〔65〕渋谷上空の死闘! そして…… | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

  ヒポグリフォモンとバードラモンは、パートナーのいる屋上から距離をとった。パートナーを攻撃に巻き込むわけにはいかない。

 スカルサタモンがヒポグリフォモンに接近して杖を叩きつける。ヒポグリフォモンが辛うじて避けると、杖の当たった道路が盛大に割れた。

「《メテオウィング》!」

 バードラモンが上空から炎を落とすが、敵は肉を持たないだけあって、身軽に飛び回っていく。

「俺はお前らより素早さも攻撃力も上なんだよ! その爪一本だって俺には触れられない!」

 スカルサタモンが高笑いする。

 直後、背後から現れたかぎ爪が彼の胴体をむんずとつかんだ。

 敵をつかんだヒポグリフォモンは、体をひねった勢いで敵を地面に叩きつける。その速さに、空気の切れる甲高い音がした。

 スカルサタモンを見下ろして、ヒポグリフォモンが淡々と言う。

「この体に慣れるのに時間がかかりましてね。ようやく準備運動が終わりました」

 ヒポグリフォモンの速度はスカルサタモンのそれを上回る。その事実に、スカルサタモンは一瞬動揺の表情を見せた。

 が、すぐに上空に飛び、杖の先の宝玉を敵に向ける。

「《ネイルボーン》!」

 放たれる黄色の光線は、当たれば敵を戦闘不能に追い込む一撃必殺の技。かするだけでも十分に威力を発揮する代物だ。

 それを、スカルサタモンは連続で打ち出していく。

 ヒポグリフォモンがいくら素早くても、その体格と大きな翼で避けきるのは不可能と思われた。


 が、次第に焦りの表情を見せ始めたのはスカルサタモンの方だった。

 ヒポグリフォモンは攻撃を食らうどころか、戦いの中でその速度を上げ続けていた。その姿をはっきり視界にとらえることはできず、ただ白い姿が縦横無尽に駆け回っているように見えた。

 必死に狙おうとする中で、スカルサタモンが手を滑らせた。

 その一瞬をヒポグリフォモンは見逃さなかった。

 口内に高温の空気を溜め、敵を目がけて吐きだした。

「《ヒートウェーブ》!」

 熱風が、スカルサタモンの体を包む。熱による空気の揺らぎで、その体は絶え間なく揺らいで見えた。骨が高温に溶かされていく。
「《メテオウィング》!」
 バードラモンの打ち出した炎がスカルサタモンを地上に叩き落とした。
 
 
 
―――
 
 
 
 一方、パートナーの元に向かう大輔。
 エアロブイドラモンの姿が間近になったところで、大輔は声を上げた。
「エアロブイドラモン!」
 ヴォルフモンが大輔の腰をつかんでぶん投げる。エアロブイドラモンが翼を広げ、大輔を背中で受け止めた。
「大輔、危険だぞ」
 パートナーの言葉に、大輔は真剣な表情で前を見据える。
「分かってる。でも、俺も一緒に戦いたいんだ」
「そうか」
 簡潔な答えを受け止めて、エアロブイドラモンは頷いた。
 エアロブイドラモンが翼をはばたかせ、一気に加速する。翼の先端と鼻先の角が輝き、V字を描く。
「《Vウィングブレード》!」
 放たれた光が怪鳥の翼を切り裂く。黒い羽根が舞い、怪鳥がバランスを崩す。
 すかさず、アグニモンとフェアリモンが追撃する。
「《サラマンダーブレイク》!」
「《トルナード・ガンバ》!」
 二人の回し蹴りで、怪鳥をビルに叩きつける。窓ガラスが割れ、壁面にひびが入った。
 怪鳥の動きは鈍くなってきている。強いのは事実だが、数はこっちの方が多い。長期戦になれば、先に消耗するのは敵の方だ。
 このままいけば、進化解除させられる。
「よし、もう一回だ!」
「おう!」
 大輔の声に、エアロブイドラモンも威勢よく答えて接近する。
 翼を広げて、再び《Vウィングブレード》の力をためる。
 が、放つ前に怪鳥が首をもたげた。勢いよく羽ばたいて突風を巻き起こした。
 広げていた翼にもろに突風を受け、エアロブイドラモンは吹き飛ばされる。
「っ!」
 体が上下左右に回転し、大輔は必死にパートナーの背にしがみつく。
 体制を立て直した時には、怪鳥から大きく離れていた。
「大丈夫か、大輔!?」
「ああ。それより、あれは」
 大輔の視線の先には、奇妙な赤い円があった。ビルの中程から屋上にかけて、斜めに描かれている。
 円の淵から二つの黒い壁がせりあがり、半球状にビルを覆っていく。大輔には、ビルを食べようとする黒い口に見えた。
 そして、ビルの窓からは助けを求めて身を乗り出すスーツ姿の大人が四人。このままだと黒い半球に飲み込まれる。
 エアロブイドラモンがすぐさまビルに向かって飛んだ。
 その間にも、アグニモン、ヴォルフモン、フェアリモンが一人ずつ抱えて地上に避難させる。
 黒い口はもう半分閉じている。エアロブイドラモンはその隙間から飛び込んだ。
 突然やってきた怪獣に、男性は唖然として固まっていた。エアロブイドラモンが手を伸ばすと、おびえて一歩下がる。
「いいからつかまれ!」
 大輔の声に、慌ててエアロブイドラモンの手にしがみついてきた。
 視界が暗くなる。半球がもうじき閉じる。
「大輔、伏せろ!」
 エアロブイドラモンはぎりぎりまで体勢を平たくして、すり抜けた。
 直後、半球が閉じる。半球の消失と同時に、半球内のビルも消失した。
 エアロブイドラモンが、男性を道路に降ろす。
 改めて、大輔は渋谷の街を見回した。大輔達が上空で戦っている下で、大人達の必死の救助作業が行われていた。真昼間の渋谷にいた人は多く、まだ怪我人が大勢いる。
 自分達がデジタルワールドではなく人間世界で戦っていることを痛感した。
 持久戦に持ち込めば、怪鳥は助けられるかもしれない。でも、周りの人達が戦いに巻き込まれていく。救助活動も遅れていく。犠牲が増えていく。
 大輔が迷う間にも、怪鳥が救助隊員目がけ、かぎ爪を振り上げる。
「やめろーっ!」
 ヴォルフモンが怪鳥の目に切りつけた。怪鳥が悲鳴を上げ、仰向けに倒れる。

 すかさず、ヴォルフモンが怪鳥の胸に乗った。

「――許せ」
 光の剣を逆手に握り、怪鳥の口に突き立てようと振り上げる。
「っ! エアロブイドラモン、止めてくれ!」
 エアロブイドラモンがヴォルフモンをつかみ、怪鳥から引きはがした。
 ヴォルフモンがキッと大輔をにらむ。
「甘ったれるのもいい加減にしろ! こうしなきゃ……あいつが人を殺してしまう」
 ヴォルフモンの目には、涙が光っていた。
 何とか助けてやりたい気持ちはヴォルフモンも同じだ。
 大輔はこぶしを握って答える。
「分かってる。でも、ヴォルフモンにだけは、やらせちゃいけない気がしたんだ」
 理由なんかない、ただの直感。でも、どうしてもヴォルフモンの手を汚してはいけないと思った。
 怪鳥が起き上がり、再び上空へと飛ぶ。それを見上げながら、大輔は自分のパートナーの背に両手を置いた。

「……エアロブイドラモン、頼む」
 全力を出せるように、大輔はエアロブイドラモンの背から降りる。
 パートナーが無言で飛び立っていく。その体に、白炎をまとう。
「《ドラゴンインパルス》!」
 竜頭の衝撃派が、怪鳥を貫いた。
 怪鳥が白炎に包まれながら、地面に墜ちていく。

 大輔は奥歯を噛み締めた。それでも、決して目をそらさなかった。



―――
 
 
 
 がれきの中から、スカルサタモンが起き上がった。体は崩れかけているし、杖に寄りかかってはいるが、まだ立てる。
「あいつら、火事場の馬鹿力出しやがって……ここは一旦退いて」
 言いかけたところで、周囲が陰った。怪訝そうに上を見る。
 怪鳥の巨体が真上に迫っていた。更に、スカルサタモンめがけて落ちてくる鋭利なかぎ爪。
「なっ――!」


 巨体が叩きつけられた轟音と、盛大な土埃が広がった。
 その下からデータの屑がこぼれ散ったことに、気づいた者はいなかった。

 
 
◇◆◇◆◇◆



間が空いてすみませんでした。疲れがたまっていたこともあるのですが、一番は……今回の展開を書くのがしんどかったからです(汗)

諦めるという選択を大輔達にさせるのもしんどいし、彼にとどめを刺すのもしんどかった。
彼の物語は、次回もう少しだけあります。