「小鳩体制」で参院選突入へ!(花岡信昭氏) | 清話会

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「小鳩体制」で参院選突入へ

花岡信昭氏 (拓殖大学大学院教授、産経新聞客員編集委員)



清話会ブログ *「ツートップ」は辞めるに辞められない金縛り状態に


 米軍普天間基地の移設問題は5月末決着が事実上、不可能な情勢となった。

 鳩山首相は「決着」の定義を微妙に変えてこの危機を乗り切ろうとしている。

 日米関係は最悪の状態となっているが、米側にとっては、現状のままでも部隊運用に支障はない。鳩山政権の迷走をなじりながら優位なスタンスに立っている実態を見逃すべきではない。

 米側としては、東アジアの安全保障は米中の「G2」で対応していくとして、日本の「不実」を非難していけばいい。

 米軍の事故や米兵による不埒な事件などが起きた場合、米側は恐縮する一方だった。「危険性の除去」を目的とした普天間移設で日本側が結論を出せないのだから、そういってはなんだが、米側には相当のゆとりができた。

 米有力紙には「ルーピー(愚かな)鳩山」とまで書かれてしまった。

 一国の指導者に対してまことに失敬な表現だが、「学べば学ぶほど抑止力の重大さがわかってきた」などと述べてしまう首相なのだから、日本側としては沈黙する以外にない。

 最高実力者といっていい立場の小沢幹事長とともに、「政治とカネ」の問題が突き付けられ、内閣支持率は20%そこそこにまで落ち込んだ。8カ月前の政権発足時の高揚がウソのように見える。まことに政治の世界は恐ろしいものだ。

 そこで、7月参院選に向けて、民主党はいったいどう対応しようとするのか。

 テレビのワイドショーなどでは「小沢・鳩山の双方が辞任」「どちらかが辞任」「いずれも続投」のうち、どのパターンかといった今後の展開をめぐる頭の体操がさかんである。

 鳩山首相が政権継続は困難と判断して投げ出してしまえば別だが、結論的にいって、鳩山首相の退陣も小沢氏の幹事長辞任もないように思える。

 いずれも辞めるに辞められない金縛り状態に陥っているといってもいい。

*「官房長官辞任」「社民党連立離脱」で内閣改造も

民主党内の一部には、双方が辞任し、新たな体制で参院選に臨めば勝てると主張する向きがないわけではない。だが、それを成し遂げるだけの政治力のある人材は党内には見つからない。

 内閣改造論もある。

 普天間問題の責任を平野博文官房長官が一手に引き受けて辞任し、それを軸に若干の入れ替えを行うということらしい。

 平野氏は記者会見などを見ても、のらりくらりと逃げを打つことが多く、存在感の希薄な官房長官として受け取られがちだが、実はなかなか胆力のある政治家である。

 鳩山首相が「お友達感覚」で起用したなどといわれたが、それは事実とは違う。茫洋とした雰囲気を意識的につくり出しているといっていい。

 平野氏自身も周辺には「オレのしかばねを乗り越えていけばいい」などと漏らしているとされる。

 その心意気は買うとしても、いまの状況は官房長官辞任で乗り切れるレベルをはるかに超えてしまったのではないか。

 内閣改造論には、社民党の連立離脱を想定したシナリオもある。

 普天間問題の決着を妨げた要因のひとつは社民党への配慮だった。現時点でも社民党抜きでかろうじて参院過半数に達したのだから、社民党を優遇する必要はなくなった。福島瑞穂氏が閣僚から外れれば、後任決定を軸とした改造が可能になる。

 鳩山首相が退陣の意思を固めれば、小沢氏とは「一蓮托生」になってしまう。

*参院選敗北も視野に布石を打ち始めた小沢氏
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 鳩山首相が辞めて小沢氏だけ残るという構図は考えられず、小沢氏がそうした展開を認めるわけがない。

 鳩山首相に、小沢氏との「刺し違え」によって「党を救う」という発想が生まれるかというと、これも定かではない。

 このコラムでは何度か触れてきたが、小沢氏にとって、参院選は最終戦争の意味合いを持つ。

 勝てば幹事長続投、負ければ辞任ということになるのだろうが、小沢氏は参院選に負けた場合でもその政治力を保持し続ける必要がある。

 いうまでもなく、「政治とカネ」の問題である。

 検察審査会は「起訴相当」を議決したが、検察当局が再度、不起訴を決定し、検察審査会がもう一度「起訴相当」を議決すれば、小沢氏は「強制起訴」される。

 あるいは、国税当局が乗り出す可能性も指摘されている。

 かつて、金丸信氏は議員辞職してけじめをつけようとしたら、国税当局に摘発された。このトラウマが小沢氏側に残っている。

 小沢氏は現在の政治権力をいつまでも保持していかなくてはならない立場に追い込まれているのである。

 それを考えれば、万一、鳩山首相が退陣したら小沢氏が後継首相に名乗りをあげる可能性も皆無とはいえない。

 党内では、あの小沢氏が分刻みの首相日程をこなせるはずがないと見る向きが大勢だが、小沢氏のことだ。極限状況の中でどういう政治行動を取るか、即断はできない。

 まあ、そういう展開はあり得ないとしても、参院選敗北の場合、参院での多数派を形成するための複雑な政治工作が展開されるのは十二分に予想できる。

 小沢氏はすでにその事態に備えて布石を打ち始めたと見ていい。

*「大義」を掲げて「大連立」「中連立」に動くか

 公明党との連立がまず課題となる。

 公明党側にも与党の座への未練が相当に透けて見える。公明党を加えても参院過半数に足りない場合、いくつかの「新党」との複雑な連携工作が必要になる。これをやってのけられるのは小沢氏以外にいない。

 小沢氏にはいざとなれば、福田政権時代に果たせなかった「大連立」という大技がある。共産、社民両党を除いた勢力の大同団結だ。

 これに従わない部分が抜け落ちても、参院で過半数に達すればいい。いわば「中連立」となる。

 そこには「大義」もある。集団的自衛権の容認、憲法改正、消費税引き上げ、選挙制度改革といった特大級の政治課題は、与野党に分かれて角を突き合わせている間にはとてもではないが決着点を見いだせない。大連立ないし中連立によってはじめて可能になる。

 民主党にとって、参院選敗北の場合、小沢氏の存在がひときわ大きなものとなるのである。そのことが分かっているから、幹事長辞任論が大きな声にならないのだ。

 そこで参院選はどうなるのか。

 週刊誌は早くも議席予測を打ち出した。

 週刊朝日は政治評論家2氏の予測を掲載しているが、1人は、民主35、自民50という予想だ。注目すべきは、みんなの党の予測議席を18と読んでいる。もう1人は逆に民主47、自民39。こちらもみんなの党を14と予測している。

 サンデー毎日は、民主47、自民45、みんなの党9という予測である。

 候補者が完全には出揃っていない現時点では予測も難しいのだが、民主にはきわめて厳しい選挙であり、といって、その分を吸収し自民に順風が吹いているともいえない。

*新党全体で20議席、残り80議席を民・自で争う構図

 参院選全体の構図は、こう考えると分かりやすい。

 改選数は参院の半数121である。これまではおおよそ100議席を民主、自民両党が争い、残りを公明、共産、社民そのほかが獲得してきた。

 今度はそこにいくつかの新党が加わった。渡辺喜美氏が率いるみんなの党が先行し、平沼赳夫・与謝野馨両氏らのたちあがれ日本、舛添要一氏らの新党改革、首長連合による日本創新党がこれに続く。

 新党は、民主、自民の領域であった100議席の部分に食い込むのである。新党全体で20議席程度というのが大方の読みだ。

 となると、民主、自民の「取り分」は80議席程度ということになる。80議席を両党が争い、拮抗したとして40-40が軸となる。

 民主党は一時は55議席を目標としていた。非改選が62議席だから、過半数122議席に達するには60議席必要なのだが、連立する社民、国民新両党の非改選は社民2、国民新3の計5議席ある。仮に両党が悲惨な結果に終わっても、3党連立の枠組みが崩れない限り、ぎりぎりで与党過半数に達することができる数字が55議席であった。

 だが、いまや民主党内には50議席台の予測は消えた。40議席に達しないのではないかといった声すらある。40議席の場合、非改選62議席と合わせて102議席。過半数122に20議席足りない。

 公明党(非改選10、改選11)が現状維持の場合、ほぼ20議席となり、この隙間を埋める存在となる。公明党との連立話が急浮上しているのはそういう計算による。

 だが、新党全体で20議席程度の場合でも、すべて取り込むことができれば、公明党に頼らなくてもかろうじて過半数に達する。そのあたりは数議席をめぐるすさまじい神経戦になるだろう。

 民主党がさらに惨敗するといった結果になった場合、安倍、福田、麻生3政権を短命に終わらせる要因となった「衆参ねじれ」が、今度は民主党政権を直撃する。

 これを回避するために小沢氏の「剛腕」が求められているということになる。

【日経BPネット連載時評コラム拙稿「我々の国家はどこに向かっているのか」12日更新分】再掲載