がん免疫治療薬のオプジーボの薬価は10年前の発売当初から5分の1程度に下がっている(写真/共同通信社)© マネーポストWEB 提供
日本人の2人に1人が罹患する「がん」。かつては“最悪の事態”を想像する病気だったが、近年は医療の進歩によって「治る病気」になっている。
最先端の医療技術が取り入れられることも珍しくなく、たとえば「先進医療」として広く知られているのが、陽子線や重粒子線による治療だ。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が言う。
「先進医療は厚労大臣が認定した高度医療技術の制度名です。
一部のがんに対する陽子線治療と重粒子線治療が先進医療の対象で、診察や検査等の費用は保険適用ですが、『先進医療の技術料』については全額自己負担になります」
陽子線、重粒子線いずれも放射線治療の一種だが、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は「従来に比べてピンポイントで照射できるため、正常細胞へのダメージが少なく、副作用を軽減できるのが最大のメリットです」と言う。
「治療効果も大きく、早期の肺がんでは、重粒子線治療は1回の照射で手術と同様の効果があるとされています」(上医師)
陽子線や重粒子線治療で先進医療の対象となる主ながんは、外科的手術による根治的治療が困難な「肺がん」「食道がん」「肝臓がん」「腎臓がん」など。かかる費用は(照射回数によらず)300万円前後だ。
「陽子線や重粒子線治療は施設の建設費や装置にそれぞれ数十億円から100億円ものコストがかかり、実施できる医療機関も限定されるため、どうしても技術料が高額になります」(室井氏)
莫大な治療費のイメージが先行するあまり、最初から選択肢に入れない患者も多いが、近年は状況が変わってきた。保険適用される部位が増えているのだ。
大腸がん(術後再発)、すい臓がん(局所進行性)、肝臓がん(切除不能な4cm以上)など複数のがんで重粒子線と陽子線治療が保険適用となり、自己負担額は1~3割で済む。
それでも70万円前後と高額だが、一部の富裕層以外にも選択肢になり得る状況が生まれている。
オプジーボの薬価は発売当初から5分の1に
陽子線と重粒子線治療について、上医師は注意点を指摘する。「施術の対象となっている主ながんも、陽子線や重粒子線でなければ治療できない、というわけではありません。
新幹線でたとえれば、従来の放射線が『こだまの自由席』なら、陽子線や重粒子線は『のぞみのグリーン車』です。どちらも同じ目的地には着くので、お金に余裕がなければ無理をして受ける必要はないかもしれません」
室井氏もこう言う。
「ピンポイントで照射する陽子線や重粒子線は、がんが転移していない患者さんには有効でも、全身に転移が広がっている末期の場合などは“焼け石に水”になることがあります」
近年話題の「免疫療法」も高額治療の代表格だ。室井氏が言う。
「免疫チェックポイント阻害薬『オプジーボ』を使う治療は、手術、化学療法(抗がん剤)、放射線治療に次ぐ“第4の選択肢”の地位を確立し、すでにいくつかの部位の治療で保険適用となりました。
現在の薬価は10年前の発売当初から5分の1程度に下がりましたが、いまだに治療費の高さが課題であることには変わりありません」
成人への投与量は1か月(4週間)で480mgで、薬価は約22万円。上医師が付け加える。
「ほかの抗がん剤治療と同様、オプジーボも通院外来で点滴投与を受けられます。
判断が難しいのは治療の“やめ時”。がんの縮小など効果が見られるうちは使用が継続されるのが基本で、1年以上にわたり投与を受ける患者さんもいます」
オプジーボの投与が1年続くと、単純計算で290万円近い治療費がかかることになる。
がんの高額治療はまだある。
特殊な薬を投与後、レーザー光を当ててがん細胞だけを死滅させる「光免疫療法」、患者の免疫細胞を取り出し遺伝子改変によりがんへの攻撃力を高める「CAR-T細胞療法」が代表的だ。
だが、これらの高額治療も近年は徐々に保険適用が拡大している。
3割負担でも数百万から1000万円近くかかるものの、「高額療養費制度」などの公的医療費控除を活用すれば、自己負担額を大幅に減らすことができる。
※週刊ポスト2024年3月29日号