朝スッキリと目が覚めない。目が覚めても疲労感が残っている。眠ろうとしてもなかなか寝付けない。夜中にトイレで目が覚めてしまう――。
睡眠に関する悩みを持つ人は多いが、睡眠の科学研究が進めば、こうした悩みも解決する日が来るかもしれない。
今回は、睡眠の望ましい取り方について、「睡眠休養感」という新しいキーワードを中心に、国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部部長の栗山健一氏に解説していただこう。
「睡眠休養感」とは何か
2024年2月、厚生労働省は「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(以下「睡眠ガイド2023」)を公表した。
これは従来の「健康づくりのための睡眠指針2014」を改訂したもので、大きな違いは「成人」「こども」「高齢者」と年代ごとに適切な睡眠の取り方を分けたこと。
そして、健康的な睡眠の取り方に関する指標として、「睡眠時間」に加えて「睡眠休養感」が重視されていることが分かる。
例えば、成人と高齢者は、「食生活や運動等の生活習慣や寝室の睡眠環境等を見直して、睡眠休養感を高める」ことが推奨されている。
睡眠休養感とはどういう意味なのか? それほど難しく考える必要はない。
今回の「睡眠ガイド2023」の作成メンバーを務めた国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部部長の栗山健一氏は「朝、目が覚めたときに体が休まっているかどうかの直感的な評価」だと説明する。
以前から、睡眠には時間という「量」に加えて「質」もあるのではないかと考えられてきた。
長時間眠っても十分寝た気がしないこともあれば、短時間でもスッキリと目が覚めることもある。では、その「睡眠の質」とは何だろう。
門外漢はつい「睡眠の深さ」と考えがちだが、話はそう単純ではない。この連載でも以前触れたように、最も深い眠り(徐波睡眠)は就寝から3時間以内に集中して現れる。
睡眠時間を削ると後半の浅い睡眠が削られるので、全体として深い睡眠の割合は多くなる。
しかし短時間の睡眠を続けるのはつらいし、実際に生活習慣病の発症リスクや死亡リスクを上げることも分かっている。単に深い睡眠の割合が多ければいいというものではない。
「そこでクローズアップされたのが目覚めたときに感じる『睡眠休養感』です。これに着目してデータ解析をしたところ、実際に睡眠休養感が健康維持に大きく影響することが分かったのです」(栗山氏)
従来の常識をくつがえした意外な事実
栗山氏らは、米国人のデータを解析に使った。対象は3128人のミドルエイジ(40~64歳)と2676人の高齢者(65歳以上)。
睡眠時間は自己申告ではなく、簡易型のPSG(ポリソムノグラフィ)で脳波を取って客観的に確認した。
目覚めたときの睡眠休養感は5段階で申告してもらい、1~2を「なし」、3~5を「あり」に分類。11~12年間追跡し、それぞれの死亡率を調べた(*1)。
その結果、これまで知られていなかった事実がいくつか明らかになった。今回の「睡眠ガイド2023」には、その最新の知見が反映されているわけだ。