空から雨が垂れていた。空気の中を水が泳ぎ回り、窓には滴が伝っている。刃のように鋭いパンクロックが部屋を流れども、あたしの頭はぼんやりと微かに揺れるだけだった。
朝目覚めると外には陽が差していた
昨日の雨が作った小さな湖を
綺麗なランドセルを背負った少年が飛び越えていた
あの少年の股間にも性器が生えていることを想像すると、憎しみと恍惚を感じずにはいられなかった。
シャツを脱ぎ捨てたあたしは台所へ向かい、コーヒーをいれる支度をする。台所の窓を少し開けると、冷たい風が部屋に入り込む。裸が与える朝の新しい空気は、全てをリセットしてくれる。これが毎朝の日課。
空気のシャワーを浴びたあたしは、煙草を吸おうと枕元に手を伸ばした。「無い。」朝の第一声である。憎たらしい程に清々しい朝は、一瞬にして変貌を遂げた。「第一声がこれか、親が悲しむな。」そう考えて鼻で微笑を浮かべると、同時にポットがキンッと鳴る。お湯が沸いた。けれど煙草無しにコーヒーを飲む程虚しいことがあろうか。必死に探す。24にもなった女が寝癖ボサボサでパンツ一枚で部屋中を這いずり回る。「奇怪な光景である。」と男性は思うかもしれないが、これが女性の真理なのだ。女だって人目に触れない場所、まして自分の部屋にいれば裸で部屋を這いずり回ることもある。そもそも世の男共は女と言うものに対して理想を抱きすぎだ。どんなかわいこぶってる女だって糞とかするんだぜ。別の生き物だと思ってる時点ではなはだ可笑しいっつーの大体にして男女ってもんは・・・朝から愚痴を吐きこぼす自分に嫌気が差したがこれを世の男共のせいにすることで正当化を図ったあたしは、煙草を吸うのを諦めてコーヒーを注ぎに台所へ向かった。
コポポ・・・と今朝もいい音をたてるコーヒーにあたしは愛おしさを感じずにいられなかった。「世の中馬鹿ばかりだけど、コーヒーはいつも期待を裏切らないなぁ」
コンロの横に置いた携帯電話が鳴る。黒いディスプレイには「馬鹿4号」と表示される。セフレだ。「チッ」と小さく舌打ちをして携帯を取り、応答ボタンを押した。「・・・なに?」「なに?じゃないだろ、朝はおはようから始めるもんだ」この男はいつもやたらに細かい。セックスする時は赤子のようになるくせに。「今日会えないかな?」いつも通りの誘い方。いつも通りの常套句。嫌気がさす。ふと目を台所に向けると見慣れた水色の紙箱が目に映る。(hi-lite)そう印刷された文字を見て口元が緩んだ。「あった。」そう小さく呟いた。「え?聞いてる?」4号の声が電話越し、空に浮いていった。





