自宅で家族と過ごす時間が多い昨今。このコロナ禍で「家族の絆」の大切さに改めて気づく人も多かったのではないだろうか。だからこそ、
いま、親子で話し合い、兄弟姉妹で考え、夫婦で決めておきたい。「親の介護」が必要になった時のこと、相続や葬儀、お墓のこと。
そのためには、何かが起きる前に「家族会議」を開き、いろいろなことを取り決めておく必要がある。そして、家族会議をするにあたって知っておかなければならないのが、「親の資産」の内訳だ。
預金は口座ごと、生命保険、証券、不動産など、友人への貸付金や借金まで含めて財産目録を作成して家族で共有しておきたい。病気で倒れた父親を自宅に引き取って介護し、看取った経験を持つ経済アナリスト・森永卓郎氏が語る。
「親父は体は不自由でしたが、会話はできたので、“介護費用はどうする?”と聞いたら、“預金はあるけど、どの銀行にどんな口座があるかわからない”というんです。
実家で郵便物を探したところ、銀行や証券会社など20近くの口座があることがわかった。それを調べるだけでも大変で、元気なうちに金融、保険、不動産などの資産情報を共有しておけばよかったとつくづく思いました」
森永氏のケースのように親の口座が20もあると、相続手続きで銀行ごとに「遺言書」や「遺産分割協議書」を提出しなければならず、膨大な手間がかかってしまう。
できれば親が手続きできるうちに年金振り込みなど生活費用の口座と、すぐに使う予定がない定期預金用の口座の2つに集約してもらったほうが便利だ。
親が認知症になる前に決めておきたいのが「成年後見制度」を利用するかどうかだ。
高齢で物忘れが増えたり、認知症になると「財産管理能力がない」と見なされて口座から預金を引き出せなくなることがある。介護費用を子が立て替え払いしなければならない事態も起きる。
その場合、かわりに財産管理をするのが成年後見人だ。親の認識力があるうちに、家族の誰かを後見人に指名しておくこともできる(任意後見)。
子が親の後見人になればお金を自由に動かす裁量権があるように思われがちだが、実情は全く違う。相続問題に詳しいまこと法律事務所の北村真一・弁護士が語る。
「成年後見は財産の横領を防ぐための制度なので、後見人になると大変です。毎月、親の財産を何にいくら使ったか裁判所に報告しなければならない。また、後見人になった子は事実上、親の面倒をみることになる。
週1回訪問して食事の世話をしたり、入浴させても、その分は遺産分与であまり評価されない。2年間、週1回入浴の世話をし続けて裁判で主張しても相続額に100万円ほどの上乗せが認められるくらい。
任意後見を選ぶ場合は、家族会議でその大変さを知ってもらい、あらかじめ後見人分の遺産上乗せなどを決めておくことを勧めます」成年後見制度以外にも、親が自分の介護などに備え、使途を決めて財産を家族の1人に信託する「家族信託」もある。
「親の介護や生活費に親の預金を使いたいという程度であれば、あらかじめ親の口座の代理人カードをつくっておいて、介護する子がカードで必要な金額を下ろして使う方法が最も簡単な方法です。
ただし、出納帳をつけて他の兄弟姉妹に使途を説明できるようにすることが大切です」(北村氏)また、親の認知能力に衰えを感じたら、要介護認定の申請を検討するタイミングだ。
親が介護認定を受けると、家族の1人を「介護のキーパーソン」(介護責任者)に選ぶ必要がある。ケアマネジャーやヘルパーはその責任者と介護方針を相談することになる。
親が高齢になるほど、家族会議で決めておかなければならないことは多い。そうしたことをあらかじめ話し合っておけば、介護の大変さを家族で共有でき、親を安心させることができる。
◆親が認知症になる前にしておく手続き5
【1】財産目録をつくる
【2】「成年後見人」を検討する
【3】「家族信託」を検討する
【4】銀行の代理人カードを作成する
【5】介護保険の認定を検討する