職場や家庭、SNSなどで、その場の感情に任せて相手に怒りをぶつけてしまい、後悔したことはありませんか。
発端はささいなことだったのに、ぶつけてしまった怒りが人間関係を傷つけ、その後、取り返しのつかない大事に発展することも少なくありません。
そんな失敗をしないために必要な、怒りをうまくコントロールして日々を平和に穏やかに過ごすコツを教えてくれるのは、精神科医の伊藤拓先生です。
20年以上にわたり、のべ5万人を診てきた先生の著書『精神科医が教える 後悔しない怒り方』から再構成して紹介します。
歩き方のテクニックで怒りを抑える
怒りの感情のコントロールは、考え方や行動を変えてアプローチしていくだけが手段ではありません。体からアプローチすることによって自分の感情を制御していくことも可能なのです。
ここでは、身体感覚からアプローチして怒りをコントロールしていくスキルを取り上げていきましょう。
現代では、とても多くの人が「せわしいテンポ」「速いテンポ」で動いています。
おそらくみなさんもイライラしているときや焦っているとき、無意識のうちに行動のテンポが速くなっているのではないでしょうか。
しかし、怒り、焦り、不安などを感じているときにせかせかと速いテンポで行動していると、気持ちもどんどん前のめりに突き進んでしまい、怒りなどの感情がよりいっそうふくらんでしまいがちなのです。
なかでも注意してほしいのが、「歩く速さ」です。
歩行スピードは自律神経と連携していて、速く歩いていると興奮モードの交感神経が高まり、ゆっくり歩いているとリラックスモードの副交感神経が高まってくるようになっています。
これは、怒り、焦り、不安などの感情にとらわれそうなときも、せかせかと歩くのをやめて意識的にゆっくりと歩くようにすれば、副交感神経が刺激されて気持ちをリラックスさせられるということ。
ですから、自分の気持ちが揺れたり感情が乱れたりして焦っているようなときこそ、ゆっくりと歩くことを心がけるべきなのです。
怒りでキレそうなときやイライラが爆発しそうなときには、スローモーションのようにゆっくり歩くようにしてみてください。そうすれば、気持ちもゆったり静まって、いつもの落ち着きを取り戻せるはずです。
呼吸で自律神経をコントロールする
呼吸は自律神経をコントロールできるもっとも手軽な方法だと言っていいでしょう。
本来、自律神経は自分の意思ではなかなかコントロールできないもの。でも、呼吸の速さを調整すれば、自力でコントロールしていくことが可能なのです。
つまり、浅くて速い呼吸をすれば、自律神経を興奮モードの交感神経優位にシフトすることができ、ゆったりとした深い呼吸をすれば、自律神経をリラックスモードの副交感神経にシフトすることができるのです。
ですから、忙しさのせいで焦っているようなときや、思うようにいかないことにイライラしているようなとき、目の前の相手に怒りがふつふつと湧いてきたようなときには、意図的に深くゆったりと呼吸をするようにすれば、心身をすみやかにリラックスモードにシフトすることができるわけです。
自律神経が副交感神経優位に切り替わると、心身が落ち着くだけでなく、血流がよくなったり血圧や心拍数が下がったりといった効果も期待できるようになります。
ゆったりとした深い呼吸は、心だけでなく、体にも健康的な余裕をもたらすのです。