〔70・最終話〕いつかまた、どこかで | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 デーモンが滅びてすぐに、周囲の時空にも異変が現れた。
 時空がガラスのように割れて崩れていく。
 時空の破片に見覚えのある景色がよぎった。大輔のアパート。拓也の家。お台場海浜公園。渋谷駅。
 現実世界の様々な景色が大輔達の周囲を舞い、どこかへと飛び去っていく。
 大輔はほっと肩の力を抜いた。チコモンが嬉しそうに跳ねて、大輔の胸に飛び込んでくる。それを受け止めて、大輔は笑顔を見せた。
 「これで、一件落着だな」
「ああ! だいすけと、たくやと、みーんながんばった!」
「お前もカッコよかったよ」
 大輔が頭をなでると、チコモンは照れ臭そうに笑った。
 拓也が周囲を見回す。時空が崩れ、視界は次第に真っ白になっていく。時折見える景色の破片を見て、拓也は満足そうに笑った。
「融合していた世界が二つに戻れば、全部元に戻る。消えた仲間も、家族の記憶も、デーモンのせいで起きた何もかも」
 そこまで言って、はっと気づいたように大輔とチコモンを見る。
「……今までが全部なかったことになったら、俺達と大輔達との出会いもなかったことになるんだな」
 大輔とチコモンもその事実に顔をこわばらせた。
 三人の間にしんみりした空気が漂う。
 世界が本来の形に戻るのが悪いことだとは思わない。これまでの冒険で辛いことがいくつもあったし、悲しい別れも数えきれない。
 でも、会うはずのなかった人やデジモンと出会って、楽しい思い出も、かけがえのない絆もできた。それを失うのは寂しい。
 ふと、大輔は拓也が少しずつ遠ざかっているのに気づいた。一歩も動いていないのに、お互いの距離が離れていく。
 じゃあ、と拓也が別れを告げに片手を上げかける。
 
「また会おうぜ!」
 
 大輔の言葉に、拓也はあっけにとられた顔をした。
 チコモンを抱えながら、大輔は力強い目で拓也を見る。
「それぞれの世界に戻っても、また会える可能性はある。俺は世界を越えてチコモンと会えたし、こうして拓也達とも会えた。だから、次のために約束しとこうぜ」
 仲間のことを忘れてしまったように、約束のことも忘れてしまうかもしれない。
 でも、約束しておけば、また会える。
 根拠なんかない。ただ大輔は信じていた。
 拓也が顔を引き締めて小さく笑った。振りかけていた手を握って、前に突き出す。
「分かった。約束だ。いつかまた、どこかで会おう」
 大輔もうなずいて、こぶしを突き出す。
 しかし、二人の間はもう開きすぎていた。お互いの手が届かない。
 大輔と拓也はめいっぱい腕を伸ばす。何歩踏み出しても、距離が縮まらない。
 チコモンが大輔の腕から飛び出した。大輔の手の甲に乗って、頭の柔らかい角を必死に伸ばす。
 角が相手の指をつかんだ。チコモンが全力で引き寄せる。
 こぶしが触れた。
 三人で顔を見合わせて、口に出して約束する。

 いつかまた、どこかで――。
 
 
 

 

 

――――――――――――――――

 
 

 

 

 

 

 

 何もかもが巨大な一軒家。

 ドアが盛大に吹き飛ぶ音に、大輔は耳が痛くなった。

 エクスブイモン達がドアごと廊下に吹っ飛ばされている。そこに駆け寄りながら、大輔は改めて敵に目をやった。

 謎の女が変身したアルケ二モンというデジモン。この世界を巡る戦いが終わっていないことを、肌身で感じる。

 しかし、大輔には仲間がいる。

 D-3を持った4組の仲間達、頼れる先輩達、そして一条寺。みんなで力を合わせれば、どんな敵にも立ち向かっていける。

 その証明となる進化を、大輔は知っている。

 一条寺と目を合わせてうなずく。

 

「エクスブイモン!」

「スティングモン!」

 

「ジョグレス進化!」

 

「パイルドラモン!」

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 荒野にできた、小さな谷。子ども一人が入るのもやっとだ。
 そこで拓也は輝二からダスクモンの正体を聞かされた。
 輝二の双子の兄だ、と。
 悪い冗談としか思えない話だ。聞いた直後はそう思った。
 でも、輝二には何か確信があるらしく、普段とは違い完全に取り乱していた。
 だからこそ、逆に拓也は気持ちが落ち着いた。
 邪悪なスピリットに支配されているのなら、スキャンで取り除けばいい。スキャンでスピリットを回収するのは何度もやってきたことだ。
 何より拓也は、目の前の存在を見捨てるなんてできなかった。救えるのなら、まだ救える可能性が残っているのなら、諦めたくない。
 その気持ちのままに拓也は飛び出し、左手にデジコードを呼び出す。
 セラフィモンがくれたこの力なら、彼を助けられると信じて。
「ダブルスピリット・エボリューション!」
「アルダモン!」

 

 

 

 

 

 いつか、また。

 

〈終わり〉

 

―――

 

 

 

最後のあとがきです。

と言っても、書きたいことは本編で書ききったので、ここで語ることはほとんどありません。

『デジモンユナイト』のテーマは「ゆがんでいく物語」、そして「読者は全てを知っている」でした。

ゆがむ前の物語も、ゆがんだユナイトという物語も、最終話のタイトルの示す物語も。

作者がやりたい放題した物語でしたが、ユナイトを通して、みなさんのデジモンが好きって気持ちに貢献できていれば幸いです。

2013年7月から始まった『デジモンユナイト』、最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

 

これからは『デジモンフロンティア02~神話へのキセキ~』の完結に向けて注力していきます。

今後とも、星流とその小説を楽しみにしていてください。