士&現役医師が、世界中から有益な情報を見つけて解き明かす。』(Gakken)から一部抜粋・編集しました。

「低血圧」と「朝が苦手」の関係性は、ほぼなし

最新の推奨血圧は、上が120未満

「低血圧だから朝起きるのが辛くて......」や「血圧が低いから朝なかなか起きられないのよね」といった話、よく耳にします。何となく若い女性に多いような印象がありますが、これって医学的には本当なのでしょうか?

 

この「血圧」というもの、そもそも一体何でしょうか。血圧とは、血管というホースに対して内側を流れる液体である血液が与える圧力のこと。「血管壁(血管の壁)の内側に与える血液の圧力」を示しています。

 

心臓から送り出される血液の量(心拍出量)と末梢血管での血液の流れやすさ(末梢血管抵抗)との組み合わせによって決まり、心拍出量×末梢血管抵抗で算出することができます(厳密にはこの他にも大動脈の弾力性や血液の粘性、血液の循環量などもかかわっていますが、今回はいったん置いておきましょう)。

 

そしてこのホースを押す力の一番強い圧力の数値を収縮期血圧(最高血圧)と呼び、一番圧力の低い所の数値を拡張期血圧(最低血圧)として表示します。

 

血圧の基準値は、ここ数十年で大きく改定されてきました。どの数値になると高血圧の扱いを受けるのかが、数年ごとに変わってしまったのです。

 

これは血圧が高い状態を続けている場合の血管壁の損傷や、それにともなって発症するさまざまな臓器での疾患が思いの他多岐にわたることが、最近の研究で次々と明らかになってきたためです。

 

現在最新の血圧の基準では「血圧は収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満までコントロールするほうが理想的」と言われています(1)。

低血圧には3種類が存在する

では逆に、低血圧はどうなのか。一言で低血圧と言っても、低血圧はさらに大きく3つの種類に分類されます。

 

1つ目は、本態性低血圧と呼ばれるもの。これは特に何か大きな原因があるわけではなく、基準値よりも血圧が低い状態を指します。大抵の低血圧はここに分類されますし、特に病的な状態ではないことが多いです。

 

2つ目は起立性低血圧と呼ばれるもの。通常人間の体は急に立ち上がった場合などでも、血圧を適切に制御するシステムが備わっています。

 

しかし中には立ち上がった瞬間に血圧が急激に低下し、立ちくらみやめまいを引き起こす症状が出る場合があります。このような状態が起立性低血圧です。健康な人でも、疲れていたり栄養状態が悪かったりすると引き起こされることがあり、ひどい場合には失神発作を伴うこともあります。

 

そして3つ目が症候性低血圧と呼ばれるもの。これは何らかの基礎疾患に伴う低血圧を指しますので、その根本原因の治療が必要となります。

 

本項冒頭で述べたような、「血圧低いんだよね」と話すような例の場合は、基本的には1つ目の本態性低血圧のことが多いのではないかと思います。

低血圧だと朝が弱い、というエビデンスはない

実際には、低血圧だと朝起きられないというエビデンスはありません。医学的にも「低血圧→起きられない」という因果関係は成立しないように思います。

 

逆に、寝起きが悪かったり、なかなかすっきりと目覚められず、無理やり起こされた感じでものすごく機嫌が悪かったりするという症状は、低血圧によるものというよりは、サーカディアンリズムと呼ばれる人体の生体リズム、

 

交感神経と副交感神経の切り替えを行なう自律神経のバランス、本質的な睡眠不足や睡眠の質などが影響していることが多いと考えられています。

 

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そもそも自律神経というのは、本人の意思で交感神経を優位にしたり、副交感神経を優位にしたりの切り替えはできないからこそ、「自律」の神経という名がついているのです。

 

交感神経が働いている時というのは簡単にいえば、動物が「さぁ狩りに行こうか!」とい

う状態のことで、心拍数は上がり血糖値も上がりやる気と元気に満ちた好戦的な状態を指します。

 

逆に副交感神経が働いている時というのはこの逆で、例えば「お腹がいっぱいで心身が満ち足りている」「心拍数が落ち着いていてリラックスしている」などの状態を指します。

夜に入浴やリラックスをするほうがいい

そのため睡眠時を見てみると、寝ている時は副交感神経が優位でリラックスしていますが、朝になるにつれて少しずつ交感神経が優位となっていき、活動的な状態になってゆきます。

 

交感神経が活性化してくる際に目覚めれば、すっきり目覚められると考えられていますが、現代の生活スタイルだと、寝る前に明るい画面のパソコンを見ていたり、

 

好戦的なゲームに熱中したりすることで、交感神経が刺激されて自律神経のバランスが乱れやすくなってしまい、睡眠が阻害されることにもつながるのです。

 

質の高い睡眠のため、ひいてはすっきり目覚めるためには副交感神経を優位にする必要がありますから、例えばお風呂でゆっくり温まったり、就寝前の1時間は刺激の強いゲームなどは避け、それ以外の自分の好きなことをしたりしてのんびり過ごすのがいいでしょう。

 

気持ちがリラックスモードになれば、副交感神経が優位となり、自然と寝つきもよくなります。

 

以上から、血圧が低いから朝起きられないわけではなさそうです。朝起きられないという事象には、低血圧以外の原因があること

 

が多く、特に自律神経の働きを妨げないような生活習慣を心がけるといいかもしれません。夜はできる限り、副交感神経が優位に働きやすい環境を作ってあげることが大事ですね。

 

<結論>・低血圧だから朝が苦手、というエビデンスはない

・寝起きが悪いのは、自律神経のバランスや睡眠の質や長さのほうがはるかに影響している

(参考文献)

(1)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-003.html (Cited 2023 Aug 20)

 

柳澤綾子

医師、医学博士。東京大学大学院 医学系研究科 博士課程修了。大学院時代から公衆衛生学を専攻し、社会疫学、医療経済学およびデータサイエンスを学んできている。現在は、東京大学および国立国際医療研究センターにて研究を行いつつ、ママ女医の立場から健康格差解消のための啓蒙活動に尽力、講演、記事監修や執筆等を行っている。海外医療活動参加歴あり。パナマにて国際船医免許取得後、世界一周クルーズ船船医として世界中からの乗客のべ8000人以上を診察、世界27カ国の病院に紹介状を持って同行医師経験あり。