〔64〕京の共感 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 伊織達が、デジタルワールドでレディーデビモンと戦っていた頃。
 大輔は厳しい表情で渋谷の上空を見上げていた。
 黒雲の下で、同じように暗い色の怪鳥が飛んでいる。アグニモンとバードラモンが炎を浴びせるたびに、その姿が不気味に浮かび上がる。
 怪鳥のかぎ爪がバードラモンの翼をつかんだ。もがくバードラモンの首に、怪鳥のくちばしが迫る。
「《マッハインパルス》!」
「《ブレッザ・ペタロ》!」
 ホルスモンとフェアリモンの旋風が、怪鳥の顔にぶち当たり、ひるませた。その隙にバードラモンが逃れ、距離を取る。
 一対六の圧倒的有利。にも関わらず、味方は決め手を欠いていた。
 京がパソコンの画面と怪鳥を見比べ、顔を曇らせる。
「やっぱり、こっちの図鑑には載ってない」
「でも、きっと完全体くらいの力はあるはずよ」
 空が戦況を見ながら推測する。完全体1、成熟期1、アーマー体1、十闘士3を相手取っているのだから、敵は完全体クラスと思ってかかるべきだ。
「そうなると、やっぱりエアロブイドラモンじゃないと」
 言いながら、京が大輔を見た。その視線に、大輔は歯を食いしばる。京が言いたいことは分かる。だけど。
 エアロブイドラモンがヴォルフモンを背に乗せて飛ぶ。
「《Vウィングブレード》!」
「《ツヴァイ・ズィーガー》!」
 完全体の攻撃を受けて、怪鳥の胴体に傷が走る。怪鳥が苦し気な声をあげた。
 大輔ははっとして、屋上から身を乗り出す。
「エアロブイドラモン! そいつを倒すな! こないだの暗黒の砂漠の時みたいに、スピリットを取り除けるくらいに抑えるんだ!」
 パートナーの言葉に、エアロブイドラモンがうなずく。エアロブイドラモンが全力を出せば、敵の命を奪いかねない。命を奪わず、デジコードが浮かび上がる程度にダメージを調整する必要があった。
 屋上の手すりを握り、大輔がつぶやく。
「あいつは、デーモン達に利用されてるだけなんだ。どうにか助けてやらないと」
 
「それならムダな努力だぜ?」
 
 不意に背後から耳障りな声が聞こえた。
 大輔、京、空はすぐさま振り返る。
 給水塔の上に、スカルサタモンが座っていた。相変わらず意地の悪い笑みを浮かべている。
 大輔はその顔をきっと睨みつける。
「ムダなんかじゃない! お前に決められてたまるか!」
「それがもう決まってるんだよ。あいつの精神は壊れちまったんだ。元には、戻 ら な い」
 最後の言葉を、わざとゆっくりと聞かせてくる。
「スカルサタモン! そこで何してる!」

「空!」
「京さん!」
 そこに、ヴォルフモン、バードラモン、ホルスモンが駆けつけた。大輔達をかばえる位置に立つ。
 大輔はこぶしを握り締め、スカルサタモンに聞く。
「戻らないって、どういう意味だ」
「あいつを手駒にするために、デーモン様はあいつの精神データに手を加えた。怒りの感情が増幅するようにな」
 大輔は心当たりがあった。確かに、ダスクモンは怒りを見せることがあった。
 そして、それは会うたびに激しくなっていった。
「あいつは段々自分の怒りに飲み込まれて、デーモン様の命令より自分の感情を優先するようになった。ならいっそ理性もないバケモノの方が使い勝手がいいから、俺が力を注いで暴走させたってわけだ。おかげでこうしてお前達の足止め程度には役に立っている」
 大輔達の嫌悪の表情を見て、スカルサタモンはゲラゲラと笑った。
「あんた、人の気持ちを何だと思ってるのよ! 勝手にいじって、暴走させて!」
 京の叫びに、スカルサタモンが笑みを引っ込める。
「勝手にも何も、怒りは元からあいつが抱えてた感情だ。デーモン様はそれをちょっと突いただけ。まあ、それで精神が崩壊するんだから人間ってのはもろい生き物だ!」
 そう言ってまた腹を抱えて笑う。

 大輔はスカルサタモンをにらんで一歩踏み出した。

 

 だが、先に言葉を叩きつけたのは京だった。

「あなたに他人の心を笑う資格なんてない!」

 腹の底から出た言葉が屋上に響く。

「確かに、人間もデジモンも怒ったり、誰かを嫌ったりする。でも、嫌な気持ちも嬉しい気持ちも、全部その人が感じた本当の気持ちなの。それを他人が笑ったり、勝手に組み替えたりする資格なんてない!」
 京の胸元で紋章がマゼンタ色の光を放った。

 それがホルスモンを照らすと、ホルスモンの体が同じ色に包まれる。

 ホークモンの形に戻ったのもつかの間、その姿は新しい形に生まれ変わる。

 

「ホークモン、進化ー!」
「アクィラモン!」
 
 大きな翼を持つ鳥型のデジモンから、更に二本の足が生えていく。
 
「アクィラモン、超・進化ー!」
「ヒポグリフォモン!」 

 

 真っ白な幻獣に姿を変えたパートナーを見て、京がぐっと両手でガッツポーズを取った。

「ビンゴ! かっこいいわよ、ヒポグリフォモン! 私達のパワフルな気持ち見せてやって!」

「了解です、京さん!」

 ヒポグリフォモンは力強く答えて、スカルサタモンに飛びかかる。

 ヴォルフモンは怪鳥の方の戦いが気になるのか、斬りかかるのをためらっている。それを察して、空がそっと声をかける。

「こっちは私とバードラモンがフォローする。だからあなた達はダスクモンを止めて」

「……分かった」

「俺もエアロブイドラモンのところに連れていってくれ。一緒に戦いたい」

 ヴォルフモンは頷いて、大輔を背中につかまらせた。

 ビルを飛び移って、エアロブイドラモンが戦っている場に向かう。

 その途中で、ヴォルフモンが独り言のようにつぶやく。

「スカルサタモンの言っていたことが本当だとしたら……ダスクモンが人間で、もう心が壊れてしまっているとしたら……俺は、あいつにとどめを差してやるべきなのか……?」

「そんなこと、あってたまるか」

 ヴォルフモンの肩に乗せた手に力を込める。そうだ、諦めたら絶対に助けられない。

 エアロブイドラモンの攻撃が怪鳥を傷つけ、悲鳴のような声が上がる。

 大輔の心を刺すような、痛々しい響きだった。
 


 
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京の紋章は当初「快活」にしようかと思っていたのですが、書き進めるうちに戦場で発揮させるにはそぐわない性質かなと路線変更しました。

怪鳥戦と同時並行になったため完全体進化シーンにあまり紙幅を割けなかったのが反省点。