夫婦共働きの場合、子どもの扶養について、あまり考えずに夫側に入れている夫婦が多いのではないでしょうか。
しかし、妻の方に入れた方がお得になるケースもあります。年度の切り替えで働き方が変わる夫婦もいるでしょう。ここでは、健康保険の扶養を中心に、制度の解説と選ぶポイントをお伝えします。
扶養の入り方によって、医療費が節約できたり、手取りが増えたりすることがあるので、夫婦共働きのご家庭はこの機会に検討してみるといいでしょう。
※編集部注:外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際はLIMO内でご確認ください。
健康保険の扶養のルール
子どもたちは、経済的に自立するまでは親の扶養に入ります。
扶養とは、家族や親族に対して、経済的な援助をすることです。
扶養には、「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類があります。
それぞれ別の制度であるため、扶養に入るための要件などが異なります。
ここでは、健康保険に関係する「社会保険上の扶養」を中心にみていきます。共働きで夫婦共に健康保険の被保険者である場合、子どもをどちらの健康保険の被扶養者にするのがいいのか悩むケースがあると思います。
しかし、これには判断基準があり、原則、「収入が多い方の健康保険の扶養に入ること」となっています。ただ、夫婦でそれほど収入に差がない場合や、年ごとに変わってくる場合などは判断に迷うでしょう。
そこで、厚生労働省が2021年8月1日から判定基準の新ルールを設けました。
ポイントは次の2つです。
・夫婦の年間収入の差が、多い方の1割以内の場合は、届出により、主として生計を維持する者の被扶養者とする
・年間収入とは、過去の収入、現時点の収入、将来の収入等から今後1年間の収入を見込んだ額とする
たとえば、夫年収480万円、妻年収500万円であれば、差額の20万円は妻の収入の1割(50万円)よりも小さいので、届出を提出することで、子どもは夫の健康保険の被扶養者とすることができます。
これは夫を主として生計を維持する者と判断した場合です。しかし、夫年収440万円、妻年収500万円になると、差額の60万円は妻の収入の1割よりも大きくなるので、子どもは妻の健康保険の被扶養者となります。
これは逆も然りです。健康保険の扶養は収入が多い方が扶養するのが原則ですが、コロコロ変わっては子どもが無保険状態になる危険があるので、具体的かつ明確な基準を設けたということです。
このルールは、子ども(被扶養者)の地位の安定を図るためのものであり、主として生計を維持する者をどちらにするかは夫婦の選択によるので、収入が1割差以内の夫婦であれば、子どもをどちらの扶養入れるのかは夫婦で選択できることになります。
収入の考え方は、2021年7月までは「前年分の年間収入」でしたが、前年の収入が今後も継続するとは限りません。そのため、過去、現在、将来の収入から今後1年間の収入の見込額を算出して判断することになりました。
長期的な視点で考えて、どちらが扶養するかを選択しましょう。注意点としては、子どもが2人以上いる場合に、1人は夫の扶養、1人は妻の扶養などと分けることはできません。
扶養者となった側が子ども全員を扶養することになります。
ちなみに、「税制上の扶養」の場合は、子どもごとに選択することができます。
夫婦の収入に差がない場合の健康保険の扶養の選択
ここからは、それぞれが健康保険の被保険者である共働き夫婦の収入の差が1割以内である場合に、子どもをどちらの健康保険の被扶養者にすべきかを考えてみたいと思います。
健康保険は、被扶養者がいてもいなくても、被保険者が払う保険料は同じです。そのため、子どもをどちらの扶養に入れても、夫婦が払う保険料が変わることはありません。
一方、子どもの方もどちらの保険に入っても保険料はかかりません。
そのため、選択に迷うことはないように思われます。
しかし、健康保険の給付は法律で定められた給付以外に、健康保険組合独自の給付(付加給付)を設けている場合があるので、付加給付の充実度で健康保険組合を選ぶという方法があります。
健康保険の付加給付
会社員や公務員が加入する健康保険は、主に中小企業の従業員が加入する「全国健康保険協会(協会けんぽ)」、主に大企業の従業員が加入する「健康保険組合(組合健保)」、公務員や私立学校の教職員が加入する「共済組合」があります。
協会けんぽには付加給付はありませんが、健康保険組合や共済組合は、組合ごとに付加給付を行っている場合があります。
健康保険組合(組合健保)は、企業や企業グループが単体で設立、もしくは同業種の企業が共同して設立するなどして、全国で1380組合(2023年4月1日時点)あります。
給付の内容は、その組合ごとにさまざまであるため、加入している健康保険組合のHPなどをみて、どのような付加給付があるのか確認してみてください。
ここでは、付加給付の例をいくつかご紹介します。
(1) 医療費の自己負担額が2万円を超えた場合に、その超えた金額が健康保険組合から支給される。
高額療養費制度は、年収約370万円~約770万円の自己負担限度額はおよそ8万円~9万円なので、付加給付によって医療費の自己負担額がさらに少なくなります。
(2) 傷病手当金の上乗せとして、傷病手当金付加金が健康保険組合から支給される。さらに、傷病手当金の支給期間を過ぎても労務不能である場合は、延長傷病手当金付加金が支給される。(最長3年など)
(3) 健康保険の加入者が結婚すると、結婚手当金(支給額8万円など)が支給される。
(4) 出産育児付加金(1児につき10万円など)が健康保険組合から支給される。
→出産育児一時金(1児につき50万円)の上乗せとなります。
この他にも、健康保険組合の付加給付はさまざまあり、給付額も組合ごとに異なります。
夫婦が同じくらいの収入で、別々の健康保険組合に加入している場合は、付加給付の内容を比較して、付加給付が充実している健康保険組合に加入している側が子どもの扶養者になると、子どもの医療費なども含めてお得になる可能性があります。
会社の制度をまずは確認しよう
ここまで、健康保険の扶養についてみてきましたが、加入している健康保険のお得度だけでどちらの扶養にしたらいいのかを決めるのは適切ではありません。
扶養には、先述したように「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」があり、健康保険の扶養は社会保険上の扶養です。
そして、「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」が異なっていても問題ないので、夫婦共働きで、収入差がない場合は、あえて、「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」を変えるという選択もできないわけではありません。
しかし、会社によっては統一することを求められ、会社から支給される扶養手当(家族手当)などの諸手当に影響する場合があります。
健康保険の付加給付よりも、会社からの扶養手当の方が家計に及ぼす影響が大きい場合が多いので、まずは、会社の制度を確認しておきましょう。
税法上の扶養は手取りに影響する
会社の規定によって、扶養を統一しなければならない場合、「税法上の扶養」についても知っておく必要があります。
「税法上の扶養」は、所得税や住民税に関係するため、手取り額に影響します。
扶養する子どもが16歳以上であれば、扶養控除を受けられるので、所得が多い人ほど、税負担を軽減できます。
扶養区分ごとの控除額© LIMO | くらしとお金の経済メディア
※1 16歳以上の人
※2 19歳以上23歳未満の人
※3 70歳以上の人
※4 老人扶養親族のうち、納税者又はその配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で、普段同居している人
健康保険の扶養と違って、収入が多い方が扶養するといった規定がないので、どちら側が扶養しても差し支えありませんが、扶養控除が受けられる場合は、収入が多い方の扶養に入った方が所得税を少なくすることができます。
所得控除が受けられない16歳未満の子どもの場合は、所得税には影響しませんが、住民税が非課税になる「非課税限度額」制度の扶養の数に含めることができます。
これは前年の所得が自治体ごとに決められた非課税限度額以下になると、住民税が非課税となる制度です。
扶養する子どもがいると、非課税になる限度額が上がるので、住民税が非課税になる可能性が高くなります。
自治体や扶養人数によって異なりますが、年収150万円~200万円くらいの場合は検討してみるとよいでしょう。
まとめにかえて
健康保険の扶養は、収入が多い方が子どもを扶養する決まりになっていますが、収入が同程度の場合は、どちらが扶養するかを選択することが可能です。
その場合、健康保険組合の給付内容を参考にするとよいでしょう。
一方、税法上の扶養は規定がないので、どちらが扶養しても構いません。しかし、選択によっては扶養控除や住民税の非課税限度額に関わるため、手取り額に影響します。
そのため、子どもをどちらの扶養にするかの選択は健康保険の扶養以上に考える必要があるでしょう。
しかし、この場合も、会社が扶養を統一することを求めていたり、税法上の扶養、健康保険の扶養、またはその両方が、会社独自の扶養手当の要件になっていたりする場合があるので、子どもをどちらの扶養に入れるかは、それぞれの会社の制度を確認してから、総合的に判断しましょう。