イリス隊商は丘の町に一週間滞在した後、西へと旅立った。
グリズモンを始め、屈強なビーストデジモンがバシャを引いていく。その周りを、ジオグレイモン達護衛が歩く。
「ピヨモン、次に行く十字路のバザールってどんなところなんだ?」
ジオグレイモンが頭上を見上げて聞いてくる。ピヨモンが頭に座ることが、最早日常となっている。
ピヨモンがジオグレイモンを見下ろす。
「十字路のバザールはね、東西南北からの道が交わっている場所で、光の城下町の次に大きな町なんだ。私達は、草原や丘の町で仕入れたものを、十字路のバザールに売りに行くってわけ」
ピヨモンの説明を噛み砕くように、ジオグレイモンは何度か頷いた。
「でも、そう気安く行けるところじゃないみたいだな」
ジオグレイモンの言葉に、ピヨモンは頷いた。
丘の町を出る前に、隊長から「この先、十字路のバザールまではいつも以上に警戒するように」と指示があった。
隊商の面々も言葉少なで、護衛達は絶えず周囲に目を配っている。
ピヨモンもジオグレイモンの頭の上で背伸びして、辺りを見回す。そうしながら、ジオグレイモンに説明する。
「この大陸から十字路のバザールに抜ける隊商は、みんなこの道を通るの。大きな乗り物が走れる道がここしかないから。だから、隊商を狙った盗賊もよく出る」
それに、と言いながら、バシャを見るように促す。
隊商は仕入れた荷物を大量に積んでいる。乗り物の動きは鈍く、時折車輪がきしむ。
「今、襲われたら、素早く動けない。それに、バシャが一台壊されるだけで、売り物がたくさん盗られる」
あと、とピヨモンが付け足す。
「この辺りの盗賊が何か企んでいるらしいって情報もあるから、普段以上に気をつけないと」
「何かって?」
ジオグレイモンに聞き返されて、ピヨモンは口ごもる。これ以上は推測も含まれるし、どう言えば良いだろう。
しかし、ピヨモンが口を開く前に、斥候のバードラモンが飛んでくるのが見えた。
隊長の指示で、隊商は一旦歩みを止めた。
バードラモンが隊長のそばに下りた。ピヨモンとジオグレイモンも話の聞こえる場所に近づく。
バードラモンが隊長に報告する。
「この先に、急ごしらえの関所ができています。しかも、ガルダモンの命を受けていることを示す赤布が巻いてありました」
ツチダルモン隊長が、ほう、と怪訝そうな顔をする。
「関所にはビーストデジモンが5体。ゴリモンやキュウビモンです。揃いの鉄爪を装備しているのが見えました」
「キュウビモン」
ピヨモンがつぶやく。菓子屋に来ていたキュウビモンと同個体だろうか。
「奴らに気づかれない高度で観察していましたが、どうやら道を通る隊商から通行料を取っているようです」
以上です、とバードラモンが告げて、隊長の指示を待つ。
隊長はあごを指で叩きながら数秒考え、話を飲み込んだようにうなずいた。
それから、ピヨモンに目を向けた。
「ピヨモン、問題だ。この状況、どう考える?」
ピヨモンはジオグレイモンの頭に座り込み、考えながら少しずつ言葉を口にしていく。
「ヒューマンデジモンの長、グレイドモンが死んだことで、ビーストデジモンの長のガルダモンは反撃に出ようとしている。でも、指導者の指示が末端に下りるまではまだ時間がかかるはず」
ここまでは、ウィッチモンから聞いた情報だ。
「そこから推測すると、関所にいるデジモン達は、ガルダモンの指示を受けていない。赤布を巻いて、そう見せかけているだけ」
ピヨモンの答えに、隊長が満足そうにうなずく。
「では、関所にいるデジモン達は何が目的だと思う?」
二つ目の質問のヒントは、菓子屋での店主とキュウビモンのやり取りだ。
「彼らの正体は隊商を狙う盗賊。今までのような襲撃では収入が少ないから、ガルダモンの指示を受けて関所を作ったように見せて、通行料を取ろうとしている」
菓子屋で武器をまとめ買いしていったのも、統一した武器を持つ兵士のように見せたかったからだろう。
ピヨモンは隊長の顔を見つめた。今の答えで正解だろうか。
隊長は心配そうなピヨモンに、満足げな笑顔を返した。
「私も同じ意見だ。このまま関所に行ったら、目の飛び出るような通行料を払わされるだろう。断れば、周りの森に潜んでいる盗賊の仲間達に囲まれて、積荷を奪われるだろうな」
ピヨモンは「やった、当たった!」と跳ねたくなる気持ちをどうにか抑えた。すぐ先に盗賊が待ち構えているのは、「やった!」という状況ではない。
隊長が真剣な表情になり、隊商のデジモン達に指示を飛ばす。
「駆け足で関所を突破する。護衛の中でも火力の高い者は最前衛へ。装甲の堅い者はバシャの両側面と最後尾を守れ。バードラモンは先行して関所を燃やせ」
「了解!」
その一言で、隊商の面々は各自の持ち場に散った。
ジオグレイモンは最前衛を駆けた。目前には木製の簡素な関所。それがバードラモンの放った炎で燃え上がっている。その周りで、ゴリモンやキュウビモンが慌てふためいている。
「どけえっ! 《ホーンインパルス》!」
ジオグレイモンの巨大な角が、盗賊ごと関所を吹き飛ばした。開いた道を、バシャが猛スピードで駆け抜けていく。
横からこぶしが飛んできた。体をひねったが、腕を殴られうめき声が漏れた。
足を止めて振り向くと、ゴリモンが再度殴りかかってきた。
「《マジカルファイアー》!」
ゴリモンの顔面に、緑の炎がぶち当たった。ピヨモンが吹き出した炎だ。
「今のうちに!」
「ああ!」
ジオグレイモンの尻尾が一閃。ゴリモンを森の中に弾き飛ばした。
それを最後まで見送ることもなく、ジオグレイモンは隊商と共に走り去る。
ピヨモンがバシャの上に着地し、ジオグレイモンに大声でたずねる。
「腕! 大丈夫!?」
「大丈夫だ! さっきはありがとな!」
猛スピードの中でも一瞬目を合わせ、お互い満足そうに笑いあう。
イリス隊商は罠を脱し、土埃を上げながら森を駆け抜けていった。
☆★☆★☆★
どうにか年内に投稿できました!
これにて風の章も一旦終了です。次は……光の章の続きかな?
微細な変更ですが、「馬車」の表記を「バシャ」に変えました。この世界において、引いてるのは馬とは限らないので。
さて、今年はこの記事が最後の投稿になります。
皆様良いお年を!