一生、自分の歯で噛むために ~国も、歯科医も、患者も、まずは「予防」の意識を〈前編〉 | 清話会

清話会

昭和13年創立!政治、経済、社会、経営、トレンド・・・
あらゆるジャンルの質の高い情報を提供いたします。

Special interview(『先見経済』2016年11月号誌面より)

 

一生、自分の歯で噛むために

国も、歯科医も、患者も、まずは「予防」の意識を〈前編〉

 

「予防があって処置がある。この認識を、国も歯科医も患者も忘れてはならない」。茨城・龍ケ崎で祖父の代から3代続く歯科医院を引き継ぎ、東京・新宿でも最先端の歯科医療を行う小野瀬弘記氏はそう提言する。一生、自分の歯で噛むために、私たちに必要な意識とは――。歯科業界注目のプロフェッショナルが語る。(取材・文 本誌 大澤義幸)


漸増する歯科訪問診療

国は「予防」の啓発を

――日本は高齢社会に突入し、要介護認定を受ける高齢者が年々増えています。これに伴い、国は訪問介護・医療の一環として、歯科訪問診療を推進する動きがありますね。しかし、設備等に限界のある環境で、患者の満足のいく診療や治療を提供できるのでしょうか?

 

小野瀬 ご懸念の通りです。歯科訪問診療は、保険制度の規定で、保険医療機関から半径16㎞圏内で行うことになっています。それが今は外来応需の体制を持たない歯科医でも、要件を満たせば歯科訪問診療ができるようになった。しかし、訪問でできることは限られます。想像してみてください。デリバリーでレストランと同等の料理を食べられますか?

 

それでも、「歯医者に行くよりも、来てもらうほうが楽でいい」と考える患者が増えるのは怖いことです。虫歯ができたら保険で治療すれば十分と考える、日ごろの口腔ケアに無頓着な人はなおさらです。一方、歯科医も、この辺にお年寄りはいませんか? 歯の悪い人はいませんか? と営業主体の診療になる。しっかりした診療や治療ができなければ、歯科医の経験値にもなりません。

 

―― 核家族化や、老々介護が増える現状、今後も歯科訪問診療のニーズは高まりそうですね。

 

小野瀬 歯科訪問診療そのものが悪いわけではなく、問題は国のスタンスです。国は自力で歯科医院に行けない人や高齢者のために、訪問介護を増やすことが介護・福祉の問題解決につながると考えています。しかし歯科の場合、年齢を重ねても自分の歯で食べられる口腔内環境をつくることが何よりも大事。それが歯科訪問診療でできるのか、という話です。私が国に求めたいのは、予防の推進です。

 

―― 予防というと、歯磨きや定期健診を思い浮かべます。確かに、虫歯など歯に問題が起きてから治療にお金をかけることはあっても、予防にお金をかける意識はありませんね。

 

小野瀬 国民皆保険制度の功罪ですね。歯が悪くなっても、治療は対処療法で十分、しかも保険適用されるので、その前の予防段階では、口腔ケアにお金をかけたくないと軽視しているのです。日本では、良い会社を経営し、良い家に住み、良い車に乗り、良い服を着て、というステータスのある人でも、口のなかは銀歯だらけだったりします。

 

また、昔と今では定説が変わっており、予防や治療の仕方も違います。昔は老化現象で歯槽膿漏によって歯が抜けると思われていたのが、今は歯が抜けるのは歯周病菌に感染して歯周組織が崩壊するからだと分かった。しかし歯周病になってから歯磨きをしても、インフルエンザにかかってから肌の表面を石鹸で洗うようなもの。治療にはお金もかかります。そうならないように、「予防があって、やむを得ず処置がある」という認識を持つ必要があるのです。

 

―― なってからでは遅いし、治療にお金がかかるのは、歯科も一般の病気と同じですよね。

 

小野瀬 その通りです。これがピロリ菌ならガンにならないように、すぐに治療しよう、予防しようと考えますよね。ですが、歯周病菌が引き起こす身体への影響は不明確なので、健康に気を遣う人でも後回しにしがち。歯科医が説明しても、患者に痛みがなければ、健康だから関係ないと思われてしまう。しかし健康だと思っていたのが、気になって来院したときには手遅れというケースがままあります。

 

――そうした予防に重点を置いた歯科医を、私たちはどう探せばいいのでしょうか?

 

小野瀬 インターネットや電話での料金比較だけで歯科医院を探すのはやめるべきです。「おたくのインプラントの治療費はいくら?」と電話をもらっても、患者の口腔内を診ていない状況では、しっかり診療・治療を行う歯科医であるほど答えようがない。

 

次に、「自分に合う歯科医」を思い込みで判断しないこと。後で取り返しのつかないことになります。

 

ある患者の例で、「抜かないのが良い先生。抜くのは悪い先生」といった思い込みで歯科医を探し、歯周病の専門医にかかっていたのですが、数カ月後、その歯科医から突然「6本抜かなければならない」と言われてしまった。専門医にかかっていたのに、なぜ抜かなければならなくなったのか――。


ここから当院での治療が始まり、調べてみると歯周病菌が出てきた。今は薬で侵襲をストップしていますが、現状維持が精一杯で、もう健康な状態には戻せません。

 

歯科医も、患者の主訴を聞くことは必要で、望み通りにやらないと、すぐに「他の歯科医院に行く」と言われます。しかし、患者の口腔内をCTスキャンし、その状態を3Dで見せながら説明したところ、「絶対に抜かない」が「すぐ抜いてください」と主訴が変わったケースもあります。インフォームド・コンセント(医師が処置方針・内容・理由等を説明して、患者の合意を得ること)をつくることが大切ですね。

 

〈後編〉 に続く




 

医療法人社団弘快会 理事長

新宿オークタワー歯科クリニック 院長

小野瀬弘記〈おのせ・ひろき〉


1962年茨城県龍ケ崎市生まれ。87年東京歯科大学歯学部卒業後、都内の歯科医院に勤務。その後、龍ケ崎で祖父の代から約100年続く小野瀬歯科医院を引き継ぎ、現在は新宿オークタワー歯科クリニックも展開。インディアナ大学歯学部歯周学インプラント科教授。ICOI(国際インプラント学会)認定医・アジア役員・指導医、ISOI(国際インプラント学会日本支部)認定医、アストラテックUSA認定エクセレントメンバー。

 

医療法人社団 弘快会

◆小野瀬歯科医院

茨城県龍ケ崎市上町4248-1

診療時間:平日9:00 ~ 13:00 / 15:30 ~ 18:00

土曜9:00 ~ 12:00 / 14:00 ~ 17:00

Tel.0297-62-0130(木曜、祝祭日休診)

http://www.onose-dc.com/

 

◆新宿オークタワー歯科クリニック

東京都新宿区西新宿6-8-1 新宿オークタワーA-203

診療時間:平日9:30 ~ 13:30 / 15:00 ~ 20:00

Tel.03-6279-0018(土日休診。祝祭日のある週は土曜診療)
http://www.shinjuku-eic.com/