風の章〔1〕隊商の年少隊員ピヨモン | 星流の二番目のたな

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風の章

〔1〕隊商の年少隊員ピヨモン

 風の闘士に決まった故郷はない。

 何故ならば、風の闘士は隊商の一員として育ち、生涯定住することがなかったからだ。
 隊商が足を止めるのは、市場に逗留する時、夜眠る時、隊員が病気になった時だけだ。
 紀元前七年、未来の風の闘士――ピヨモンは宿屋のベッドでごろごろしていた。三番目の理由のせいだった。
 要するにカゼをひいたのである。
 そよかぜ村に着いてすぐに熱を出して、寝込むはめになった。
 せっかく楽しみにしていた市場行きもなし。世話役にグリズモンだけ置いていって、隊商のみんなは市場に行ってしまった。
 置いていかれて、もう十日目。ピヨモンは、ベッドで何度も寝返りを打って、いらいらしていた。
 カゼは四日も前に治った。なのにグリズモンは、「子どものカゼはぶり返すから、隊商が戻ってくるまで外に出るな」と言った。遊んでと言っても相手にしてくれない。あのにこりともしないカチコチ頭、大嫌いだ。
 ベッドで寝ていても、楽しいことは一つもない。市場に行って珍しいものをたくさん見たかったのに。ここの窓から見える景色は毎日ちっとも変わらない。そよかぜ村名物のスープも、もう飽きた。
 枕に顔をうずめて、ベッドをポカポカ叩く。
「もー、みんな早く帰ってきてよぉぉぉ! あたし、ヒマすぎて死んじゃうよぉぉぉ!」
 うめいていると、遠くから懐かしい車輪の音が聞こえた。
 ピヨモンは勢いよく起き上がり、窓ガラスに飛びついた。街道の上を、斥候のバードラモンが飛んでくるのが見えた。
 ベッドを急いで降り、部屋の戸を勢いよく叩く。
「グリズモングリズモングリズモーン! 隊商帰ってきたよ! 帰ってきたから出ていいよね! 出して出して外に出さしてー!!」
 戸の鍵の開く音がして、グリズモンが戸を開けた。不機嫌そうな顔でピヨモンを見下ろしてくる。
「分かったから、そんなにうるさくするな」
「きゃっふーーい!」
 グリズモンの話も聞かず、ピヨモンは勢いよく外へ駆け出した。
 
 村の広場まで行くと、ちょうど隊商のバシャが入ってくるところだった。その中心にいるデジモンを見つけて、ピヨモンは転げるような勢いで駆け寄り、飛びついた。
「隊長! おかえりー!!」
 隊長のツチダルモンは、ピヨモンを見て優しい笑顔を見せ、頭を撫でてやった。
「すっかり元気になったみたいだな」
「うん!」
「この通り、俺の耳がおかしくなりそうなくらい元気です」
 追いかけてきたグリズモンが、げんなりした声で付け足した。
 ツチダルモンの温かい体に抱き着いていたピヨモンだったが、ふと鼻を動かす。
 バシャが焦げくさい臭いをまとっている。
「何かあったの?」
 ピヨモンが聞くと、ツチダルモンは悲しそうな表情をした。
「草原の町でひどい戦いがあったんだ。隊商のほとんどは無事だが、ウッドモンとリボルモンが死んだ」
「そっか、残念だったね。ふたりともいいデジモンだったのに」
 ツチダルモンとピヨモンのやり取りは淡白だった。
 少年王の治世とはいえ、戦争はあちこちで勃発している。旅をしていれば、戦場に出くわすこともまれではない。仲間が死ぬのは悲しいことだが、隊員達はそれを日常として受け入れていた。
 旅に別れはつきものだが、同じだけ新たな出会いがある。
「新しい護衛を雇ったんだ。ピヨモンに紹介しよう」
 ツチダルモンはピヨモンを抱きかかえたまま歩き出した。
 奥の馬車で、荷下ろしを手伝っているリュウ型デジモンがいる。
「ジオグレイモン!」
 ツチダルモンが名前を呼ぶと、手を止めてこちらに振り向いた。
「この子がピヨモンだ。カゼをひいたんでこの村に預かってもらっていた」
「ピヨモン、新しい護衛のジオグレイモンだ。旅は初めてだそうだ」
「ふうん。よろしくね!」
 ピヨモンはツチダルモンの腕から地面に降りて、ジオグレイモンをしげしげと眺めた。
 ジオグレイモンは、よろしく、と答えながらもその視線に居心地悪そうにする。
「何か、俺の顔についてるか?」
「決めた! あたし、ジオグレイモンの先生になってあげる!」
「は?」
 ジオグレイモンは目を点にしてピヨモンを見下ろした。
「旅するの初めてなんでしょ? だから、あたしが商売のこととか、世界のこととか、色々教えてあげる!」
 隊商の空気に慣れず緊張した顔。長旅で豆だらけの足。いかにも旅慣れしていないデジモン。先輩風を吹かせるには絶好の相手だ。
 横で見ていたツチダルモンが、おかしそうに笑い声をあげた。
「決まりだ。ピヨモン、ジオグレイモンに教えてあげなさい。年も近いし気も合うだろう」
 それを聞いて、ジオグレイモンが眉根を寄せた。
「俺は十五歳だし、進化も三回してるんだけど」
「あたし、十三だよ」
「嘘だろ!?」
 ピヨモンの言葉を聞いて、ジオグレイモンが目をひんむいた。
 ピヨモンは毛を膨らせて顔をしかめる。
「あーっ! どうせあたしは体が小さいですよーだ! これでも進化二回してますよーだ!!」
 ピヨモンは同世代に比べて、二回りも体つきが小さかった。ジオグレイモンの両手に収まってしまうような大きさだ。
 この体のせいで、一度も年相応に見られたことがない。
 膨れるピヨモンに、ジオグレイモンは困ったように頭を掻いた。
「えっと、悪かったよ。草原の町にはお前みたいな奴いなかったから」
「それ、あたしが変ってこと?」
 それを聞いて、ピヨモンが更にむくれる。ジオグレイモンは慌てて付け足した。
「ホント、ごめんって。色々教えてください、先輩」
「よろしい!」
 先輩呼びが効いて、ピヨモンはたちまち笑顔になった。軽く飛んでジオグレイモンの頭の上に着地する。そこからジオグレイモンの顔を見下ろした。
「このイリス隊商のこと、何でも聞いてね!」
「お、おう」
 目まぐるしく変わるピヨモンの機嫌に、ジオグレイモンは戸惑うばかりだった。
 
 
 
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というわけで、更新お待たせいたしました!
未来の風の闘士ピヨモンの登場です。13歳。ちょっとうざいレベルのテンションハイ。
炎の闘士ジオグレイモンと出会い、しばらく共に旅をすることになります。
ここからはしばらくピヨモン視点で話が進む……予定←