〔61〕紅の破壊者 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 つい30分前まで人で埋め尽くされていた渋谷駅前は、救急車と消防車、隊員、怪我人であふれていた。
 渋谷駅の地下から突如現れた怪獣――デジモンにより、駅が崩壊。多数の負傷者が出ている。
 光子郎はその合間を抜けて走っていた。一刻も早く、一歩でも渋谷駅から離れるために。
 愛用のノートパソコンを抱えて、人にぶつかるのもかまわず走る。しかし、ぶつかられた人は文句も言わず、光子郎に目を向けもしない。
 それは、光子郎の存在が消えかけていることを意味していた。
 光子郎は奥歯を噛んだ。
 時空のひずみに近づきすぎた。
 デジモンが出たと聞いて、デーモンの一味だと確信した。だから、デーモンの本拠地に繋がるデータを取るために出現地点に近づいた。
 自分の中に仮説はあった。デーモンの居場所に近づくということは、二つの世界の融合が最も加速している地点に近づくということ。
 でも、その影響がこんなに早く現れるとは思わなかった。
「光子郎はん、聞こえてまっか!?」
 パソコンから聞こえてきた声で、はっと我に返る。いつの間にか、渋谷109の入り口まで来ていた。
 頭を振って、意識をはっきりさせる。まだ消えるわけにはいかない。
 地面に座り、パソコンを開く。画面の右上には、デジタルワールドから光子郎を気づかうパートナーが映っている。
 必要なプログラムを起動させながら、光子郎はパートナーに呼びかける。
「テントモン、僕なら大丈夫。今からデータを解析して、デーモンの本拠地の座標を割り出す」
「なんか、わてにできることありまっか? えろう顔色悪いでっせ」
「僕に話しかけ続けてください。僕のことを常に考える存在がいれば、少しは消滅を遅らせることができるかもしれない。せめて、みんなに座標を送るまではもたせないと」
 自分の存在を危険にさらしてまで得たデータを、無駄にするわけにはいかない。
 テントモンの声を聞きながら、光子郎は素早くキーボードを叩き始めた。


―――
 
 
 大輔とチビモン、拓也、輝二は地下鉄日比谷線の広尾駅で降ろされた。渋谷周辺に被害が広がり、この路線も運行見合わせになったらしい。
 でも、ここまでくれば渋谷まではあと少しだ。
 改札を出て、手近にあった公園に入る。人目につかない木陰に入ったところで、デジヴァイスを取り出した。
 数分後、ビルの上を黒、赤、青の3つの影が駆け抜けていったが、気づいた人はいなかった。
 

―――


 着信音が鳴って、ヒカリがD-ターミナルを開いた。
「大輔くんから。もう少しで渋谷に着くって」
 その言葉に、座って休んでいた仲間達がテレビの前に移動してきた。渋谷にデジモンが出てからだいぶ時間が経っている。大輔側の準備ができ次第、すぐにでも渋谷に向かえるようにする。
 仲間が減っている、という感覚は全員の頭の隅にこびりついているが、目の前の戦いが先だ。
 ふと、地面を影が飛び過ぎた。テイルモンが何気なく上を見る。
「っ! みんな伏せろ!」
 急な言葉に反応した仲間が、周りの仲間を押し倒して伏せさせる。
 その頭上を、コウモリの群れが通過する。
 顔を上げると、上空で黒い悪魔が羽を広げていた。高度があって小さくしか見えないが、伊織はその正体に気づいた。
「あれは、レディーデビモンです!」
 全員が身構える中、レディーデビモンが高度を下げて近づいてくる。
「覚えてくれてたみたいで嬉しいわ。こっちだってあんた達に会いたくて仕方なかったんだから。……私の顔をこんな風にした相手を、八つ裂きにしたくてね!」
 表情が判別できるほど近づいてきたおかげで、敵の言葉の意味が分かった。
 黒いマスクの下、元は青白かった頬は赤黒く焼けただれていた。アグニモンとサブマリモンが与えた傷だ。
 紅い目は怒りに燃えて、伊織とアルマジモンを見据えている。
「あんた達が世界から消えるまで待っていられない……ここで全員データの屑にしてやる!」
「来るぞ!」
 太一の言葉に、子ども達がデジヴァイスを握った。
 
 

―――
 

 
「これは……」
 曇天の渋谷。
 大輔はビルの上から街を見下ろして、言葉を失った。
 建物が崩壊しているだけでなく、あちこちに奇妙なクレーターができていた。
 きれいな円形に地面や建物がえぐれている。その切り口が、鋭い刃物で切ったように滑らかだ。
 爆発で吹き飛んだというより、まるで、円の中にあった物がそっくり消えてなくなったように見える。
 その上空を、怪鳥が旋回していた。
 鳥の骸骨のようなその体は深い緋色で、羽だけが黒い。胴体だけならエアロブイドラモンとそう変わらない体格だが、羽を広げた姿は何倍も大きく見えた。
 遠目でも気味の悪い見た目だが、大輔はどこか既視感を覚えた。
「……ダスクモン?」
 先に口にしたのはヴォルフモンだった。怪鳥を憐れむような悲しいような目で見つめている。
「でも、前に見た時と姿が違う。進化したのかも」
 ライドラモンが警戒するように姿勢を低くする。
 進化するとデジモンの性能は大きく変わる。以前の姿でも苦戦した相手だ。更に手ごわくなっているのは間違いない。
 怪鳥が口を開け、甲高い鳴き声を上げた。耳をつんざくような高さと音量に、大輔達は耳をふさいだ。
 その奇怪な鳴き声に、大輔は悲しみが混じっているように聞こえた。
「泣いてる、のか?」
 その疑問に答えを出す間もなく、怪鳥が降下し、ビルをかぎづめで砕いた。コンクリートの塊が崩落し、道路の車を一撃で押しつぶす。
「とにかくあいつを止めるぞ!」
 アグニモンが声を上げ、ビルを伝って怪鳥へと駆ける。ヴォルフモンも表情を引き締めて後を追う。
 大輔は背負っていたかばんを開け、京のパソコンを取り出した。起動している間に、ライドラモンがブイモンに戻る。
「ブイモン、頼んだ!」
「ああ、エアロブイドラモンだな!」
 大輔とブイモンの意思に応えて、デジヴァイスと紋章が光を放った。
 
 
 
◇◆◇◆◇◆ 
 

 
先日初めて渋谷駅で降りたのですが、あまりに人が多くて全然写真撮れませんでした(汗)フロでもサイスルでも出てくるのでぜひ撮りたかったんですけど……。あのスクランブル交差点の混雑ぶりは想像以上だったし、あの場に誰もいなくなるっていう状況はなるほどホラーだと実感しました。
 
テントモンの口調はアニメのセリフを参考にしながら作ったのでたぶん間違ってないと思うのですが……おかしいところがあれば、そっと教えてください。直します。方言難しい。