なぜ日本人は"住宅の燃費"を考えないのか…10年間で500万円以上も得をする「高断熱の家」にかか | ~たけし、タモリも…「1日1食」で熟睡&疲れナシ~

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住宅を建てる際にはどのようなことに気をつけるべきか。ノンフィクションライターの高橋真樹さんは「断熱性能に注意してほしい。

 

日本の平均的な住宅に比べて断熱性能が高い家では、モデルケースの場合、年間の光熱費が約14万円もお得になる。車のように住宅も燃費を考えて購入したほうがいい」という――。(第3回)

 

※本稿は、高橋真樹『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

将来のお金が心配な人ほど断熱改修すべきだ

本稿では断熱と経済面の関係について解説します。いくら断熱したほうが健康に良いというデータがあっても、

 

エコハウス(高気密・高断熱の家)にお金がかかりすぎるのであれば、一般の人には手が届きません。

 

しかし、実は将来のお金が心配な人ほど、新築住宅ならエコハウスを選び、既存住宅なら断熱改修するべき理由があります。

 

新築の場合で説明します。エコハウスの初期費用は、確かに一般的な性能の住宅より費用が高くなります。

 

とはいえ、最低限必要な断熱性能にアップさせるだけであれば、70万円程度から効果が見られます。さらに上の性能を求め、断熱等級4から、世界レベルの断熱等級7にアップさせる場合でも、300万円ほどです。

 

数千万円する住宅1軒分の費用から考えれば、支払えない額とは言えないでしょう。そしてその差額は、いずれ回収することが可能です。

 

住宅にまつわるお金の話では、日本ではいつも初期費用ばかりが注目されてきました。でも、それでは結果的に損をすることになってしまいます。

 

例えば、住宅購入を検討しているときに、立地や外観、間取りや設備などがまったく同じ2棟の住宅を紹介されたとします。Aの物件は2000万円で、Bは2300万円です。これだけの情報しかなければ、誰もがAを選ぶはずです。

ドイツ並みにすれば年間約14万円も節約できる

しかし2棟の建物は、断熱気密性能が大きく異なっていました。Aは日本の省エネ基準レベル(断熱等級4)で、Bはドイツ並みのエコハウス(断熱等級7)です。

 

光熱費は、Aが月平均2万円(年間24万円)、Bが8000円(年間9.6万円)になります。電気代などが、将来もいまとまったく同じだったとしても、年に14.4万円の差がつくので、初期コストの300万円の差は21年で逆転します。

 

そしてその後は、Bの建物のほうが毎年14万円以上、得をします。

 

住宅ローンが35年だとしたら、払い終わるまでにBの建物のほうが500万円以上得することになります。初期費用の差額の300万円を引いても、200万円以上のプラスです。

 

一方、断熱性能の低いAの住宅を選んだ人は、この時点までに500万円のお金を、家にではなくエネルギー会社、もっと言えばアラブの産油国などに支払ったことになります。もちろん付加価値としては何も残りません。

 

現実的には、金額の差はもっと広がる可能性もあります。例えば電気代は、2022年の1年間だけで平均20%以上も上昇しました。

 

今後も、円安や燃料費の高騰などにより、電気やガスなどのエネルギー価格は、長期的に上昇すると見られています。長い目で見ると、ここで行った計算よりも、Aの家とBの家の光熱費の最終的な差額は、より広がる可能性があるのです。

断熱性能の低い住宅は、長期的には損をする

そこまでわかっていたとしても、初期費用の300万円を捻出するのが難しいという方はいるでしょう。

 

しかし、毎月のローンの支払いと光熱費の額を合わせて計算すると、実は毎月の出費も変わらないどころか、Bの家を選んだほうが安くなります。

 

Aの家(2000万円)は、ローンの支払いと光熱費の合計が、月8.1万円です。Bの家(2300万円)は、同じく月7.8万円になります(図表1)。

 

このように、断熱性能の低い住宅を選ぶと、将来のお金を失うことにつながります。将来のお金のことを考えるほど、初期費用をかけて断熱性能を高めることは重要なのです。

 

ここまでは計算を単純化するために、あえて光熱費の違いだけで説明しましたが、住宅のランニングコストは光熱費だけではありません。

 

設備の更新費用や、外壁や屋根の維持・修繕などにかかるメンテナンス費、リフォーム費用などが加わります。住宅の初期費用は氷山の一角で、ランニングコストのほうが大きくなります(図表2)。

家具や住宅の劣化を防ぐことにもつながる

そして設備更新費やメンテナンス費についても、断熱気密性能を重視した住宅なら、相対的に安く済ませることができます。

 

設備では、エアコンは13年程度で更新するのが一般的ですが、4台必要な住宅と2台で済む住宅とでは、2倍の差が出てきます。

 

また、暑さや寒さ、湿度のコントロールが容易なことで、結露やカビも発生せず、家具や住宅そのものの劣化を抑えることができます。

 

それにより、メンテナンス費も大幅に下がります。こうした出費の差を加えると、Aの家とBの家との差額はさらに広がります。それに加えて、すぐには数値化しにくい健康や快適性についてのメリットもあります。

 

住宅を断熱化することによる健康面のメリットを金額に試算する試みも行われています。

 

先述(第2回「寒い部屋でガマンしていると健康寿命が4年縮まる…最新研究でわかった『住宅と健康』の怖い関係」)のスマートウェルネス住宅等推進調査事業では、

 

夜間頻尿にともなう経済的損失を、当事者が直接支払う費用に加えて、国の健康保険や労働損失費用などの間接費も合わせると、1人あたり年間約11万円と算出しています。住宅が暖かくなればこの費用が不要になります。

 

住宅を断熱して健康的に過ごすことによる経済効果は、個人レベルはもちろん、国レベルでも見過ごせない金額になります。

断熱はやった分だけ効果を感じられる

住宅を建てる際、多くの人は目に見える部分ばかりに注目しがちです。予算が足りない場合は、キッチンや内装、設備、家具などを優先して、断熱など見えないところの予算を削る傾向があります。しかしそれはお勧めできません。

 

家具やキッチンは後から追加したり、リフォームしたりすることが比較的容易ですが、断熱は後から追加するのが簡単ではないからです。

 

私はよく「断熱は裏切らない」と言っています。どこかで聞いたようなフレーズですが、筋力トレーニングと同様に、断熱もやればやった分だけ効果が感じられるようになります。断熱・気密は目に見えないので、初期費用の支出をためらう気持ちはわかります。

 

でも、住宅を建てる最初の段階でしっかり投資することで、ランニングコストを長期にわたり削減してくれる、ありがたい存在に変わるのです。

EUでは「住宅の燃費」を考えるのは当たり前

住宅の燃費やランニングコストのことを伝えると「考えたこともなかった」という方が大勢います。そういう人でも、普段、車や家電を購入する際には、燃費や省エネ性能を意識しているはずです。

 

車や家電よりはるかに高価で、長い時間を過ごす住宅の燃費性能を、多くの人が考える機会がなかった理由はなぜでしょうか。

 

EU(欧州連合)では、住宅の燃費性能の表示制度を設けることが義務づけられています。日本で言えば、家電製品に省エネ性能ラベルが付いていますが、それと同様です。

 

不動産屋さんにも、街中の広告にも、駅徒歩○○分、3LDKなどといった情報とともに、住宅の燃費が記されています。

 

EU全土で採用されている燃費性能表示に、「エネルギーパス」という証明書があります。

 

エネルギーパスの指標は、年間を通して快適な室内温度を保つために必要なエネルギー量を、「床面積1m2あたり○○kWh(キロワットアワー)」という形で数値化しています。

 

このように共通のものさしで燃費を表示することで、誰もが容易に断熱性能を確認することができるのです。消費者はその情報を、家を借りたり買ったりする際の重要な要件のひとつと考えています。

 

日本では共通のものさしで住宅の燃費性能を示す義務がありません。そのため、各社が独自の基準を設けてアピールしてきましたが、消費者からするとどちらの性能が優れているのか、判断するのが容易ではありませんでした。

「リフォームすればいい」という発想になっている

日本で住宅の燃費の共通のものさしをつくろうと考え、「日本エネルギーパス協会」を設立した今泉太爾さんはこのように言います。

 

「日本では住宅の価値は築年数で決まりますが、エネルギーパスが義務づけられているEUでは、家の燃費が重視されています。

 

そのため、燃費の悪い家は賃料や販売価格が割安になります。そこで家の貸し手やつくり手は、家の価値を高めようと、燃費向上に熱心になります。日本でも共通のものさしが一般の人に広まることはとても重要です」

 

日本ではこれまで、住宅を購入するために長期の住宅ローンを組むのが当たり前でした。しかし、35年ローンを払い終わる頃には老朽化して、住み続けるためにはもう一軒建てるくらいの投資が必要となります。

 

また、各世代が35年ローンを組んで、同じことを繰り返してきました。人生の多くの所得を住宅にかけ続けなければならないその構造は、人々を幸せにするシステムとは言えません。

 

欧州では、祖父の建てた住宅を孫がリフォームして暮らすケースも珍しくありません。中古住宅でも、質さえ良ければ高値で流通する仕組みがあり、100年、200年と住宅を使い続ける社会になっています。

 

そのため日本と欧州では、収入が同じでも、自分の人生のために使えるお金が大幅に違います。その要因のひとつには、住宅の燃費と耐久性の問題があることは間違いありません。

住宅性能の低さは国内経済に悪影響を与えている

これまで日本の住宅産業は、安くて質の悪い住宅をたくさん建てては壊し、また新築するというスクラップ&ビルドのモデルで商売をしてきました。

 

しかし人口減少時代のいま、それが立ち行かなくなってきています。日本でも、燃費性能が良く、一度建てたら長く使い続けられる質の高い住宅を増やす必要があるのです。

 

日本の住宅の性能の低さは、国レベルでの経済的な損失にもつながっています。日本のエネルギー自給率はわずか13.4%(2021年)です。

 

また電力に限っても、自然エネルギーの割合は20.3%にすぎません。この他のエネルギーは、海外から輸入しています。

 

金額にすると18年の化石燃料の輸入額は19.3兆円です。この時点でも、日本の全輸入額の4分の1ほどを占めています。

 

さらに円安と化石燃料の高騰が進んだ22年には、約33.5兆円と跳ね上がりました。この年の日本の貿易収支は21.7兆円ほどの赤字です。エネルギーに支払うお金のために、日本の貿易は赤字になっているのです。

 

この33.5兆円を、日本の全世帯(5431万)で単純に割ると、1世帯あたりの負担額は、なんと61.7万円にもなります。

 

光熱費としてだけでなく、エネルギーは私たちの暮らしに関わるすべての事業に関わっています。そのためこの金額が、薄く広くさまざまな生活物資やサービスに付加されています。

 

しかもこのお金で買ったエネルギーは、燃えてなくなっているのです。

車や家電は高性能なのだが…

20年に、日本が化石燃料を輸入した国のリストを見ると、原油では、サウジアラビアをはじめ、湾岸産油国が上位となっています。これらの国々の多くでは、人権侵害や王族による財政の私物化などが指摘されています。

 

また天然ガスや石炭では、ウクライナに軍事侵攻をすることになるロシアが上位に入っていました。すでに経済的に豊かとは言えない日本のお金を、こうした国々に流し続けていてよいのでしょうか。

 

そして、大金を払って輸入したエネルギーを、国レベルで穴の空いたバケツから捨てている現状は、あまりにもったいないことです。

 

日本の住宅の温熱環境についてまとめます。日本の住宅は、国際的な断熱基準にまったく満たない、夏は暑く、冬は寒く、結露が当たり前の環境です。

 

それにより、冬に交通事故を上回る人が亡くなるなど、健康被害が出ています。

 

また、エネルギーのロスが多く、光熱費などのランニングコストが高くつくという、経済的な損失を生じさせています。

 

日本は先進国で、国際的に自動車や家電の性能が高く評価されてきました。そのため住宅も、漠然と性能が良いと考える人が多かったかもしれません。

 

しかし、車や家電とは大きく異なる点があります。住宅は輸出されないため、国際競争にさらされる機会がなく、閉じた市場の中で性能とは別の部分で業者が競ってきました。

耐震性能には厳しいが、断熱性能の基準は存在しない

性能を測る共通のものさしがない中で、消費者が家の性能を比べることは困難です。

 

ハウスメーカーの知名度や、「国の省エネ基準の最高性能」などという謳い文句を信用して住宅を建てたものの、夏は暑く冬は寒い、というケースが後を絶ちません。

 

しかも車や家電と違い、住宅は人生で何度も購入するわけではないため、気づいたことを次に活かす機会がありません。

 

住宅業界の怠慢を容認してきたのは、監督官庁である国土交通省です。国は住宅業界への配慮を重視して、統一した性能の表示を求めず、最低限の性能を義務化する制度もつくりませんでした。

 

国やメーカーは、1995年に起きた阪神・淡路大震災以降、命に直結する耐震性能については力を入れてきました。しかし、省エネ性能については命に関わるものではないとの考えから、軽視してきたのです。

 

住まい手の生命や財産を守るはずの住宅が、逆にそれらを損ねてきたという事実を、国や住宅業界は大いに反省する必要があります。

 

そして消費者も、これからはハウスメーカーの言いなりではなく、自ら住宅の性能に関心を持ち、学び、行動する、主体的な住まい手になる必要がありそうです。

 

高橋 真樹(たかはし・まさき) ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師 1973年生まれ、東京都出身。国際NGO職員を経て独立。国内外をめぐり、環境、エネルギー、まちづくり、持続可能性などをテーマに執筆・講演 取材で出会ったエコハウスに暮らす、日本唯一の「断熱ジャーナリスト」でもある。著書に『日本のSDGs それってほんとにサステナブル?』(大月書店)、『こども気候変動アクション30』(かもがわ出版)、『ぼくの村は壁で囲まれた パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)、『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』(集英社新書)など、ほか多数。 ----------