「マンパワーの根を肥やす」(澤田良雄氏) | 清話会

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鬚講師の研修日誌(28)
「マンパワーの根を肥やす」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆マンパワーが生きるから営業マン

製品、商品力だけで売れるならインターネット・自動販売機、カタログ販売でも売れる。それに企業ブランドで売れるなら通信(電話、メール、FAXなど)手段でもやりとりできる。ならば営業マンはいらない。業務処理担当だけでOKである。

先般ネームプレートを軸に関連事業で進展するB社の営業マン向けコミュニケーション研修を担当した。数年後に100周年を迎えるB社だけあって顧客・お取引様には信頼が厚い。M社長は「何でもお受けする。そこにお客様・社員・自身の喜びを創る営業マンの楽しみがある」と説く。まさに同感。

「マンパワーが生きる」、そこに営業マンの存在と力量を魅せる楽しみがあるからだ。それは、顧客の顕在化されていない潜在の欲求を引き出し、その実現に向けての提案営業を成せる能力である。

「御社(貴方)のお陰でこれだけ良くなりました」「あなたのお陰でよい買い物できました」との謝念と「これからもあなたに任せます」との圧倒的信頼を得られることが、リピートを増幅し、紹介営業(新規リピーター)へと繋がるのは営業マンのマンパワーが評価され、信頼される証である。

 受講者からのマンパワーの実践例が紹介された。

*新聞の求人欄をみて、お忙しい会社ならばお役に立てる事案があると働き掛け、新規受注に漕ぎ着けた。
*アポ取りの断りにめげずに継続「良く連絡くれるから」と信用を得て、訪問、面談、商談、受注に結びついた。
*面談で先方様の課題を察し、先行した提案図を作成し受注確率を向上させた。
*ご担当者様以外の方にも挨拶を行い、人のつながりを広げた。
*断らずに、必ず方法を考え回答をだし、足を運んで対面での報告・提案を実践。
*面談コミュニューケーションを第一とし、信頼関係を高め、長いお付き合いを創る。
*無理かもと思えた案件も、関係官公機関の活用を見いだし、初受注に漕ぎ付けた。
*笑顔に徹する。先方様の優しさが頂ける。
*キーマン(決定者)を見いだし、希望額を提示し、早めの進展で契約に結びつけた。
*来社されるお客様には、誰にでも挨拶し、お出で頂いた感謝を表している。
*トライアンドエラーを繰り返すも、めげずの継続で顧客満足を実現できた。
などなどが紹介された。

当研修は職位・キャリアの混合で、高い、長い人が、新人、若手の向上心を支援する事を特徴づけた。従って紹介された実践例に関しても、「日頃の行いが商機を産み、商売に繋がる・先手必勝・営業とは粘りなり・商売とは商流(市場・業界の変化、顧客のニーズ、顧客との関係……変化)を読む」とのキーワードで括られた。

M社が重ねてきた営業力の根であり、芯である。

◆小さな向上実践が根を肥やす

実践したその具体的活躍の根底をなす事は何か。職業観、意欲、専門力、セールストーク、人間性である。実践の軸は目標・活動計画の設定だ。大事なことは、利他主義に基づく知行合一(知識・智恵と行動が一致)の実践力である。しかも累積型継続力だ。累積型とは、事の実践に常に新たな価値を加えた経験値が経験智として生きていることだ。たとえ小さな施しの実践でも「僅差、微差はやがて大差となる。「紙一枚は薄くても、集まれば一冊の本となる」日々の小さな努力の大切さを説くメキシコ五輪銀メダリストの君原健二氏の言葉である。

営業活動で実績を産み出す力量も日々の知的言動の小さな向上実践が、どの厳しさにもひるまぬ柔軟的対応力となって生きてくる。即ち、木や竹は風雪に耐えて跳ね返すだけのエネルギーがある事と同様、根がどれほどしっかり肥えているか、幹が(芯)いかにしなやかであるか否かである。なぜなら、営業活動は、今や御用聞きの受注でなく、題解決型提案営業であり、新たな受注を創り出すことからのスタートだ。

だからこそ、断わりへの対応からの商談に取り組むことも多く、想定しない状況が発生することもある。その時こそ、根・芯の真価が問われる。厳しさを跳ね返しての実績形成は自己を際だてる絶好の機会である。その真のマンパワーは降って涌くことはない。まさに日常重ねてきた肥やされた良質なる根が潜在能力としてあるからだ。

M社の実践紹介も、各自が鍛え抜いてきたマンパワーが裏付けされていよう。

◆肥やしの実践7つのポイント

ならば、具体的にどう取り組むか。この努力過程を「進化する力量の基(根)を熟成し肥やす」と称して提起してきた。
 
売上げ目標は努力目標ではない。必達目標である。この事を確認し、根の肥やし方を小生の実践を踏まえ、次の7つのポイントを提起する。読者諸氏は周知のことであろうが、いかがだろうか。そして指導支援の指導ヒントの一助になればと念じる。 

①元気力ある挨拶人間が第一歩
いつでも、どこでも、誰にでも人との出会いで「おやつ、どこの方」興味を持たれるオーラが第一歩。辛い、いやなこと、そんな時だからこそ笑顔で明るく成す挨拶ができて本物。 挨拶力は単にマナーとしてではなく「挨」は心を開く「拶」は迫る、近づくと解釈。人が好きだから、お客様のために何をしてあげられるかのマインドが積極的施しを企て、実践する知的実践力となる。この一言の関わりが名刺交換へと進む。出会いから、縁作りへの第一歩でもある。

②勢いある言動の実践

集まりの場での後方着席、下向きの歩き、背曲がり、鈍い行動、KY的(空気が読めない)気配り不足、小さい声では「攻め心の営業活動」はできにくい。歩く速度も人より少し早め、自然に背が伸び見た目も美しい。目で示す目力コミュニケーションで相手の心にエネルギーを送り込む。これこそ頼りがいを魅せる基である。依頼事項には「ハイ」の返ことですぐさま即行。

③話力、聴解力の基本力を磨く

相手あっての商談、話しが苦手では通らない。うまくこなす話よりも、自身の味の生きたセールストークを磨くこと。それでなければ、提案に対する理解、納得を得て、従来から先方様が持っている考えを変えることは難しい。効果的な話のヒント捉え、潜在欲求を掴み出すのは聴ける力。聴く力の凄さは、「相手の話す満足」を促進することであり、本心をぽろりと出させるコツである。

コミュ二ケーション方法もメールが目立つが、マンパワーが生きるのは対面によるコミュニケーション。対人関係が苦手、だからメールで十分などとは甘えの言い訳論にすぎない。人から学び、心の交流を深耕するにはお会いしての対面コミュ-二ケーションに他ならない。

④マナーを磨く
意欲、専門力があっても基本的なビジネスマナーがダメなら信用は失う。歓迎されない、品格無しの人物では一流と言えない。お辞儀、名刺交換、言葉づかい、席次、身だしなみ……本当にものになっているか。当たり前のことが当たり前にできるこれが本物。感謝、敬い、謙虚の素直さが基であることは周知の通り。

⑤専門力を磨く(お客様の専門分野、自(社・商品・技術……の専門分野)
提案力の強さはお客様の問題解決をする強さ。相手様、自社の専門力なくして、的を得た提案、折衝は無理。困っての安易な同行依頼では、相手様の信用は勝ち得ない。勉強人間だからこそ、信頼と説得力あるジョイント型折衝展開(先方様の課題に対して自社の強味(売り物)で解決する)ができる。磨くとは、広げる、深める、試す。新たな吸収である。

⑥3つマメの小さなブレゼントの累積化

100プラス1の実践策。いわば足マメ(訪問、近づきの行動、ちょっとした身体的支援)、筆マメ(葉書、メール、手書きの一筆)、口マメ(訪問時のお礼、ねぎらいのひと言、長所発見による褒めのひと言、訪問後すぐの電話での感謝)を幾重に重ねて地道に提供する。特に手書きの葉書道。当日、翌日には必ず投函。このミツマメは、ボクシングのブローのようにやがては大きな効果を生む。出会いを縁に、そして固定客に、さらにご紹介者にと……。縁は細い線でも繋ぎ続けること。点から線への深めは、出会い→人間関係→信用関係→信頼関係と育まれる。

まさに100+1=無限大である。新たな3つマメの1なる施しは、リピートを産み、紹介による新たなリピーターを得る。派生する売り上げは無限になる。

⑦自己管理(言動の自律、健康)せよ
失敗要因は自己統制不足にある。できることの最高実践はできたか、馴れるな、親しめ、苦言を呈してくれる人に感謝、苦手な人・難事から逃避する心理の克服、自律した生活による心身の健康管理。そしてこのくらいはという誘惑心に打ち勝つコンプライアンスの遵守、とかく、易きに流れ安い甘えの自分の心と行動をどう統制できるかである。自身を律する一助として我5則を記しておこう。
 ●3信人間=扱い商品を信じ、自分を信じ、提案内容により、お客様の喜び(課題解決により(便利・利益)になると信じる我である。
 ●明朗人間=プラス思考で明るく元気で積極的行動を実践する我である。
 ●誠実人間=嘘は言わない、異見、お叱りもきちんと受け止めお客様の立場に立って、本気で信用・信頼向上に取り組む我である。
 ●努力人間=1社でも多く訪問し、当社の財産(商品・技術・社員・組織力・顧客思考……)を知って頂く。だからこそ製品知識・関連知識・技術を広め・高める我である。
 ●プロ人間=スカウトの声がかかるほどのプロレベルをめざす我である。

以上、まさに基本。マンパワーそのものである。しかし、本気で最高実践しているか。それは本物か。根の肥え具合はいかがか。幹のしなやかさを支え得ているか、幹に新たな枝を伸ばし、花を咲かせ、実りまでの栄養補給をたっぷりできているか。根が枯れ、根腐れはしていないか。時には診断してみよう。
 
単に売れたのでなく「売った」とはこの根・芯の強さを元に、異なる人、案件に最適に実践した営業活動の成果である。

◆対面コミュニケーションのマンパワーが生きる
 
マーケテイングとはMarkeet(顧客)+Ing(変化)と意味づけると、お客様の変化に対応し続けることである。それは顧客の新たな強み・喜びづくりに貢献することで具体的には現状の<不>のキーワードに自社の強みを生かして、解決を支援することによる双方のOKづくりである。

<不>とは、不安・不備・不満・不良・不安全・不採算・不服・不便・不都合・不潔・不利益・不都合・不足などがある。一方

<当社の強み>とは、商品、製品・技術・技能・サービス・組織力・人材・企画力・設備力・価格・髙品質・短納期・歴史・社会的信頼・社員満足・財務状況などがある。

例えば、面談、情報網でキャッチ顧客の不の解決欲求に対して、「今年度の御社の品質向上には、当社のこの製品、システムのご活用をいただいたらこのように数字は上がります……」と働き掛ける。幾多の折衝・交?を重ねて折り合いを見いだし契約へと結ぶ。結果、顧客(企業)の品質が向上、仕事の効率アップ・コストダウンとなれば「おかげさまで助かりかました」「いや当社も、お買い求めいただき売り上げ確保ができました。どうぞ今後も共栄して参りますよう」との信頼関係が深まる。これが提案営業、コンサルテイングセールスである。店頭販売でも共通である。動き、問いかけ、お品への執着した興味などの兆候を捉えてのお薦めはそこに生きている。

だからこそ、対面コミュ二ケーションのマンパワーが生きる。それは、感じる、察する、読む、観る、などの気になる聴き方ができるかが問われる。そこには耳に入る言葉以上に、目に入る言葉、即ち、表情、聴き入りの様、目の動き、うなづき、興味を示す物への振る舞いなど心理動向をシグナルとして表現している事への感じる力量である。この微妙なキャッチに対応した的確な判断による間合いとサポート提案は商機へ向けた誘いとなる。勿論、耳に入る言葉の語調や質問内容も加味することだが……。日頃の根の肥やしがここにも生きる。

それは日常の累積型実践による対人関係力の磨きや、話力、聴解力の鍛錬での肥やしいかんである。

◆新大関・高安の口上にも……・

今、相撲界では茨城県が熱い。「努力によって天才に勝つ」の覚悟で稽古に励み続けて見事横綱となった稀勢の里関は牛久市、そして、弟弟子の高安が先般大関に昇進した。

土浦市。両市は近郊である。伝達式での口上は「正々堂々と精進します」。入門当初は逃げ出すこともあったが、父親から「一つのことをやり切れ」との叱咤激励や、当時の親方からの「大成する人は素直な心を持っている」との言葉を大事にして励んできた。だからこそ、苦境の時には「心の充実には稽古しか無い」と努力を重ねたそうだ。

兄弟子稀勢の里との猛稽古では、最初びくとも動かない、全身の関節がミシミシと重さを感じた。しかし、その凄さに圧倒されながらもどうしたらと考え、序序に押し込む状態に持って行ったとのことだ。代名詞である立ち会いのかち上げは、この猛稽古で磨かれたと紹介されている。

今後も口上の如く、真っ向からの稽古への取り組みで楽しませてくれるであろう。是非、兄弟弟子で切磋琢磨してきた二人の優勝決定戦を魅せてと願っているのは小生だけではない。これまで大成に向けて覚悟を決め、基本力を徹底的に鍛え、根を肥やし、しなやかな芯を育んでいるからこそ厳しい勝負にも勝ち星を呼び込んでいるのである。

「イバラギでなくイバラキです」とはドラマでの名台詞だが、両力士の活躍は地元・県内経済効果を生む。更に相撲ブームは観客数を高め、関連商品の販売力も高める。言わんや営業活動に貢献していると見ることもできる。

「販売無くして企業無し」「お客様はお客様のプロである」だからこそ、「当社の創り上げる財産(強み)生かして顧客様の理を創造するそのジョイント役、こんな楽しいことはない」M社での研修で受講者同志の肥やしの交換は、各位の新たな肥やしとなって共に栄業マンパワーを高める機会となった。営業職だからこそ得る喜びの笑顔に拍手。

根を肥やす、営業マンパワーにスポットあて記してきたが、どのような職業・職種でも同様である。何をどのように肥やすか肥やし方の違いがあるだけである。
今日も出会いの方に手書き葉書を書いている小生である。


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◇澤田良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
  http://www.hope-s.com/
 


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