「トランプ氏、米国大統領選挙勝利について」(真田幸光氏) | 清話会

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「トランプ氏、米国大統領選挙勝利について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)


今年は「英国の欧州連合残留・離脱見通し」に続き、「米国大統領選挙の見通し」についても、マスコミの予測は「大外れ」しました。

国際金融筋も、瞬間的には直前の予測の読み違いをし、これを背景として、
「金融市場は一時的には動揺した」
とも言えましょうが、しかし、その動揺も直ぐに収まり、
「安定的な方向へと戻った」
といった動きを示したことから見ても、
「英国の欧州連合離脱」
や、
「トランプ氏の勝利」
を国際金融市場は、一定程度は想定していたと見ておくべきであり、これを異なる角度からに言えば、
「予測をつけにくい状況にあったことから、様々な可能性を想定していた」
とも言えましょう。

そして、トランプ氏勝利の背景には、経済大国・米国ですら、国内に、
「格差を背景とした水面下での大きな不満」
が存在し、そうした勢力が、
「既得権益層に対する不満を募らせ、えも言われぬ閉塞状況から脱することを求め、その結果として、変化を求めた」
とも言えるのではないかと思います。

トランプ氏自身も富裕層で既得権益層と見る向きもあり、その通りとも私も思いますが、しかし、トランプ氏は古くからの既得権益層ではなく、新興の既得権益層であり、従って、古くからの権益に固執する既得権益層を潰してくれるのではないかとの期待感が底辺層から向けられたものと見られます。

こうした一方、クリントン氏は、均衡(BALANCE)政策を標榜する民主党にありながらも、既得権益層にあると見られ、米国民が、
「クリントン氏では変化は望めない」
との見方をしたことを受けて、票が伸びなかったものと見られています。
 
もちろん、こうしたことに加えて、クリントン氏を中国本土に近いと見た国防省筋がクリントン氏を敬遠、選挙戦の終盤には国際金融筋もクリントン離れの動きを示したとの見方も流れ、クリントン氏の敗北が決定的となったとも見られているのであります。

いずれにしても、米国大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ氏が勝利したことは事実であり、これからは、トランプ政権の政策運営がどのように展開されていくのかに対して注目をしていくべきかと思います。

そうした意味で、トランプ氏の基本姿勢を推測すると、
*国内的には、古くからの既得権益層の打破に向かって動く、少なくとも、その姿勢を示す。
*就中、労働組合に対しては「結果」を早期に示す動きを見せる。この延長線上では、トランプ氏が保護主義的な動きを示すこととなると予測する。
*対外的には「強い米国」の復活に走る。そして、対中政策は厳しく出る。特に対中軍事政策に対しては厳しく出つつ、経済面では「人民元」の国際基軸通貨としての存在感拡大を嫌い、当面は米ドル高・人民元安を誘導する。また、国内の労働組合を意識すれば、TPPは再検討と言うことになるかもしれないが、中国本土が米国に代わって、環太平洋地域の貿易と投資に関する主軸となる動きを示してこようとすれば、トランプ政権は一転、TPP推進姿勢に変わるかもしれない。そして、その中国本土との連携色を示す英国やドイツとは一定の距離を置くかもしれない。その反対側で、例えば、ロシアとは一定の協調路線を採る可能性もある。
*しかし、いずれにしてもビジネスマン的な視点から比較的短視眼的視点より損得勘定を行い、メリットが期待できるものを着実に捉えて、目に見える実績を挙げていくような政策スタンスを採るのではないか。
*日本に対しては、経済面では厳しい姿勢を示す可能性は残るが、軍事面では、中国本土を意識して、基本的には日米協力姿勢を強化してくるのではないかとも見られている。
といった見方が出来ましょう。

ここで、もう少し、具体的政策方針を意識してコメントします。

トランプ氏は、既に、「減税」「インフラ投資拡大」などの成長政策を掲げており、短期的には米国経済の回復基調を支えると評価されています。

しかし、こうした一方で、トランプ氏は国内の世論を意識、就中、労働組合を意識しつつ、一定程度は「保護貿易主義」を推進するものと見られ、これが、世界貿易を減退させ、結局は米国経済にとってもむしろこれが足かせとなる可能性もあるかもしれないとの見方もあります。

また、2008年の世界金融危機・リーマンショックの震源地となった米国経済は、オバマ大統領が執権して以降、財政支出拡大と量的緩和という二大政策によって、最近では主要国の経済の中で唯一、緩やかではあるものの、回復の兆しを見せているとも言えます。

実際に、失業率は10%台から今年9月には5.0%にまで下がり、昨年末からは利上げに舵を切ることも出来ています。

しかし米国に続いて量的緩和に乗り出した欧州は依然として1%台の成長に留まり、日本は0%台の成長に留まっています。

中国本土経済の成長率が10%台から6%台へと低下し、成長スピードが減速している中、世界経済の成長維持を考えると、中国本土経済に対して、トランプ政権が厳しい姿勢を採り、世界経済の成長の大きな原動力である中国本土を徹底的に痛めつけることはしてこないものと思われ、表面的な保護貿易主義姿勢は採っても、本格的に保護主義的な動きを取ることはせず、労働組合を納得させるために、アジア諸国の企業の米国内企業での雇用機会拡大など、むしろ実利が着実に取れるような政策推進に注力してくるのではないかと思われます。

こうした中、上述したように、トランプ氏の大統領当選によって、世界の金融市場は瞬間的には「トランプショック」に陥りましたが、トランプ氏の経済政策がうまく稼働すれば、米国経済の単独での回復基調が続く可能性があり、この結果、特に雇用が改善されていけば、トランプ氏は米国ではむしろ高く評価されるようにもなっていくものと思います。

このような予測の下、トランプ氏が保護貿易主義を強化し、ほかの国々も保護貿易主義に加勢する場合、世界貿易は更に減退する可能性が高くなるとも思われ、こうした結果、国際金融市場は、
「トランプ氏がどの程度、保護主義的な動きを示すのか?」
を注視しているようです。

そして、米国がもしも保護貿易主義を強化すれば、中国本土との貿易摩擦の可能性が最大の危険要因として浮上し、対中貿易と対米貿易の依存度が高い韓国やベトナムなど輸出依存国は大きな打撃を受ける可能性もあると思われます。

果たして、トランプ氏が実際に如何なる政策姿勢を示すのか、いずれにしても、当面は静観、じっくりと評価をしていく必要がありそうです。




真田幸光------------------------------------------------------------
清話会 1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・東京三菱銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している

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