がばっ。
目を覚ますと、あたしは知らない河原にぶっ倒れてた。小石の上に寝てたせいで、体が痛い。絶対あざできてるやつじゃん、これぇ。
唇を尖らせながら、右腕を見て。
「うぇ!?」
腕にバカでっかいピンクの籠手がついてるのに気づいた。二本のひづめもついている。それが左腕にも、右足にも左足にもっ!?
嫌な予感がして、河に駆け寄り水面をのぞく。
そこには、バカみたいに大きなブタの着ぐるみを着たあたしが写っていた。
「な、なにこれ!? ダサい! くっそダサい!」
どピンクだし、ブタの顔は傷だらけだし、何か変なお札も張り付いてるし!? しかもこの鎧、引っ張っても外せないんだけど!
そこでやっと、あたしをこんな目に遭わせた奴を思い出す。
勢いよく立ち上がって、空に向かって叫ぶ。
「オファニモンのバカぁっっ! 地上に落とされた上にこのカッコ何なの!? あたしがオファニモンのプリン食べちゃったからって、そんな怒ることないじゃん! あたしだって、地上界イチおいしいデスメラモン亭のプリン食べたかったんだもん! 天界に届けられる分はオファニモンしか食べれないっていう時点でおかしいし! そんなに食い意地張ってると、その内ぷくぷくに太っちゃうんだから! オファニモンのケチ! でーべそーっ!!」
って、言ってる間に空から何か降ってきた。あたしの背丈くらいある、先の尖ったクリスタル!
あたしの周りに、それがザクザクと突き刺さる。あたしは「きをつけ」の姿勢になって、その中でガタガタ震える。
『誰がでべそですって?』
天から降ってくる雷のような声に、あたしは肩をすくめて答える。
「じょ、じょーだんですぅ。オファニモン様は、天界イチ美しい天使様ですぅ」
短気天使め、むき出しのお腹冷やして腹痛になっちゃえっ! ……って言うのは心の中だけにする。
咳払いの後、改めてオファニモンの穏やかな声が降ってくる。
『貴方の悪行をすすぐため、試練を与えます。修行の旅をしている僧に会い、その者が天界に至るのを手助けしなさい。その者と天界にたどり着いたあかつきには、貴方を元の姿に戻し、再び天界に住まわせましょう』
うわ、めんどくさ。
ってのは心の中にしまっておいて、あたしは無邪気な笑顔を空に向ける。
「えっと、そのお坊さんってなんて名前で、どこに行けば会えるんですかぁ?」
『川下の村を目指しなさい。会えばその者と分かるでしょう』
なんて雑な説明だ。名前くらい教えろ。これも嫌がらせ……じゃない、修行だっていうのか。
あたしは仕方なく、ダサい鎧をうるさく鳴らしながら、川下に向かって歩き出した。
お、おなかすいた……。
川沿いに歩いて3日。まだ村は見つからない。
ずっと天界にいたあたしは、地上の食材が分からない。色んな草や葉っぱを食べてみたけど、全部まずくて食べられない。
川の水を飲んで飢えをごまかしていたけど、もうムリ。川がそうめんに、太陽が目玉焼きに見えてくる。
と、行く先の方からいい匂いが漂ってきた。
これは、私も知っている。肉リンゴの焼ける匂い!
天界に捧げられる食べ物でも一番ポピュラーな食べ物。しかもこの匂いは、あたしの好きな生姜焼き!
あたしはがぜん気合いが入って、匂いのする方へ駆け出した。
鼻息荒く走り、滝を泳いで下り、川のほとりのたき火へと水を滴らせ歩み寄る。
たき火の横にいた馬デジモンが、がばっと跳ね起きる。
「な、なんですか!?」
「にぃくリィンゴぉぉぉ!!」
あたしは馬デジモンを尻目に、こんがり焼けた肉リンゴをつかみ、かぶりついた。舌に、あまじょっぱい肉汁が広がる。
「やめてください! 僕達のお昼ごはんですよ!?」
「うるさい!」
「ひゃん!」
しがみついてくる馬デジモンを払いのける。今のあたしを止められる奴なんて誰も――。
「
脳天に一撃。くらくらして、あたしは地面にぶっ倒れる。すぐさま、のどに何かを突き付けられた。
「よぉ馬、無事みたいだな」
不良っぽい口調の声に、馬デジモンが答えるのが聞こえる。
「肉リンゴをほとんど食べられたの以外は、ですけどね……。あと、何度も言ってるんですけど馬じゃなくてユニモンって呼んでください」
「おう、馬」
そんな会話を聞いているうちに、あたしの頭と視界もはっきりしてきた。
あたしに長い武器を突き付けている猿デジモンがいる。顔いかついし、黒ジャケットなんか着てるし、いかにも不良って感じ。
「さて、この野生のブタどうするか」
カチン。
「野生でもないしブタでもないからっ! あたしは元々プリティーな天使デジモンなの! ちょっとトチって天界から落とされて、こんなカッコになってるだけなの!」
「……さっき殴ったせいで頭がおかしくなったか」
猿が哀れみの目であたしを見てくる。本当に純粋に正直に真実なんだけど!?
そこに、優しい声が聞こえてきた。
「ゴクウモン、離してあげなさい。施しも善行の一つですよ」
「へーへー、サンゾモン様のゆー通り」
猿が不満そうにあたしから武器を離した。
白い着物を着た人型デジモンが歩いてきた。金色の袈裟をたくし上げて、肉リンゴを大量に運んできている。
あ、この格好もしかして。
パンパカパーン、パパパ、パンパカパーン!
突然あたしの頭のブタからファンファーレが響いた。全員がビクッと反応する。
ブタの鼻からポンっと筒状の紙が出てくる。広げてみると、オファニモンの字が書かれている。
『おめでとう、目の前にいるのが貴方の探していた僧です。その者が天界に至るのを手助けしなさい。
追伸:村に着く前に出会えたのは予想外でした。貴方の食欲も役に立つ時があるのですね』
うわー、この追伸の文章、オファニモンの奴まだプリンのこと根に持ってるっぽい。
「どうかしたんですか?」
馬に聞かれて、あたしはそうっと手をあげる。
「あの、みなさんに確認したいんですけど、もしかして、天界目指してたりします?」
猿と馬が微妙そうな顔で、僧が満面の笑みで頷く。
「天界には悟りを開くための経典があると聞いています。それを手に入れるために旅をしているのです」
プリン食べられただけでキレる大天使様がいるところだけどね。
「俺は暴れた罰を帳消しにしてくれって言いに行きたいだけだけどな。このままだと罪重すぎて転生できないらしいから」
どんだけ悪いことしたのよ、あんた。
「僕は迷子で行くところないのでなんとなくついてきてます」
……あたしが言うのもなんだけど、見てて不安になる御一行様だわ。
あたしは咳払いをして、改めて話す。
「そーゆーことなら、あたしが天界まで案内してあげる。さっきこの猿には言ったけど、あたし天界の天使だから☆」
「わー胡散くせー」
あたしのとっておきの笑顔に、猿が白けた目を向けてくる。馬はあたしを見て「おなかすいたなー」とつぶやいている。あたしは食べ物じゃない。
そんなふたりと違って、僧はキラキラした笑顔でうんうんと頷いた。
「ありがとうございます! 貴方のような澄んだ目の素直な方なら信用できます!」
僧があたしのひづめを手に取って、幸せそうに微笑む。ちょっと、天使のあたしでも不安になる純粋さだ。
彼らを引率して天界に戻るのは簡単じゃなさそうだ。……でも、厳しい天界で暮らすより楽しいかも。
あたしはこのヘンテコ御一行様に興味が湧きだしていた。
☆★☆★☆★
というわけで、イノシシもといブタさんのチョ・ハッカイモンのお話でした。
馬はどこかの馬とは別馬です。念のため。
本当はこの後シャウジンモンVSサゴモンとかも書きたかったんですが、お正月もだいぶ過ぎているのでいい加減妥協してここまでにしました。
というわけで、年明けからグダグダですが今年もよろしくお願いいたします。