■大人なのに「思春期女子」が増えている?
女子高生風の人気アイドルグループ「AKB48」の主要メンバーの何人もが20代ということを知り、驚愕した私ですが、そう言われてみれば年齢で言えばもう立派な成人なのに、いつまでも思春期の子のように見える女性は珍しくなくなりました。
現代は常識や慣習に縛られずに、自由に自分の行動を決められる時代です。「萌え」文化に象徴されるように、思春期の少女っぽい行動をファッション的に楽しむのも、もちろん個人の自由です。
とはいえ、大人なのにいつまでも思春期のような思考、行動を続けていることが、今現在の「なんとなく満たされない気持ち」と結びついているのではないかと薄々気付いている人も多いのではないでしょうか?
■「みんなと同じ」に安心する思春期
思春期は、親に依存していた子ども時代を卒業し、身近にいる友だちとの対等な関係のなかで、自分の存在意義を確認していく時期。したがって、思春期の特徴の一つが、「周りにいる友人からの承認」を求めることです。
小学生のころまでは、親が自分の存在を受け入れ、承認してくれることがいちばんの満足でした。ところが思春期になると、周りの友だちなど、自分と同じ立場にいる他人からの承認の方を気にするようになります。
それはこの思春期に、親に頼らず自分の力で、他人と関わりながら生きていきたいという自立性が芽生えるためです。周りにいる同性の仲間が自分を受け入れ、認めてくれることが、この先、自力で社会を渡っていくための自信につながるのです。
とはいえ、周りの友だちからの承認を得るためには、意外にたくさんの努力が必要になります。仲間外れにされないように、会話や趣味を合わせなければなりませんし、「ダサい子」「ウザいヤツ」といったネガティブなレッテルを貼られないように、ふるまいに気をつけなければなりません。
そのため、思春期の子には周りの友だちと同じ、同調的な行動がたくさん見られます。こうした、「みんなと同じ」という同調性に安心する人間関係を「チャム」(同調的な仲間)といいます。
■「私らしさ」に目覚める青年期
しかし、高校生になると、次第に友だちとの同調的な関係を重視しなくなっていきます。それは思春期から青年期に移り、次は周りの仲間とは違う自分らしい生き方を発見したいという、「アイデンティティの確立」に興味が移ってくるからです。
友だちのなかには大学に進学する人もいれば、社会に出て働き始める人もいます。人生に対する考え方も、人それぞれです。
そんな仲間との間の「違い」をお互いに承認し、「私らしさって何だろう?」という思いをぶつけあいながら、自分らしさを確認しあうのが、高校時代から20歳前後くらいまでの青年期の若者の特徴です。
こうした、お互いが「違う」からこそ刺激的で楽しい、という自立した友だち関係を「ピア」(自立的な仲間)といいます。
このように、友だち関係がチャムからピアへと成長していくことで、他人とかかわる自信をつけ、さらに自分らしい生き方を見つけていくことで、やがては親からの精神的、経済的な自立を果たして、巣立っていくのです。
■いつまでも「思春期っぽさ」から脱皮できない謎
ところが、最近では大人になっても、中学時代のような同調的な友だちつきあいから卒業できない女性が増えているように思います。
たとえば、進学先を「友だちが一緒だから」という理由で選び、教室移動もサークルも、行き帰りもいつも一緒。社会人になっても、いつも同じOL仲間とランチや合コン。
結婚して子どもを産んでも、いつも同じママ仲間と同じ公園で集まり、幼稚園選び、幼児教室、お受験もみんなと一緒。
一人だけで過ごすことや、みんなとは違う意見を言うこと、違う行動をとることをせず、みんなと同じでないと不安になってしまい、いつも周りに合わせている人が増えているように思うのです。これはどうしてなのでしょう?
■自分のアイデンティティに向き合っていますか?
一つには、本来なら10代後半~20代前半で考えるべき自分のアイデンティティと、うまく向き合えていないことが考えられると思います。アイデンティティを模索し、自分らしいオンリーワンの人生を築いていくことは、エネルギーや根気、勇気のいることです。
その過程では、たくさんの情報を求めてたくさんの考える時間を持ち、傷つくことを覚悟で一人で新しいことにチャレンジする必要があります。自分とは違う考えを持つ友人と議論し、お互いの考えをぶつけあっていかなければなければなりません。
こうした努力をするより、友だちとの同調行動に浸っている方が、煩わしくても楽で安心できるものです。この安心感に浸っているうちに、自分自身のアイデンティティと向き合う時間を逃してしまう人も多いのです。
■大人への成長を阻む環境と人間関係
また、大人になりきれないのは、社会的背景も関係していると思われます。若者文化が席巻する現代の日本では、大人になるプレッシャーから逃避しやすい環境にあります。
街に繰り出しネットを開けば、いつでも若者層が退行できるチャイルディッシュな消費文化であふれています。
そうした文化のなかで浮遊すると、いつまでも子どもっぽい思考、行動を続けていても許されるような、むしろそうした行動こそが歓迎されているような錯覚を覚えます。
そんな未熟さを容認する社会的背景が、思春期のような子どもっぽい友だちつきあいから卒業できない理由の一つにあるのではないかと思います。
またそれだけでなく、幼少期のころの親との関係、思春期のころの友だちとの関係がうまくいかないことも、友だちとの同調行動にしがみつきやすい要因の一つになると考えられます。
たとえば、子どものころに親にベッタリと甘えられた経験を持てなかった人は、友だちにしがみつき、「いつも一緒でいたい」「同じ行動をして安心したい」という甘えが強くなることもあるでしょう。
また、思春期のころに親友や仲良しグループとの良い思い出を持てなかった人は、大人になってから、同性との同調的な関係を求め続けてしまうのかもしれません。
■年齢なりに成長する心の動きと対話しよう
とはいえ、いつまでも思春期のような思考、行動をとり続けていると、「なんとなく満たされない気持ち」が募ってくるものです。
なぜなら、年齢を重ねるとともに周りの友だちは1人、2人と成長していき、以前と同じような同調的なつきあいを望む仲間は、減っていくからです。
特に、就職や結婚、出産などのライフイベントを前後して心の成長は進んでいくため、そのたびに友だちから取り残されたような気持ちになり、孤独を感じやすくなるでしょう。
また、自立性の低い人をターゲットに近寄ってくる人に利用されて嫌な思いをしたり、傷つくこともあります。
たとえば、自尊心を満足させるために人を支配したいと思う人は、自立性の低い人の心を利用し、思い通りに相手を動かそうとする傾向があります。また、商品や宗教の勧誘なども、こうした人の満たされない思いにつけ込み、利用する傾向があります。
人は身体だけでなく、心も年齢なりに成長していくもの。
この心の発達を理解し、年齢なりに変化する心の動きと素直に対話をすることで、人は生涯発展し、充実した生き方を実現していけるのです。そのためにも大切なのは、まず自分のアイデンティティをしっかりと見つめることです。
人は誰でも、他の誰とも違う「自分にしかない自分らしさ」を持っています。
・私らしさ、私の良さって何だろう?
・私は何をして生きていきたいんだろう?
・私の生かし方って何なのだろう?
このように「自分にしかない自分らしさ」を見つめることが、思春期のような周囲との同調的な行動から卒業することにつながっていきます。
また、子どものころに親に十分に甘えられた実感、思春期のころに友だちに承認された実感を持てない人は、カウンセリングを利用するのも一つの有効な方法です。
カウンセラーにありのままの自分を受け止められ、承認されることで、友だちとの同調行動から卒業できない自分に気づき、アイデンティティに根差した自立的な生き方を考えていくことができるでしょう。