仕事で強いストレスを感じる労働者の割合は58.3%にも及び(2018年厚労省発表)、「働き方改革」の本質は、肉体面よりメンタルヘルス対策にあるとも言われている。
職場だけでなく、SNS上の人間関係が原因で精神を病む人も多い。これに対して、自律神経研究の第一人者である順天堂大学医学部の小林弘幸教授は、最新刊『不摂生でも病気にならない人の習慣』の中で、精神的な疲労に対する“意外な解消策”を説いている。その方法とは?
現代社会は、ストレスだらけです。とりわけビジネスパーソンは精神的疲労が蓄積し、疲労困憊している人は少なくないでしょう。
では、その疲労をどう取り除くか。スポーツで汗をかく。カラオケで歌いまくる。
飲んで騒ぐ。人それぞれ、いろいろなストレス発散の仕方があると思いますが、実際、そのことで精神的疲労がどれほど軽減されたか、追跡している人はいるでしょうか。結論から言えば、「実はそれほどでも……」という人が多いのです。
なぜなら、メンタルヘルスの不調は「腸内環境」に原因があることが多いのです。私の便秘外来には、毎日多くの患者さんがやってきます。
こうした患者さんの中には、うつ病を患っている方や、メンタルヘルスの不調を抱えている方が少なからずいます。
こうした患者さんの便秘や下痢が改善すると、実は鬱症状やメンタルヘルスの不調がなくなる場合が多いのです。
なぜか。それは腸管が血液の質を決める働きを担っているからです。
栄養を含んだ良い血液が送り出されているならいいのですが、腐敗物質や毒素を含んだ悪い血液が全身に回っている場合は、当然、体のあちこちで問題が出てきます。
太りやすくなる、全身の疲労感、老化なども、腸内環境の悪化がひとつの原因です。さらに、この時、血液中の赤血球も変形し、酸素の運搬がうまくいっていないことがわかっています。
結果、全身の細胞は、酸素不足の状態に陥ります。やがて細胞の生命力が失われていきます。
脳も血流不足、酸素不足に陥っていますので、働きが低下します。これが、マイナス思考を生み出している要因だと考えられるのです。
ということは、換言すれば、「腸内環境を整えれば、メンタルヘルスも整う」ということになります。
では、日頃の食生活で無理なく腸内環境を整えるにはどうしたら良いのでしょうか? 私たちの腸内には、1.5キログラムもの腸内細菌がすんでいます。
そのうち、消化吸収を助けてくれたり、免疫機能を高めたりしてくれるのが「善玉菌」です。一方、毒素を発生させたり、病原菌を増殖させたり、腸の炎症を引き起こしたり、といった悪さをするのが「悪玉菌」です。
つまり、腸内環境を整えるには、善玉菌を増やし、悪玉菌を減らすように心がければいいのです。
◆ヨーグルトとの相性チェックも必要
ただし、悪玉菌をゼロにすることはできません。ここでも自律神経同様、バランスが重要になってきます。腸内環境が整った腸を調べると、一様に、善玉菌2割、悪玉菌1割、日和見菌7割というバランスです。
「日和見菌」とは、腸の状態によって、善にも悪にも転んでしまう菌で、例えばストレス、不規則な食事、睡眠不足などによって悪玉菌に転じてしまうと、腸内環境が途端に悪い状態になります。
腸内環境は、自律神経と密接に結びついていますので、これが悪化すれば、自律神経のバランスも崩れ、仕事のパフォーマンスも落ちてしまいます。ではどうしたら、日和見菌を善玉菌に変えることができるのか。
それが「発酵食品」と「食物繊維」というわけです。いちばん手っ取り早いのは、発酵食品の代表格、ヨーグルトを食べることです。
腸内で善玉菌に変わってくれる乳酸菌やビフィズス菌などの生菌が入ったヨーグルトを、朝食の時にプラスするだけで、腸内環境は整います。
さらに、ヨーグルトの相性チェックをしてみることもお勧めします。やり方は難しくありません。1日100グラム、2週間から4週間、同じ種類のヨーグルトを食べ続けます。この時、便がバナナ状になった、
肌の色が明るくなった、疲れにくくなった、良い睡眠がとれるようになった、などの変化が見られるようであれば、それはあなたに合ったヨーグルトだという証拠です。
毎日ヨーグルトを食べていると、途中で「お腹が張る」という症状が出ることがあります。しかし心配には及びません。これは、腸内環境が変化してきているサインです。
症状は3日から4日で治まります。ただし、以後もその症状が継続するようならば、それは「合わない」可能性が高いと考えられます。すぐに別のヨーグルトに替えてみてください。
私たちに身近な発酵食品は、ヨーグルトだけではありません。例えば和食の中には、発酵食品が多くあります。納豆、みそ、醤油、梅干し、ぬか漬けや柴漬けなどの漬物。
これらも、発酵食品の優等生です。和食以外ですと、ナンプラーやキムチ、チーズなども発酵食品ですね。これら発酵食品を、意識してとるようにするだけで、腸内環境は以前よりも改善されます。
◆ドライフルーツなら手軽に食べられる
もうひとつは、「食物繊維」です。なぜ食物繊維が、腸にいいかといえば、人間の消化酵素で消化されにくいので、そのまま排出されるのです。その際、腸の中のさまざまな老廃物、カスをくっつけながら、便の主材料になって出てきてくれます。
この作用によって、腸内がきれいになるのです。「腸の掃除係」と呼んでもいいでしょう。
細かく言えば、食物繊維は「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」に分類されます。不溶性食物繊維を多く含んでいるのは、バナナ、ゴボウ、こんにゃく、オクラ、枝豆、たけのこなどです。
水溶性食物繊維を多く含んでいるのは、海藻、らっきょうなどです。
不溶性食物繊維は、腸の中で水分を吸って膨らみ、水溶性食物繊維は水に溶けて便を軟らかくしてくれます。ですから、便秘中は不溶性食物繊維をとり過ぎないほうがいいでしょう。
不溶性食物繊維が膨らむことで腸が刺激され、腸の蠕動運動が起きます。通常は、便通が促進されるのですが、蠕動運動の際、溜まっていた便の水分が吸収され、便が硬くなってしまい、便秘の方はそのことで便が出にくくなってしまうのです。
ただし便秘で悩んでいない限りは、そこまで気にする必要はないでしょう。キウイ、りんご、みかんなどは、不溶性、水溶性とも多く含まれています。
ほとんどの野菜、果物、海藻、きのこ類には、不溶性、水溶性の両方が含まれていますので、この4つを食べたほうがいい、と意識するだけで、食生活は変わります。
例えば、納豆を食べる時に、海藻のもずくをプラスしてみる。みそ汁にワカメやきのこを入れる。ヨーグルトにバナナやキウイなどの果物を入れるのもいいですね。コンビニで手軽に買えるもので言えば、ドライフルーツもお勧めです。
※小林弘幸・著『不摂生でも病気にならない人の習慣~なぜ自律神経の名医は超こってりラーメンを食べ続けても健康なのか?~』より抜粋