レストランでスマートにワインをオーダーするのはハードルが高い。ワインリストにズラリと並ぶワインを見ても、何をどう頼んだらいいのかわからないという人も多いだろう。
正統フランス料理レストランのソムリエに、ワインにまつわるマナーと楽しみ方を教えてもらった。(取材・文/フリーライター 増澤曜子)
料理との相性でワインはよりおいしくなる
ワインを飲みながら料理を食べるとおいしさが増すいっぽう、ワインも料理といっしょに飲むことで、その味わいがデリケートに変わる。
ワイン好きならば、西洋料理とワインのマリアージュ(相性)も、じっくりと楽しんでみたいものだ。
今回話を聞いた東京・京橋のレストラン「シェ・イノ」社長の伊東賢児さんは、1989年に名古屋ヒルトンホテルに入社して、レストランの配属になったのがキャリアのスタート。
ソムリエ資格を取得して、シェフ・ソムリエに。
コンクールでも授賞を重ね、29歳でシェ・イノにシェフ・ソムリエとして迎えられた。シェ・イノは、フランスの三つ星レストランで修行したシェフが約40年前に開いた正統派フランス料理店だ。
伊東さんが管理するカーブ(ワイン貯蔵庫)には、料理にふさわしいワインがそろっている。出番を待つ銘柄ワインの数は約1万本。
西洋料理の基本であるフランス料理はコース料理が一般的である。それでは料理の流れに沿ってワインの楽しみ方を見ていこう。
まずはアペリティフ(食前酒)から始めて、心と喉をうるおしてリラックス。慣れたビールもよいが、せっかくだから、ハーブやスパイスを加えたフレバ―ドワインやカクテルを飲みたいところだ。
「ビール以外で炭酸が入っているもの、炭酸はなしでさわやかなもの、などのようにお好みをおっしゃっていただければご用意します」
そして、食事を始めるためにワインを選ぶ。和食でごはんとおかずのうま味がまざってたまらないおいしさになるように、フランス料理は料理とワインのマリアージュ(相性)でえもいわれぬおいしさが味わえる。
「一般的には、繊細な魚には繊細な白ワイン。力強い赤身肉には赤ワインのフルボディをおすすめします」
一つは、赤ワイン製造の過程で、ブドウの皮から赤色が抽出されている途中、色が薄いうちに果汁だけを抜き取り、発酵させる方法。もう一つは、赤ワイン用のブドウを皮ごとゆっくりプレスして色がついた果汁を発酵させる。
そして、スパークリングワインだけは赤と白をまぜてもよいことになっていて、1次発酵が終わったあとの赤ワインと白ワインをブレンドし、炭酸ガスが発生する2次発酵を行う。
ちなみに、スパークリングワインの中でも、フランス・シャンパーニュ地方内でつくられたものだけを「シャンパーニュ」と呼ぶことができる。
シャンパーニュを注いだグラスの中では、細かい泡が下から上に昇り続けるが、これをフランスでは「永遠に幸せが生まれ続けているんだよ」と表現する。ロマンチックなワインでもある。
「シャンパーニュは一般的に魚介系に合いますが、特別な飲み物ですので、料理の相性で選ぶというワインではありませんね」
フランスレストランではコース料理が一般的であり、正式なフルコースは①アミューズ(突き出し)→②オードブル(前菜)→③ポタージュ→④魚料理→⑤アントレ(第一肉料理)→⑥氷菓子→⑦ロティ(肉料理メイン)→⑧野菜料理(ロティの付け合わせとなることが多い)→⑨チーズ→⑩デザート→⑪コーヒー、となる。しかし通常は、肉は1回であるなど省略されていることが多い。
そして魚料理にはこれ、肉料理にはこれというようにおすすめのワインがグラスで用意されているので、少人数の場合はそれを選ぶとよいだろう。
シェ・イノのようにア・ラ・カルト(一品料理)が注文できる店では、ワイン好きであれば先に飲みたいワインを選んで、それに合う料理を出してもらうことも可能だ。
ワインを選ぶとき、ソムリエに相談するコツは?
ワインボトル1本はグラス6杯ほどになる。人数が多かったり、酒に自信があれば、いつもより上等なボトルワインに挑戦したいものだ。
しかし、いざワインリストを見ても、ワイン名がずらりと並ぶ中から選ぶのは難しい。このときソムリエに相談するにはコツがある。
「さわやか、甘くない、酸味や渋みが苦手など、具体的におっしゃっていただけるとよいですね。ふだん飲んでいるワインでお好きなワインがあればお伝えください。
お客様のお好みに合ったワインをおすすめいたします。
カベルネ・ソーヴィニヨンなどブドウの品種、あるいはコート・デュ・ローヌなど地域名など、さらにボルドーの『シャトー〇〇』など具体的なワイン名までわかれば、よりお好みがわかります。
この前、これを飲んでおいしかったと、エチケット(ラベル)の写真をお見せいただくと理想的です」
飲んだワインが気に入ったら産地やブドウの品種などを尋ねて、自分のお気に入りリストに加えると、次に飲むときの参考になる。
一流シェフの美しくおいしい料理と香り高いワインの食事を堪能したら、デザートワインや蒸留酒で食事を締める「ディジェスティフ(食後酒)」がある。
「アペリティフは飲む方が多いですが、食後酒は飲まない方も多いですね。無理に召し上がらなくてもよいと思います」
飲み足りなければ、バーなどに場所を変えるほうがスマートである。
ワインは好きだが、あまりお酒に強くない。あるいは、商談などで酔いたくないというときもある。そういうときに、飲み方のコツはあるだろうか。
「グラスワインでしたら、半分の量でお出しすることもできます。ノンアルコールのスパークリングワイン、白ワイン、赤ワインもございます。
また飲み方としては、水をひんぱんに飲むことをおすすめします。ワインの量よりも多くの水を飲むようにすればよいでしょう」
その他にワインを飲むときのマナーとしては、自分で注がないようにしたい。
「フォーマルな場では、給仕人についでもらいます。グラスが空いたら軽く合図をすれば、給仕人がきます。通常は、もちろんグラスが空く前にサーブいたしますが(笑)」
その場合、グラスは手で持たず、テーブルに置いたままにする。そして、ワイングラスのふちにも気をくばりたい。口についた料理の油でどうしてもグラスのふちが汚れてしまうことがある。
「気づいたら、さりげなく指先で拭うときれいになります。グラスを手に持ってナプキンのはじでさっと拭いてもよいです。乾燥すると取れにくくなりますから、気づいたらさっと拭いましょう」
あまり考えたくないが、ワインをこぼしてしまったり、グラスを倒してしまったらどうしたらよいだろう。
「まず、同席の方を『大丈夫ですか』と、ワインがかかっていないか気遣いましょう。そして、店の人を呼んで片付けてもらいます」
自分のことより、まず相手のことを気遣うことは、レストランだけでなく人生のさまざまな場面で必要となる大人のマナーである。
自分が知っているものでワインの香りや味を表現する
レストランでのワインは、料理との最高のマリアージュを楽しむもの。そのためには、ワインと料理を交互に口に運ぶのがコツである。
「まず、少しワインを飲んで口の中を湿らせます。次に料理を食べます。またワインを少し飲みます」
そしてワイン好きであれば、ワインのおいしさを言葉で表してみたい。香りや味という本能的な感覚を言葉にすることで、体験として記憶できるからである。
「香りは、リンゴの香りがするとか、子どもの頃おばあちゃんの家にあった漢方薬の香りだとか、自分が想像できるもので表現しましょう。
そして同席者が理解でき、想像できる言葉で表現すると、共感してもらえて、素晴らしさや楽しさが共有できます」
本などにはしばしば「洋梨の香り」などと書いてあるが、洋梨を知らない人がこう言っても体験にはなりにくいという。
「味は、テイスティングでは、シルキー、輪郭がはっきりしている、口にふくめるとおだやか、などの言葉を使うことが多いですが、これもご自分なりの言葉で表現してみてください」
伊東さんに、いいワインを表現してもらった。
「スケーターが氷の上を滑るようになめらかな余韻が長く長く続く。いいワインは、余韻が途中でプツッと切れることなく、長く続きます」
このように借りてきた言葉でなく、自分が知っているもので表現する。これを繰り返すことで、ワイン体験が積み重なっていくのだ。
最後においしいワインを見つけるコツを教えてもらった。
「まずは、ご自分がどのような味わいのワインが好きなのか趣向を見つけてください。
もし、しっかりしたボディのワインがお好きであれば、上品で世界最上のワインといわれるロマネ・コンティを飲んでも優しすぎて物足りなく感じ、落胆してしまうはずです」
反対に自分の好みの味を知っていれば、超高級でなくても満足できるワインを選ぶことができるというわけだ。
「最高のワインとは、飲み手に幸福感を与え、笑顔にさせるものだと思います」
ワイン体験を重ねれば重ねるほど自分の好みがわかり、幸福感を味わえる機会が増えていくのである。
赤ワインの「ボディ」とは?
白ワインの味わいはどう表すか
伊東賢児さん シェ・イノ社長兼ソムリエ© ダイヤモンド・オンライン
ボディとは赤ワインの味わいを表す言葉で、フルボディはコクがあり力強く、渋みや重みがある。反対に軽くさらっと飲めるのがライトボディ。中間がミディアムボディである。
赤ワイン独特の表現で、白ワインやロゼワインでは、スッキリ・コクがあるや、辛口・甘口などと使う。
「肉でも鳥や豚など、焼いて白くなるものは白ワインも合います。ロゼは白身の肉や魚に合いますが、意外に中華にも合いますよ」
ピンク色の「ロゼワイン」は、21世紀に入って世界的に人気が高まっている。ピンク色といっても、赤ワインと白ワインを混ぜて作るのではない。
ヨーロッパでは赤ワインと白ワインを混ぜてロゼにすることは原則禁止されていて、大きく次の二つの製造法がある。