拓也達が家族に追い出された朝に始まり、京と伊織の紋章探索に、ダスクモンとの戦闘と慌ただしかった一日が終わった。
拓也は大輔宅に、輝二はヤマト宅に、純平は光子郎宅に、泉は空宅に泊まることになった。
輝二は人の世話になりたくないと、土壇場で意地を張った。が、ヤマトが「うちは徹夜した親父の後輩しか泊まりにきたことないから、近い年の奴が泊まってくれるのは歓迎だ」と説得していた。
大輔が拓也を連れ帰ると、母親と姉に疑われる羽目になった。
「大輔のサッカークラブ? こんな子いたっけ?」
拓也をじろじろ見るジュンに、大輔が唇を尖らせる。
「まだ入ったばかりなんだよ! で、両親は旅行に行ってて、拓也はうっかり家の鍵なくしちゃったんだ」
あらかじめ用意しておいた嘘で訴える。
しゃっくりあげる声に振り返ると、拓也がうつむいて目を腕でこすっていた。
「大輔くんと遊んでる途中で鍵をなくしたのに気づいて……僕の親が帰ってくるまで大輔くんちに泊められるか聞いてくれる、って言われたからついてきたんです。急に無理なお願いしてすみません」
涙混じりの言葉に、ジュンも母親も困った顔になった。
母親が拓也に優しく聞く。
「神原くん、親御さんはいつ帰ってくるの?」
「えっと、あさってです。二人で九州に行ってるんです」
「親御さんには連絡つかないの? 携帯電話持ってたりしない?」
「おっ、僕の家、誰も携帯持ってないです」
拓也のデジヴァイスは拓也の母親の携帯が変化したものだ。大輔もそれを知っていたが、表情には出さなかった。
大輔の母親が、仕方なさそうにうなずいた。
「分かった。散らかってる家だけど二晩なら泊めてあげる」
「ありがとう!」
「ありがとうございます!」
大輔が顔を輝かせ、拓也が深く頭を下げた。
「そうと決まったら、大輔、夕飯ができるまで部屋を片づけてきなさい。床のじゃまなものをどけれは、布団一枚くらいひけるでしょう」
「げっ、そうくるか」
「手伝うよ」
大輔の後を追って、拓也も大輔の部屋に入る。
ドアを閉めた途端、大輔の腕からチビモンが飛び出した。勉強机に着地して拓也を見上げる。
「うまくいってよかったな、たくや!」
「ああ。俺の泣き真似上手かっただろ」
拓也が自慢げに笑う。
大輔が拓也をひじで小突いた。
「でも一回「俺」って言いかけたよな」
「大輔にはばれたか」
拓也の目の端には本物の涙が光っていたが、大輔は気づかないふりをした。鍵をなくしたというのは嘘だが、自分の家に入れないのは本当だ。
さて、と床に放り出していたランドセルを拾う。
「夕飯できるまでに片づけ済ませようぜ」
「ああ」
拓也も鉛筆を拾い上げて、片づけに加わった。
夜9時40分。大輔達が布団にもぐってから静かな時間が流れ、目覚まし時計の針が動く音と、チビモンのいびきだけが聞こえる。
「大輔、まだ起きてるか?」
ぽつりと拓也に聞かれて、大輔は目を開けた。
「俺のこと、まだ覚えてるか?」
「神原拓也、11歳、自由が丘に住む小学5年生、炎の闘士、アグニモン。忘れるもんか」
「だよな。……でも、明日大輔が起きた時には、俺は消えてて、大輔も俺のこと忘れてるかもしれない」
「それが心配で眠れないのか?」
大輔の質問に、拓也は数秒黙った。
「昼に伊織が言ってたんだ。デジタルワールドに来たの、本当に6人だったかって」
拓也が寝返りを打つ音がする。
「家族が俺のこと忘れたみたいに、俺達も仲間のことを忘れて、そいつが消えたことにも気づいてないんじゃないか? 俺達が気づいてないだけで、もう仲間の消滅は進んでるんじゃないか? そう思ったら、怖くなって」
大輔だって、「気のせいだ」と言える自信はない。
でも。
「もし俺達が忘れた仲間がいたとしても、その人やデジモンが仲間だってことは変わらないさ。デーモンを止めて世界を元に戻した時、消えた仲間も戻ってくるかもしれない。いや、戻ってくる! 俺はそう信じて頑張る!」
大輔は天井にこぶしを突き上げる。理由も根拠もない自信だが、それが大輔の良いところだ。
拓也もふっと笑う気配がして、「そうだよな!」とこぶしを天井に突き出した。
「忘れた仲間を思い出すためにも、しっかり寝て体力つけて、デーモンをぶっ飛ばす! ってことでおやすみ!」
こぶしを下ろした後、少しして拓也の安心した寝息が聞こえてきた。
大輔も目を閉じる。
自分には明日があると信じて。
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短いですがキリの良いここまでにします。前回の大輔とヒカリのやりとりから恋愛話でもやろうかと思ったんですが、拓也の方がそんなメンタルじゃなかった。
次回は(まだ消えていない)人間キャラ全員出します。