なぜ「紅麹サプリ」を飲む人がこれほど多かったのか…「サプリの危険性と欺瞞性」に医師が怒りを隠さな | ~たけし、タモリも…「1日1食」で熟睡&疲れナシ~

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なぜ「紅麹サプリ」を飲む人がこれほど多かったのか…「サプリの危険性と欺瞞性」に医師が怒りを隠さないワケ

この危険性をもっと早く伝えるべきだった

小林製薬の紅麹サプリメントが引き起こしたと疑われる健康被害の報告が相次いでいる。現時点ではまだ完全解明されたとはいえないが、健康を害しさらに生命を落とされた方々には心からのお悔やみを申し上げたい。

 

本書は、高齢者がいかに自分らしく人生最終コーナーを歩いていくかということについて、在宅医そして要介護の高齢両親を持つ当事者の視点から考察し、読者の皆さんとともに思考実験してみましょう、との主旨で書いたものである。

広告戦略に騙される高齢者が後を絶たない

老化は誰もが遅かれ早かれ直面する問題であるから、意識したことのない人のほうが稀といえるだろう。それゆえに、老化を「商売」に結びつけ、高齢者をカモにしてひと儲(もう)けしようという業者たちが、昨今あとを絶たない。

 

そして少なからぬ高齢者が、巧みな広告戦略に騙(だま)されて彼らの「カネ儲け」に引っかかってしまっている現状も、日々現場で診療するなかで目撃してきた。

 

本書では、こうした商売について「第四章 不安につけ込む商売にご用心」と一章分を割いて解説し注意喚起しているが、そこでは、高齢者がもっとも引っかかりやすいサプリメントを、まず一番に取り上げた。

 

本稿では、今回の事件を踏まえて本書で言及しなかった問題点も加筆しつつ、なぜサプリメントが商売として成立してしまっているのか、そもそもサプリメントは私たちに必要なのかという基本的認識に立ち返って考察してみたい。

 

太古の昔から「不老不死」は人類の見果てぬ夢であるといってもよいだろう。不可能であると頭では解(わか)っていても、何かしらアンチエイジングの「妙薬」はないかと探し求めてしまうのは、楊貴妃やクレオパトラにかぎったことではない。

「膝関節症サプリは効かない」は医師の常識

私は日常診療をおこなう中で、少なくない高齢者がサプリメントをこうした「妙薬」と位置づけ、すでに使用もしくは今後使用すべきか思案していることを知っている。

 

そして彼らの口から出てくる言葉を聞くと、そのほぼ全員が、科学的根拠ではなくテレビや新聞の広告を購入の判断材料としていることを知るのである。

 

例えば変形性膝関節症に悩む高齢者は多いが、整形外科で関節内注射やリハビリ、体操、鎮痛剤といった「正攻法の治療」を受けても、なかなか症状が改善しないと悩む人もたしかに少なくない。

 

そのような人が、テレビCMで「飲み始めて効果実感! 階段がスムーズに降りられるようになりました」などというエキストラによる絶賛の声を聞かされれば、藁(わら)にもすがる気持ちで、けっして安くはない「膝サプリ」の購入を決めてしまっても不思議はなかろう。

 

しかし残念ながら、これらの高価なサプリメントが「膝関節に及ぼす影響はない」ということは、すでに医学論文では結論が出ている。

 

これらのサプリメントに含まれているグルコサミンやコンドロイチンを口から多少摂取したところで、消化管にて分解されてしまい、関節腔内に届いて効果を発揮することはない、というのが医師の間ではもはや常識なのである。

「機能性表示食品」の安全性は担保されていない

つまりはっきり申し上げれば、これらの商品は、どんな有名な大手企業が販売しているものであっても、すべて科学的にはインチキなものなのである。

 

ただ「プラセボ効果」はあるかもしれない。「なんとなく使用してから膝の具合がよくなった」との実感があるなら、その効果であろう。しかしそれだけのために高い金額を払ってサプリメントを購入する意味はあるだろうか。

 

問題はそれだけではない。ただ効果が広告どおりでなかっただけならば「お金をムダにした」と思えばいいのだが、無効ばかりか健康被害のリスクまであるとなったら一気に話は別次元となる。

 

今回の紅麹サプリ問題が奇(く)しくも露呈させたように、サプリメントによる健康被害については、もっと恐れられてしかるべきなのだ。拙著では、私がじっさいに患者さんで経験したサプリメントによるものと推定された肝機能障害の具体例を掲げているが、おそらく氷山の一角だろう。

 

そもそも「機能性表示食品」として出回っている多くのサプリメントは、効果はもちろんのことその安全性は誰にも担保されていないものだ。

 

見た目は錠剤やカプセルだから薬のように見えてしまうし、飲み方も「1日3粒」などと、あたかも薬の飲み方のように指示されているから勘違いしてしまいがちだが、当然ながら薬ではない。「なんとなく体に良さそう」とのイメージだけが根拠のシロモノなのだ。

「サプリと処方薬を併用してもいい?」医師の答えは

医療機関で処方される「本当の薬」は臨床現場で使用されるまでに治験をおこなった上で、国の認証を受け保険適用になっている。そうした保険適用の薬であっても、副作用や薬害が皆無でないことはご存じのとおりだ。

 

それゆえに医師は処方するときに、その副作用について説明するし薬の飲み合わせについても考えるのだ。

 

一方のサプリメントはどうだ。誰からも有害性について説明されることなく自己責任で購入するものだ。

 

外来では患者さんから「こんなサプリメントを買ったのですが、今の処方されている薬と併用しても良いものでしょうか?」とよく聞かれる。そのとき私はどう答えるか。

「わかりません」だ。

 

冷たい答えだと思うだろうか? だが申し訳ないが仕方ない。効果も有害性も、誰にもなんら担保されていないシロモノについて、飲み合わせが大丈夫か否かなどと問われたところで、医師であっても判断などできるはずがないのである。

 

私は「わかりません」と答えた上で、サプリメントに広告で謳(うた)う効果を期待することはできないこと、過去に有害事象を経験したことなどを説明しつつ、医師としては使用をすすめるものではなく、むしろ積極的に使用しないほうが望ましいとの意見を伝えている。

そもそもなぜ「機能性表示食品」が出回ったのか

医師の私がこのように言うと「そりゃそうでしょうね。処方薬でなくサプリメントを皆が買うようになってしまったら、医療機関は大ダメージでしょうからね」と揶揄する人もいるかもしれない。皮肉なことだが、その理屈は大外れではない。むしろそれが今回の問題の本丸なのではないかとさえ思えるのだ。

 

それはどういうことか。

もうすでにネットでは拡散されているが、今回問題となったサプリメントも属する「機能性表示食品」というカテゴリーは、第2次安倍政権が後押ししてできたものだ。

 

この厳しい審査のない「ニセ薬制度」によって、サプリメント市場は今や数千億円から1兆円規模ともいわれている。国民の健康増進に見せかけた経済成長戦略、いや限られた企業への利益誘導政策といってもよい。

 

だが私はそれだけだとは考えていない。「できるだけ医療機関にかからずに、自己責任で“治療”しなさい」という、これこそ「社会保障抑制政策」「健康自己責任政策」の最もわかりやすい典型例なのである。

 

社会保障費を抑えるために高齢者の医療費を抑えたいという思惑が、財務省を中心として強固に根づいているのはご承知のとおりだ。そして「生活習慣病」の予防を叫びつつ、国民の健康にたいする関心を喚起し、メタボ健診も推進してきたわけだ。

健診にちょっと引っかかった人にはうってつけだが…

しかし、この健診でみつかってしまった高血圧や脂質異常、糖尿病の人たちが、そのまま医療機関にかかって投薬治療を受けはじめてしまったら、むしろ医療費が増えてしまう。医療費を抑制するつもりで導入したメタボ健診が、新たな患者を掘り起こすヤブヘビになってしまうのだ。

 

そこで活躍するのがトクホやサプリメントなのである。

「わざわざ医療機関を受診して、待合室で長時間待たされて、あげくに医者に『生活習慣を改めろ』などと不愉快な言葉を投げつけられて、薬を出されて、

 

薬局でまた待たされて……健診でちょっと引っかかったくらいで、そんな面倒なことは勘弁してほしい」というのが多くの人の率直な気持ちではなかろうか。

 

そういう人が、ふらっと立ち寄ったコンビニで「糖や脂肪の吸収を穏やかにする」などと表示された飲料を目にしたら、多少高くても買い物カゴに入れてしまうかもしれない。テレビショッピングの「一日一粒、毎日続けて健康に! 

 

初回は驚きの特別価格! 今すぐお電話を」との声につい電話番号をメモしてしまう人もいるだろう。

「病院で処方される薬剤のほうが安い」という事実

だがトクホにしろサプリにしろ、残念ながらその高い値段を支払ってでも得られる効果は期待できない。これらに保険適用になっている薬剤を凌駕する効果はあり得ない。

 

もしその効果があるなら、それらのサプリはとっくに「薬」として保険収載されているはずだからだ。そもそも値段を考えただけでも、サプリメントがインチキ商品であることが理解できてしまう。

 

今回問題となった「紅麹コレステヘルプ」をネットで買った場合、1カ月にかかる費用は約3000円だ。一方、医療機関で脂質異常症の診断のもとよく使われるLDLコレステロールを下げる薬剤(スタチン系)を処方された場合、医師による管理や指導を算定する医学管理料から処方箋料、薬局での調剤・薬剤料などをすべて込み込みとしても、3割負担の人でも1カ月で約2000円ほどなのである。

 

先述したように、スタチン系薬剤にも副作用はある。だがその副作用の発見を見逃さないために、薬剤の処方に医師の診察がついているのである。かたやサプリメントは効果も安全性の審査もなければ、フォローアップもされず売りっぱなしだ。どちらが安全でコスパが良いかは考えるまでもなかろう。

サプリの「やってる感」に惑わされてはいけない

先日「最近不摂生だからサプリを使っている」という患者さんに遭遇した。読者の皆さんの中にも、そうした人がいるかもしれない。だがそれは本末転倒なのだ。

 

不摂生ならば、それを改めなければデータは改善しない。サプリを飲んだところで変化するはずはないのである。

 

タバコの吸いすぎで咳と痰(たん)が出るからと、喫煙しながら咳止めと痰切りを飲むのと同じ。汚れた床を泥のついた雑巾で磨くようなものなのだ。大変失礼なもの言いかもしれないが、こういった人は「やってる感」で自分を納得させているだけにしか見えない。

 

そしてそういった人たちは、残念ながらインチキ商品でカネ儲けを目論む業者に、すっかり利用されてしまっているのである。

 

葉酸や鉄のサプリメントを使うようにと産科医から指導されている妊婦さんは例外として、それ以外の自己判断でサプリメントを使っている人は、まずはいったんすべて止めてみてはいかがだろうか。止めたところで体調が悪くなることなどあり得ないから心配ご無用。むしろ身体にもお財布にも優しいはずだ。

 

今回の事件をきっかけに、一人でも多くの人に「サプリ事業」の危険性と欺瞞性に気づいてほしい。そしてそれを一事業者だけの責任に矮小化するのではなく、これまでこの事業を強力に後押ししてきた政府に対しても、この責任をウヤムヤにしてはならないことは言うまでもない。

 

木村知(きむら・とも) 医師 1968年生まれ。医師。10年間、外科医として大学病院などに勤務した後、現在は在宅医療を中心に、多くの患者さんの診療、看取りを行っている。加えて臨床研修医指導にも従事し、後進の育成も手掛けている。医療者ならではの視点で、時事問題、政治問題についても積極的に発信。新聞・週刊誌にも多数のコメントを提供している。2024年3月8日、角川新書より最新刊『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』発刊。医学博士、臨床研修指導医、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。 ----------

 

また医師としてサプリメントの危険性と欺瞞性について認識してきたにもかかわらず、また文筆家として情報発信の手段を持っていたにもかかわらず、その発信があまりにも遅すぎたことを心からおわびしたい。

 

というのは、私がサプリメントの危険性と欺瞞性について公式に発信したのは、ツイッター(現X)を除けば、先月上梓したばかりの『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』(角川新書)が初めてだったからである。