風の章〔2〕お金の始まり | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 ルーチェモンの統治時代に始まった代表的なものとして、貨幣制度がある。

 それまでは物々交換による取引が行われていたが、お互いの希望の不一致や輸送の手間などが問題であった。

 そこで摂政ディノビーモンは流通の活発化と中央集権の象徴として硬貨を鋳造し、デジタルワールド全土で取引に使うよう奨励した。

 ルーチェモンが滅びた現在も、当時の硬貨が一般に用いられているのは、読者も知っての通りである。

 ここは当時の庶民がどのように貨幣を捉えていたか分かる話として、ピヨモンとジオグレイモンの逸話を引用する。




 イリス隊商は丘の町に到着し、郊外にキャンプを張っていた。

「はい、この町までのあなたのお給料」

 ピヨモンが硬貨を差し出すと、ジオグレイモンは腰に巻いているポーチを開けた。

「これに入れてくれ」

「あたしが入れるの?」

 ピヨモンは聞きながら、ポーチをのぞきこんだ。中には茶色の硬貨が雑多に入っている。

 ジオグレイモンは三本の指を開閉させる。

「金は小さすぎて上手くつかめないんだ。草原の町に住んでいた時も、給料はこれに入れてもらっていた」

「じゃあ、お金を払う時はどうするの?」

「店のデジモンにポーチを見せて、『ここから代金分取ってくれ』って言ってた。俺、金の数え方も良く分からないし」

 こともなげに答えるジオグレイモンに、ピヨモンは呆れた目を向けた。

「それ、余分にお金取られても分からないじゃん」

 ジオグレイモンは目をしばたいた後、そうか、と納得したように声を上げた。

「今までは馴染みの店ばかりだったから困らなかったけど、これからは色んな町に行くし、悪い店に当たるかもしれないな」 

 ピヨモンがうんうんと頷く。

 ジオグレイモンは自分で硬貨をつまもうと指を伸ばす。

 しかし、ピヨモンの手からつまむ時点で苦戦し、地面にばらばらとこぼれた。ポーチに入れるまで至ったのはほんの数枚だ。

 しまいにはピヨモンの手を引っ掻いてしまい、ピヨモンが「痛い!」と悲鳴を上げた。

「これじゃ、自分で出し入れするのはムリね」

 ピヨモンの言葉に、ジオグレイモンは肩を落とした。

 ピヨモンが明るい顔をして、両手を羽ばたかせる。

「そんなに落ち込むことないって! 自分で出し入れできなくても、お金の数え方が分かってれば余分に取られても気づけるよ!」

 ピヨモンの励ましに、ジオグレイモンも顔を上げた。

「そうだな。じゃあ、教えてくれるか?」

「もっちろん!」


 ジオグレイモンがその場に座る。

 ピヨモンが手近な木箱の上に硬貨を並べた。

「普段使うお金は、茶色くて三種類。小さい方から一ビット、十ビット、百ビットね」

 ジオグレイモンは硬貨をまじまじと眺める。ぱっと見は細長い無骨な金属片だが、それぞれ「1」「10」「100」の刻印が入っている。

「それから、これが千ビット」

 ピヨモンが銀色の硬貨を置いた。ジオグレイモンは目を丸くした。

「銀色の金なんて初めて見た」

「そりゃそうだよ。高いから、あたし達みたいな隊商とか、大きなお店でしか使わないもん」

 自慢するそばから、グリズモンが「もう見たからいいだろう、金庫に戻すぞ」と銀貨を回収していった。ピヨモンがその背中にあっかんべーをする。

 グリズモンが去った後、気を取り直して説明を続ける。

「あと、光の城みたいな大きなところの金庫には、金貨もあるんだって。銀貨十枚分の万ビット金貨!」

「へえ。ピヨモンは見たことあるのか?」

「ま、まだ……。隊長だって見たことないくらいすごいんだから!」

 ピヨモンは両手を羽ばたかせて、必死に主張する。

「あ、あとね、リュウ型デジモンの多い町では、リュウ型でも持ちやすいオリジナルのお金が作られていたりするらしいよ」

 リュウ型の町か、とジオグレイモンはつぶやいた。自分のいた草原の町は様々な種類のデジモンが住み、リュウ型は少数だった。自分と同じ種族ばかりが住む町、いつか行けるだろうか。

 さて、とピヨモンが言って、硬貨を手早くポーチにしまった。

「これでお勉強はおしまい。次は実践ね」

 ジオグレイモンにポーチを渡し、丘の町を差す。

「あの町に買い物しに行こう!」

「今からか!?」

 ピヨモンは当たり前のように頷く。

「大丈夫、道案内ならあたしがしてあげる!」

 ピヨモンが軽く飛んで、ジオグレイモンの頭に着地した。

「それじゃ、まずはお菓子屋さんにしゅっぱーつ!」

 元気に言うピヨモンに、ジオグレイモンは渋々歩きだす。

「お前、勉強って言って、俺にお菓子おごらせる気だろ」

「あ、ばれた?」

「さすがに俺でも分かる」

 そんな会話をしながら、ふたりは町へと向かった。




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お待たせしました。風の章2話です。

フロの世界って、お金が存在していることは示されているものの、実際に貨幣が描写されたシーンって意外とないですよね。

(星流の見逃しだったらぜひ教えてください)

ということで、設定あった方が今後便利だし、勝手に作ってみました。

以下、人間世界との比較になり、本編では書けないため補足。

 

1ビット=10円換算です。全て硬貨で、お札は存在しません。

硬貨の種類は10刻みで、5ビット硬貨とか50ビット硬貨とかはありません。(設定細かくするとややこしいし、1と0しかない方がデジモンっぽい?)