寒い部屋でガマンしていると健康寿命が4年縮まる…最新研究でわかった「住宅と健康」の怖い関係 | ~たけし、タモリも…「1日1食」で熟睡&疲れナシ~

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住宅の室温と健康には深い関係がある。ノンフィクションライターの高橋真樹さんは「室温が低い住宅に住んでいる人は、健康寿命が4年縮まるという研究がある。

 

健康を守るためには室温を18℃以上に保つことを意識したほうがいい」という――。

 

※本稿は、高橋真樹『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

断熱性能と健康には深い関係がある

本稿では、家の断熱性能と健康との関係を見ていきます。まずは夏の熱中症についてです。

 

最近の夏は記録的な猛暑が続き、熱中症で救急搬送される方が増えています。そのうち、もっとも多いのが自宅で熱中症になるケースで、毎年およそ4割を占めています。

 

また、6割前後が65歳以上の高齢者です。熱中症で亡くなった高齢者のほとんどが、エアコンをつけていなかったことも指摘されています。

 

自宅でエアコンをつけずに倒れる高齢者が多い理由として、エアコンが贅沢品だと感じる意識や、体温調節機能の衰えにより暑さが感じにくくなることのほか、光熱費を気にしてがまんする傾向もあるとされています。

 

しかし、家の断熱性能が高ければ、エアコンを使用しても消費するエネルギーはわずかで済みます。住宅の断熱性能がきちんとしていれば、この方たちは倒れたり亡くなったりせずに済んだのではないでしょうか。

 

次に、冬の健康問題について考えていきます。最近は、夏の熱中症に注目が集まりがちですが、実は夏と冬とでは、気温の影響で亡くなる人の数は、冬のほうが圧倒的に多くなっています。

 

熱中症も危険ですが、早めに対処すれば助かる可能性は高まります。一方で冬は、寒さの影響でさまざまな疾患が重症化しやすくなります。

寒さで亡くなる人が少ないのは北海道

日本での死因の1位はがん(悪性新生物、24.6%)です。2位は心疾患、3位は老衰、4位が脳血管系疾患です(厚生労働省、2022年)。

 

寒さの影響を受けやすいのは、心疾患と脳血管系疾患で、いずれも血液の循環に関係する病気(循環器系疾患)です。この2つを合わせると、死因の21.6%にのぼります。

 

また、介護が必要になった人の割合では、循環器系疾患は認知症を上回り、1位となっています。さらに医療費別では、循環器系疾患は、がんを上回り6兆円を超えています。

 

循環器系疾患の増加は、患者や家族が苦しむだけでなく、医療費や介護費などの社会保障費を押し上げ、国民の負担となっています。

 

全国の都道府県で、冬に家の中の寒暖差で亡くなる人の割合が多いのは、どこでしょうか。図表1は、暖かい季節に対して寒い季節に、月平均死亡者の割合がどれくらい増えるかを示したものです。

 

47都道府県を並べて、トップ3とワースト3を抜き出しています。もっとも割合が少ないのが、寒いはずの北海道です。逆に、亡くなる割合がもっとも多いのは、北海道に比べて温暖なはずの栃木県です。栃木県は、北海道に比べ、倍以上も冬季死亡増加率が高くなっています。

断熱された住宅が多い地域ほど死亡率が低い

ワースト10まで広げると、愛媛や鹿児島、静岡、熊本など、暖かい印象のある四国や九州の県が入ります(厚生労働省「人口動態統計」、14年)。確かに平均気温だけで見れば、四国や九州は温暖です。

 

しかし、冬季の朝晩はぐっと気温が下がり、家の中が危険な寒さになることも少なくありません。この寒暖差が、リスクをもたらしています。

 

都道府県別の冬季死亡増加率と、断熱された住宅の普及率には、相関関係があります。断熱された住宅が多い地域ほど、冬季死亡増加率が低いことがわかったのです。

 

総務省が作成した高断熱住宅の普及率を都道府県別に比較する地図が作成されたのは、08年のことです。

 

当時言われていた「高断熱住宅」のレベルは、内窓やペアガラスの窓が基準なので、それほど断熱性能が高い住宅とは言えません。それでも、住宅の断熱性能と健康とが関係していることが示されました。

 

断熱された住宅と冬季死亡増加率の相関関係の高い関東や四国、九州などでは、内窓やペアガラスは普及していませんでした(08年当時)。

 

これは個人が気をつけるべき問題というよりも、地域・行政レベルで「自分たちの住む地域は暖かい」と錯覚し、断熱対策をおろそかにしてきたことが、冬季死亡増加率を高めてしまった原因につながっていると考えられます。

室温が下がるほど健康リスクが高まる

なお欧州の調査でも、冬の死亡増加率は、温暖なポルトガルやスペインが高く、北欧のフィンランドやデンマークは低いというデータが出ています。

 

暖かいと考えられている地域でも、寒暖差で人が亡くなっているということを、しっかりと認識した上で対策を採る必要があります。

 

国際的な基準では、どれくらいの室温が推奨されているのでしょうか。2018年に、WHO(世界保健機関)は「住宅と健康ガイドライン」を発表しました。

 

そこでは、寒さから健康を守る最低室温の基準として、居室を「18℃以上にすべき」という強い勧告を出しています。居室の温度がこれより低くなると、健康に深刻な影響が出るリスクがあるというのです。

 

WHO勧告の根拠のひとつとなったイギリス保健省イングランド公衆衛生庁「イングランド防寒計画」では、室温が18℃未満では血圧上昇や循環器系疾患に影響し、16℃未満では呼吸器系疾患に影響する恐れが報告されています。さらに室温が下がれば下がるほど、さまざまな疾患のリスクが高まります。

断熱性能が高ければ光熱費は節約できる

ポイントとなるのは「最低室温」という部分で、18℃あれば十分という意味ではありません。寒さの影響を受けやすい高齢者や小児はさらに暖かい温度が必要とされています。

 

より重要なことは、家族が集まるリビングだけでなく、「家全体が18℃以上」という点です。これを「全館暖房」と呼びます。

 

欧米や韓国などでは、人のいない部屋も暖める全館暖房が一般的で、居室によって極端な温度差が出ることはありません。

 

家全体を暖房すれば、とんでもない光熱費がかかると思われるかもしれません。しかし、こうした国々の住宅は、一般的に断熱性能が高く、全館暖房をしても家計を圧迫するほどの光熱費はかかりません。

 

日本では、住宅の断熱性能が著しく低いため、家全体ではなく部屋ごとに暖房する「間欠暖房」が一般的です。リビングに家族全員が集まってその部屋だけ暖房することは、一見すると効率が良さそうです。

 

しかしリビングだけが18℃でも、廊下や脱衣所、浴室、トイレなどは極端に低温になるため、健康の観点からは推奨できません。図7で、北海道の冬季死亡率が低かった理由は、断熱性能を高め、全館暖房をしている住宅が多いからです。

リビングと脱衣所の温度差は15度以上ある

部屋間の温度差の大きさが健康に影響する例としては、いわゆる「ヒートショック」が知られています。主に冬の浴室やトイレなどで血圧が変動することで、失神、心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こすものです。

 

日本では、冬場の暖房の効いたリビングと、無暖房の廊下や脱衣所、トイレなどとの温度差は、平均15℃程度あります。暖かいリビングから、寒い脱衣所に行って裸になると、血圧が急上昇します。

 

さらにお風呂の設定温度を高めにしていると、湯船に入った瞬間に血圧が一気に下がります。血圧の急激な上昇と下降の繰り返しが、脳や心臓、血管などにダメージを与えます。

 

それにより意識を失ったり、心筋梗塞を引き起こし、浴槽で倒れたり溺れたりしてしまうのです。夜中に目が覚めて、暖かい布団から寒いトイレに行くときも同様です。

 

では入浴中のヒートショックで、いったいどれくらいの方が亡くなっているのでしょうか?

正確な数は発表されていませんが、消費者庁によると、住宅のお風呂の中で溺れて亡くなった65歳以上の高齢者(溺死者)の数は、毎年5000人前後で推移しています(2021年は4750人)。

 

また、入浴中に倒れて他の疾病に起因する病死として分類された方も加えると、約1万7000人と推計されたこともあります(11年。東京都健康長寿医療センター研究所)。

 

これには、命はとりとめたものの後遺症が残ったり、寝たきりになったりした人の数は含まれていません。それも入れれば、相当な数にのぼることは間違いありません。

ヒートショックの死者数は交通事故の6倍以上

全国の交通事故の年間死亡者数は、2610人(22年。警察庁)です。ヒートショックで亡くなる高齢者の数だけでもそれを大きく上回っていますし、1万7000人という推計値なら6倍以上にもなります。

 

交通事故よりも、家のお風呂で亡くなっている方のほうが、はるかに多いのです。

 

この状況を受けて、健康と住宅の断熱性能の関係について研究を続けてきた近畿大学の岩前篤教授は、今後は「いってらっしゃい、気をつけて」ではなく、「お帰りなさい、気をつけて」と言うべきだと注意を呼びかけています。

 

ヒートショック対策として、自治体や医師が、浴室や脱衣所の暖房を勧めることがあります。一時的な対策としての意味はありますが、

 

十分な断熱をしないまま暖房をつけると、効率が悪く、光熱費も上がってしまいます。ヒートショックの対策としても、脱衣所と浴室の断熱をすることは極めて重要です。

ほとんどの住宅が国際基準を満たしていなかった

欧州などでは、家を暖かくすることが病気を減らすという認識のもと、健康政策のひとつとして住宅政策が取り組まれてきました。

 

一方で日本では、健康と住まいの関係が「エビデンスがない」との理由から軽視されてきたことで、防ごうとすれば防げたはずの住宅内での事故が、起き続けてきました。

 

しかし最近になって、日本でもようやく住宅と健康の関連性についての学術調査が行われるようになりました。国土交通省と厚生労働省による「スマートウェルネス住宅等推進調査事業」です。

 

2014年度から23年現在まで毎年行われてきたこの全国調査のユニークな点は、建築分野の研究者と医師とが、共同で調査をしていることです。分野を横断するアプローチにより、新しい知見が積み重ねられています。

 

それにより、寒い住環境が高血圧や循環器系疾患に悪影響を与えることが明らかになってきています。そして、これまでにはなかった「生活環境病」という捉え方もされるようになってきました。以下に、同調査事業の成果の一部をお伝えします。

 

最低室温については、断熱改修を予定している全国約2190軒の戸建て住宅を対象として、冬の2週間の室温を10分ごとに測定した調査があります。

 

リビングに加え、寝室や脱衣所も同時に測定したところ、約9割の住宅(断熱改修前)が18℃を下回っていました。日本ではほとんどの家が、WHOの基準を満たしていないことが裏づけられました。

断熱性能が上がれば脳卒中のリスクが低下する

断熱改修をした約2000軒の住宅に暮らす4000人ほどを対象に、改修前と改修後の健康状態の変化を5年間にわたって比較する調査も行われています。

 

この調査では、血圧について性別や年齢、肥満の度合いなど、条件を揃えて比較した結果、断熱改修後には起床時の最高血圧が平均3.5mmHg下がったという結果が出ました。

 

一般的に高血圧の人は、脳卒中や心筋梗塞など深刻な病気にかかりやすくなります。

 

そこで厚生労働省は、40〜80歳代の国民の最高血圧を平均4mmHg下げることを目標に掲げています(厚生労働省「健康日本21(第二次)」の目標値)。

 

それを達成できれば、脳卒中による死亡者を年間1万人、心筋梗塞による死亡者を年間5000人減らせるとしています。

 

これまで血圧を下げる対策としては、減塩や減量、適度な運動、禁煙や節酒などが推奨されてきました。しかし断熱や暖房によって室温を上げることは「科学的根拠が不十分」として、

 

重視されてきませんでした。ところがこれらの調査結果によって、断熱改修でかなり大きな効果が得られる可能性が出てきました。

寒い部屋は骨折やねんざのリスクも高まる

同調査事業の委員会で幹事を務める慶應義塾大学の伊香賀俊治教授は、次のように言います。

「これまでは食生活やライフスタイルの変更などあらゆることを総合して、最終的に血圧を4mmHg下げることをめざしてきました。

 

ところが調査の結果、住環境を変えるだけで3.5mmHgも下がることがわかりました。これには、調査に参加した医師の方たちも驚いていました。これを機に、住まいを暖かくする大切さが見直されればよいと思います」

 

同調査事業では、住宅を暖かく保つことが、ケガのリスクを減らしたり、他のさまざまな疾病を改善したりする可能性も示されました。

 

例えば、室温と骨折・ねんざとの関連では、平均室温が14℃以上の住宅の居住者に比べ、14℃未満の住宅の居住者は、骨折・ねんざが1.7倍も多くなっています。

 

その理由として、寒さにより皮膚表面の血流量が減り、筋肉が硬直することでケガにつながっている可能性が指摘されています。

 

また、住宅の断熱改修をして平均室温が上昇した住宅の居住者は、夜間頻尿(過活動膀胱)、腰痛、睡眠障害、風邪、アレルギー性鼻炎、子どもの喘息やアトピー性皮膚炎など、さまざまな健康に関する症状が改善するという報告も出されています。

「18℃以上の室温」が健康を守る

伊香賀教授が関わる別の研究では、脱衣場の平均室温が14.6℃の住まいに暮らす人は、それより2.2℃低い住まいに暮らす人よりも、

 

要介護状態になる年齢が4年遅くなる、つまり健康寿命が4歳分も延びるという結果が出ています。

 

この研究はまだデータ収集量が十分とは言えませんが、それでも、住宅の寒さと健康との関連性は、医師や研究者が当初想定していた以上に大きいことがわかり始めています。

 

なお、寒さや暑さの感じ方については個人差がかなりあり、本人の自覚症状がないまま疾病が悪化するケースもあります。

 

客観的には低温でも、「そんなに寒くない」と感じたり、長年の生活習慣で気にならなくなっている人は多いのです。

 

しかし本人が大丈夫だと思っていても、温度差によって血管や皮膚、内臓はダメージを受けています。

 

WHOが18℃以上という基準を強く打ち出した背景には、寒さの感じ方は人それぞれでも、普遍的に健康に影響を与える温度があるという科学的な知見の積み重ねがあります。

 

高橋 真樹(たかはし・まさき) ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師 1973年生まれ、東京都出身。国際NGO職員を経て独立。国内外をめぐり、環境、エネルギー、まちづくり、持続可能性などをテーマに執筆・講演 取材で出会ったエコハウスに暮らす、日本唯一の「断熱ジャーナリスト」でもある。著書に『日本のSDGs それってほんとにサステナブル?』(大月書店)、『こども気候変動アクション30』(かもがわ出版)、『ぼくの村は壁で囲まれた パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)、『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』(集英社新書)など、ほか多数。 ----------