近未来「コーヒーが飲めなくなる」が誇張でない訳 コーヒーの「2050年問題」の知られざる中身 | ~たけし、タモリも…「1日1食」で熟睡&疲れナシ~

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コーヒー業界で話題になっている「コーヒーの2050年問題」とは(写真:SHUHEI.K/PIXTA)

コーヒー業界で話題になっている「コーヒーの2050年問題」とは(写真:SHUHEI.K/PIXTA)© 東洋経済オンライン

 

近い将来、慣れ親しんだコーヒーが飲めなくなる可能性があることはご存じだろうか? コーヒー種の脆弱性と地球環境の変化がもたらす収穫量・品質の低下が、すでにコーヒー業界では「コーヒーの2050年問題」として話題になっている。

 

国内外のコーヒービジネスを見てきたコーヒーコンサルタントであり、バリスタ世界チャンピオンでもある井崎英典氏の新刊『世界のビジネスエリートは知っている教養としてのコーヒー』から抜粋するかたちで解説する。

コーヒーが飲めなくなる⁉

前回記事で、コーヒーの豆がなるコーヒーノキのうち、「三大栽培原種」と呼ばれるのが「アラビカ種」「カネフォラ種」「リベリカ種」の3つであるとご紹介しました。

 

そのうち、私たちが普段飲んでいるコーヒーのメインが「アラビカ種」ですが、その栽培に適した農作地が気候変動によって、2050年には半分に減少するという驚くべき予測があります。これにより「コーヒーがこれまでのように飲めなくなるかもしれない」と深刻視されるに至っています。

 

「コーヒーの2050年問題」とも呼ばれることもあります。

初めてこの問題提起がされたのは2015年のミラノ万博でのこと。このまま地球温暖化が進めば、栽培時の平均気温が上がって降雨のパターンが変化し、収量が減るとともに品質も低下すると言われています。

 

お話ししたとおり、コーヒーは気候の影響を非常に受けやすい作物です。とくにアラビカ種は、栽培に適した土地が限定されます。コーヒーベルトの中でも標高が高く、寒暖の差が大きいところでないと栽培に適しません。

 

平均気温は年間通して20~25℃が適しており、暑すぎると病害のリスクが高まり、寒すぎても霜のリスクが高まります。適度な降雨量も必要で、干ばつが起こると収量が低下します。

 

実は私も、コーヒーの質が少しずつ変化していることを感じています。これは感覚的なものなのですが、長年コーヒー業界にいるテイスターの方たちと話すと誰もが同じような感覚を持っています。

 

「昔ほど素晴らしい酸味を持ったコーヒーが少なくなってきている」

そんな感想をよく聞きます。良質な酸味を含め、複雑な味わいや香味は、寒暖差がある土地でコーヒーノキが適度なストレスを受けながらじっくりと育っていくことで生まれると考えられています。

 

ここ2~3年ではあまり差は感じなくても、10年前と比べると味わいに多少なりとも変化があると言う人が一定数います。

 

生産者たちからは「昔はよい豆が採れていた区画で、採れなくなってきている」という話も聞きます。地球温暖化の影響は実際に起きているのでしょうか。最近は生産処理方法など発酵分野において技術革新が進んでいますが、裏を返せば「テロワール(地域特性)だけでは品質を担保することが難しくなってきている」という一面もあるのかもしれません。

 

これまでと同じ品種を同じように手をかけて栽培しても、収量が減り、品質も下がり、その結果として買い取り価格が下降すれば、栽培から撤退する生産者は増えることでしょう。

 

生産者が減れば、当然ながら世界に流通するコーヒーも減ります。「コーヒーが飲めなくなる」というのも、あながち「誇大表現」とは言い切れないかもしれません。

コーヒーをなくさない努力

とはいえ、私は正直さほど悲観的にはなっていません。コーヒーの種にはカネフォラ種、リベリカ種、また交配品種も存在し、ワールド・コーヒー・リサーチ(WCR)に代表される国際機関が、気候変動に耐えうる良質な品種の開発を積極的に行っています。

 

歴史を振り返れば、「人類はなんとかしてコーヒーを飲むはずだ」という確信もあります。歴史上、政策や国際情勢によりコーヒー不足に陥った国では、それを不満に思う人たちが必ずコーヒーを取り戻してきました。

 

フランス史上もっとも有名な英雄ナポレオンの失脚に少なからず影響を与えたのも「大陸封鎖令」の影響で国民にコーヒーを飲めない不満があったからだと言われているくらいです。

 

ちなみに「大陸封鎖令」でヨーロッパをコーヒー不足にしたナポレオンですが、本人はコーヒーが大好きだったと言われています。失脚してセントヘレナ島に幽閉され、体調が悪化してコーヒーを止められてからも、どうしてもコーヒーが飲みたいと言って周囲に懇願していたといいます。

 

当時、コーヒー不足に陥ったヨーロッパでは、さかんに代用コーヒーが作られました。しかし、カフェインを含む飲料を簡単に作ることはできません。そんなわけでナポレオン失脚後、ヨーロッパにコーヒーが戻ってきて大ブームになっています。

 

時代は進んで、2050年問題では世界的なコーヒー不足が懸念されるわけですが、現代ではさまざまな技術が研究・開発されています。品種改良の研究も進んでいますし、新たな種を見つけるための努力も行われています。

 

知り合いの科学者には、「コーヒーをなくしたくないという意志さえあれば、なんとかなるだろう」と言う人もいます。だからと言って、2050年問題を軽く考えるということではなく、起こるべき未来としてとらえ、コーヒーをなくさない努力を根気強く続ける必要があるのだと思います。

「よいものに適切な付加価値をつけて売る努力」

ただやはり、良質なコーヒーはこれまでのように「安く気軽に手に入るもの」ではなくなるかもしれません。コモディティコーヒーの世界でも努力は続くはずなので、低価格で高品質なコーヒーもなくなることはないと思いますが、いまほど手軽に手に入ることはないでしょう。

 

人生観を変えるほどの素晴らしい品質のコーヒーを楽しみたいのであれば、相応の金額を支払うことが必要になるはずです。

 

日本はスペシャルティコーヒーがもっとも浸透している国のひとつです。コモディティコーヒーの製品レベルも世界トップクラスで、消費者がスペシャルティコーヒーに触れる機会も数多くあります。

 

美味しいコーヒーにお金をかけることに対し抵抗感のない人が少なくありません。日本スペシャルティコーヒー協会の調査によると、日本のスペシャルティコーヒーの生豆輸入量におけるシェアは約11%だそうです。

 

日本はオークションで世界最高価格で落札されたコーヒーや、世界中の品評会で入賞した豆を数多く輸入しています。海外のマーケットでは売れないような高価な豆を販売している日本は、視察に来た外国人にもよく驚かれるほどです。

 

美味しいコーヒーを気軽に飲むことができる土壌ができたのも、熱意を持って奮闘してくれた先人たちのおかげであることは間違いありません。だからこそ、これからの時代に求められるのは、「よいものに適切な付加価値をつけて売る努力」だと思っています。

 

良質なコーヒーは今後収量が下がり、価格も上昇するかもしれません。だからこそバリスタは、高品質な原材料を素晴らしい技術、接客、空間演出をもって美しく提供する努力をしなければいけないと思っています。

 

既存の薄利を重ねるビジネスモデルではなく、いかに素晴らしい顧客体験を創造できるのか、という観点に立ってビジネスモデルを構築する必要があると考えています。その姿勢が、本質的なサステナビリティに直結すると信じています。