〔66〕ろくでもない物語 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 怪鳥が落ちていくのは、屋上の京と空にも見えた。戦場はもうビルの向こうで、ここからはほとんど見えない。
「もう少し近くに移動しましょう」
 空の意見で、二人は階段に走る。
 不意に、京の抱えているノートパソコンの着信音が鳴った。
「待ってください! メールが」
「え? でも今は」
「多分急ぎのメールです。この着信音、泉先輩専用だから」
 京は慣れた動作でノートパソコンを開いた。
 着信1件。
 From欄の名前は『泉光子郎』。
 件名なし。本文なし。
 添付ファイルあり。ファイル名は「新規ファイル」。
 普段の光子郎はこんな雑なメールなんて送ってこない。時間に迫られて、大慌てで送ったのが分かった。
 添付ファイルを開く。表計算ソフトに、膨大な数値と数式が入力されている。
 その最後の行に、計算結果として座標らしき数字が出ている。
 今、光子郎が急いで送ってくる座標といえば一つだけ。
 デーモンの本拠地の座標。
 突き止めてくれたんだ。頼れる先輩の成果に、京はぐっとこぶしを握る。
 このことを早く伝えないと。
「あの、メールで座標が」
 言いながら顔を上げるが、そこに人影はなかった。屋上を見回しても、京以外の人間はいない。
「私……誰に話しかけようとしてたんだっけ」
 呆然としながら、京がつぶやく。
 その目を、今届いたばかりのメールに向ける。
 From欄の名前は『不明』に変わっていた。
 
 
 
―――
 
 
 
 怪鳥の墜ちた場所は、炎の余熱が残っていて、歩くと靴を通して温かさが伝わってくる。
 その中心に、少年は倒れていた。体は傷だらけで、身動きすらしない。虚ろに開いた目と、呼吸による微かな胸の上下だけが、まだ生きている証だった。
 大輔のかたわらに降り立ったエアロブイドラモンは、沈痛な面持ちで大輔を見る。大輔は黙ってパートナーの腕に触れた。
 拓也と泉も駆けつけ、目の前の光景に息を飲んだ。
 その場にいる誰も、少年のそばに寄ることができなかった。近づいたところで、どんな言葉をかければいいのか分からなかった。
 足音に振り返ると、輝二がまっすぐに歩いてきていた。淡々としているような、それでいて泣きそうな、複雑な表情をしていた。
 輝二は大輔達の横を抜け、倒れている少年の横に膝をついた。
 音に反応して、少年の口が動いた。
「だ……れ。こう、じ……?」
「ああ。俺だ」
 少年の腕が動いた。輝二を探すように、手が地面を探る。もう、目はほとんど見えていないらしい。
 その手に、輝二が自分の手を重ねた。ほっとしたように、少年が息を吐く。
 輝二が、自分と同じ顔をした少年に問いかける。
「せめて答えてくれ。お前は、俺の何なんだ」
「おれは、おまえ、の……ふ……」
 小さくなっていく声に、輝二が耳を寄せる。
「ぁ……」
 少年の唇から、ため息のような音がこぼれて。
 もう、動かなくなった。
 
 大輔は歯を食いしばり、爪が食い込むほどこぶしを握り締めた。やりきれない思いを言葉にして吐き出す。
「これが、スカルサタモンの言ってた『物語をねじまげる』って結果かよ。命を何だと思ってるんだ。俺達の世界も、拓也達の世界もめちゃくちゃにして。こんな展開、あってたまるかっ……!」
 自分達の野望のために、過去に干渉してきて、子ども達を世界から消して、少年を利用して。こんなの、許されていいはずがない。
 輝二は少年の手に触れたまま、うつむいている。それを見つめて、泉がぽつりと言う。
「彼が人間だったのなら、きっと私達みたいに本当の名前があったのよね」
 泉の言葉にうなずいて、拓也がつぶやく。
「結局、俺達はあいつのこと何も分からなくて、ただ倒すことしかできなかった」
 京や、太一達デジタルワールドから駆けつけた仲間が来るまで、大輔達はその場で立ち尽くしていた。
 
 
 
―――
 
 
 
 少年の死を聞くと、太一達も重苦しい表情になった。
 何やら考え込んでいた賢が、「あの」と声をあげた。
「これはあくまで仮説なんですが、デーモンを倒せた場合、この時間軸で起きたことは全部なかったことにできるかもしれません」
「どういうことだ?」
 ヤマトが聞くと、賢が言葉を続ける。
「今、僕達と拓也くん達が同じ時間軸にいるのは、デーモンが二つの世界を無理やり融合させようとしているからです。その融合させる力がなくなれば、世界はまた離れて、元の二つの世界、二つの時間軸に戻るかもしれない」
 伊織がはっとした。
「つまり、僕達と拓也さん達が出会わなかった世界になる。デーモンの部下の襲撃も、仲間の消滅も起こらなかった世界になる!」
「その世界でなら、あいつも生きてる可能性がある!」
 輝二の言葉には、珍しく熱がこもっていた。
「僕が言ったのは、あくまで仮説です。世界の融合なんて現実に起きたことがないし、何が起こるか確証はありません。ただ、信じてみる価値はあると思います」 
 賢は仮説だと言ったが、大輔達の心には確かな希望が芽生えていた。

 次に、京が声をあげる。
「みんな聞いて。デーモンのいる座標が分かったの。調べてくれたのが誰なのか、もう思い出せなくなっちゃったんだけど、仲間の誰かが送り届けてくれた」
 敵の本拠地への道を開く座標。その事実に全員が顔を引き締める。
 京が説明を続ける。
「この座標をデジタルゲートに入力すれば、デーモンのいる時空間にたどりつける。……ただし問題は、その時空間は世界を融合させる力が強く働いている場所だってこと。私達の消滅も加速する。デーモンにたどり着くまでに敵が妨害して時間を稼いでくるかも」
 一拍置いて、太一が口を開く。
「つまり、時間との勝負ってことだな。俺達全員が消える前に、デーモンを見つけて倒す」
 迷わずに、最後まで走り続ける。それが自分達に残された唯一の手段だ。
 大輔は仲間達を見回した。
 
 大輔とエアロブイドラモン。
 京とヒポグリフォモン。
 伊織とウパモン。
 ヒカリとテイルモン。
 賢とリーフモン。
 太一とアグモン。
 ヤマトとガブモン。
 拓也。
 輝二。
 泉。
 
 残っているのは7組と3人。
 仲間達が繋いでくれた希望を、自分達が形にしてみせる。
 そして、本当の物語を取り戻す。
 
 
 
◇◆◇◆◇◆
 
 
 
普段は小説を書いてからサブタイトル決めるんですが、この回は構想の時点でサブタイトルを決めていました。
このサブタイトルは本作のテーマでもあります。
「デジモンユナイト」は、オリジナル作品に対する「ろくでもない物語」です。
そもそも、02とフロという完結した作品のif展開を書こうという時点で、オリジナル作品に劣る物語になるのは分かっていました。星流が同じストーリーで頑張ったって、プロフェッショナルにかなう実力はございません。
となれば、いっそ「こんな展開あんまりだ!」と言われるような、原作ストーリーをガン無視した作品を書こうと思いました。オリジナルの展開をグッドエンディングとした場合の、バッドエンディングみたいな立ち位置です。
読者のみなさまはグッドエンディングを知っているからこそ、この展開の重さを実感するだろうと思います。
今回の「物語を正しい形に修正したい」という大輔達にも感情移入されるだろうと思います。
 
これから大輔達は、本当の物語を取り戻すために、デーモンとの戦いに挑みます。
最後までお付き合いいただきますと幸いです。