〈目からウロコの健康術〉「少量飲酒は体にいい」は本当? 専門家が教える賢く飲むコツ | ~たけし、タモリも…「1日1食」で熟睡&疲れナシ~

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「確かに、少量飲酒が体によいと結論づける研究は過去に複数出されてきました。しかしながら、飲酒量の質問内容などが詳細に欠けていたため、専門家の中には疑問を抱く人も少なくなかったのです。

 

そんな中、2018年8月に信頼性の高い国際的な論文が医学雑誌『ランセット』に発表されました。その内容から、『少量飲酒が体によいとは言えなくなってきた』というのが、多くの研究者が抱いた印象ではないでしょうか」

そう答えてくれたのは、筑波大学地域総合診療医学の吉本尚准教授。吉本准教授は’19年1月、北茨城市民病院附属家庭医療センターに酒の悩みに対応する「飲酒量低減外来」を開設。精神科以外での専門外来を全国で初めて開いた医師でもある。

「少量飲酒が健康によい」と言われてきたのは、「アルコールが動脈硬化の進行を防ぎ、脳梗塞や心筋梗塞などの循環器疾患の発症リスクを下げる」とする研究結果があるためだ。吉本准教授が挙げた論文は、世界195カ国で実施された592の研究を統合したもので、500人以上の専門家が参加したという。


それによれば、心筋梗塞については、やはり少量の飲酒をしている人ほど発症リスクが低いことが確認された。具体的には、1日に男性で0・83杯、女性で0・92杯を飲んでいる人のリスクが最小だった。

しかし、よい影響は限定的だった。たとえ少量であっても酒を飲めば乳がんや口腔がん、結核にかかりやすくなってしまうため、「アルコールによる特定の病気の予防効果は、他の病気の発症リスクで相殺される」と指摘していたのだ。

 

健康への悪影響を最小化する飲酒量は「1日0杯」、つまり、まったく飲まないことが健康に最もよいとした。「アメリカ心臓協会(AHA)も、酒を飲むことによる循環器疾患の予防効果を認めてはいますが、悪い影響のほうが多いため、予防のために飲むことは推奨していません」(前出・吉本准教授)

吉本准教授によると、飲酒は200以上の病気の発症リスクを高めたり、病状を進行させたりする他、「現代病」と言われるうつ病や認知症にも罹りやすくさせるという。「酒は百薬の長」と昔から言われてきたが、身体的な健康への影響に限って言えば、そうした考えは否定され、少量飲酒の効果も疑問視されているわけだ。

★ほどほどの量は1日平均で20グラム

「身もふたもない…」と感じたのは、酒を好む読者だけではないかもしれない。 前提として、酒を飲む・飲まないは個人の自由であり、心身がリラックスしてコミュニケーションを円滑にさせるというメリットに着目する人もいるだろう。大切なのは、健康を損ねにくい「ほどほど」の飲酒量を知り、自分で飲酒量をコントロールして、賢く飲むことではないだろうか。

参考になるのは、国の健康づくり対策「健康日本21」の中で、厚生労働省が取りまとめたアルコール関連の情報だ。厚労省は、国内外の研究結果をもとに飲酒のガイドラインを定めており、「節度ある適度な飲酒」として、1日の平均純アルコール量を20グラムとしている。20グラムとはおよそ、缶ビール500ミリリットル缶(ロング缶)1本、

 

日本酒1合、アルコール7%の酎ハイ350ミリリットル缶1本、ウイスキーダブル1杯に相当する。近年増えているアルコール分の多い9%の酎ハイ(ストロング缶)だと300ミリリットルに当たるので、1缶もない計算になる。

なぜ「20グラム」なのか。厚労省によれば、40~79歳の男女約11万人を9~11年間にわたって調査した国内の研究で、1日の平均純アルコール量が23グラム未満で最も死亡リスクが低かったという結果が出たためだ。

★女性や顔が赤くなる人は注意を

ただし、女性はより少ないほうが望ましいという。 吉本准教授によると、女性は男性よりも肝臓が小さいため、アルコールの分解速度が遅く、また体内の水分が男性よりも少ないため、血液中のアルコール濃度が上がりやすい。結果、同じ量を飲んだとしても男性に比べて病気になる可能性が高まるという。

 

男性の2分の1から3分の2の飲酒量を適量とするのが世界的な水準だそうで、厚労省のガイドラインにもこれらは「付帯事項」として記載されている。また、酒を飲むことで顔が赤くなるフラッシング反応を起こす人や高齢者も、基準より飲酒量を減らしたほうがいいという。

飲酒で顔が赤くなる人は、アルコールの分解がスムーズに進まず、発がん性物質であるアセトアルデヒドが体内に蓄積しやすい傾向にあり、食道がんなどさまざまな病気が起こりやすくなるためだ。一方、高齢者は若い人より身体機能が劣るので、飲酒によって転倒などのケガが起こる可能性が高くなってしまう。

このように1日における酒の「ほどほど」を知ったら、これを1週間の量に換算して自分なりに飲む量を調整するといいだろう。ビールをよく飲む人はまず頭の中でロング缶を7本並べてみる。そして、曜日に応じて分配するといった具合だ。吉本准教授も専門外来などで飲酒のアドバイスをする際は、週単位での調整を勧めているという。

ただし、飲まない日を増やしたことで、飲む日にたくさん飲んでいいわけではない。短時間での飲酒量(ビンジ飲酒)が増えると、急性アルコール中毒やケガ、事故を起こす可能性が高くなってしまうからだ。世界保健機関(WHO)は、1日の純アルコール量が60グラムを超えないよう推奨している。

 

吉本准教授らのグループが、国内の大学生2177人を対象にビンジ飲酒に関する調査を行ったところ、1年間に1回以上ビンジ飲酒をしていた人は、していなかった人に比べてケガを起こす確率が25・6倍高かった。

この調査でのビンジ飲酒の定義は世界的な基準にならい、「2時間での純アルコール量が男性50グラム以上、女性40グラム以上」とした。ビールを飲む男性であれば、飲む量が多い日であっても2時間でロング缶2本に抑えたほうがいいことになる。

 

健康を維持して長生きすることが、万人にとって幸せなわけではないが、関心のある人は自分が日頃、どれくらい飲んでいるかを確認し、「ほどほど」と比較して調整してはどうだろう。

健康診断で肝機能や尿酸値などの異常を指摘されたり、飲酒量が普段よりも増えてきたりして、酒との付き合い方を真剣に考えた方がいい場合は、内科医に相談するのも1つの手だ。吉本准教授は「禁煙外来や睡眠外来のように、お酒の悩みを身近に相談できる文化をつくりたい」と話しており、そんな時代もそう遠くないうちに来るかもしれない。