「デーモンの居場所に見当はついてるんですか?」
タケルの質問に、光子郎が考え込む。
「二つの世界に影響を与え、かつ調整するという細かな作業を行っていますから……自分に影響が出ないよう、どちらとも違う世界から干渉してきていると思います」
光子郎が重なり合った二つの円――大輔達の世界と拓也達の世界――の外側を指さす。
「それは、デジタルワールドにいるということか?」
テイルモンが続けて問いかける。
「まだ分かりません。僕達の行ったことのない、未知の世界という可能性もあります。昨日のマリンデビモンやダスクモンが現れた辺りを調べれば、世界を移動した痕跡が見つかるかもしれません」
「何にしろ、時間がかかりそうだな」
太一が顔をしかめる。
「とりあえず、朝ごはん食べない? 私、家を出る前に色々引っつかんできたからさ」
京が明るい声を出して、大きなスーパー袋を出した。中にはおにぎりやパン、飲み物、チューチューゼリーまで大量に入っている。
それを見て、大輔とチビモンのおなかが鳴った。そういや、朝ごはん食べずに来たんだっけ。
「サンキュー、京」
大輔が手を出すと、素早く袋をどけられた。
「ダーメ。泉ちゃん達が先よ」
「ちえっ」
口ではそう言いつつ、おとなしく座り直す。
食べ物いっぱいの袋を差し出されても、泉はしゃっくりあげるばかりで手を伸ばそうとしなかった。
「泉ちゃん……」
ヒカリが心配そうに声をかける。
急に拓也が立ち上がり、泉と京の間に入った。
袋からクリームパンと紅茶のペットボトルを出して、泉の手に握らせる。ゆっくりと話しかける。
「食べろよ。腹が減ってちゃ、考えることも戦うこともできないだろ」
泉は無言でパンを握りしめる。
「泣きたくなる気持ちは俺にも分かる。でも、このままじゃ俺達消えていく一方なんだ。家に帰るためには、犯人のデーモンを見つけてぶっとばさないと。っていうか、こんな目にあわせた奴、殴らないと気がすまないぜ。泉だってそうだろ?」
そう言われて、やっと泉は泣きはらした顔を上げた。目をうるませながらも、小さく微笑む。
「……私も、思いっきり蹴り飛ばしてやりたい」
「だろ?」
拓也がにっと笑う。泉がペットボトルのふたを開ける。拓也もおにぎりの袋をはがしてかぶりついた。
ぐーっ、と誰かの腹の虫が鳴いた。純平が恥ずかしそうな顔で、大きな体をすくめながらパンを取る。
輝二が仏頂面のまま、立ち上がって食料を取った。
それでやっと、大輔達選ばれし子ども達も遠慮なく食べられるようになった。
と、大輔の視線が友樹に向いた。友樹だけは、まだ膝の上で握りこぶしを固めたままだ。
チョコパンを持ったチビモンを抱えて、大輔は友樹の前にしゃがんだ。チビモンの両手を動かして、声まねをする。
「トモキ! 早ク食ベナイトオレガミンナ食ベチャウゾ! チョコパン、オイシソー! ア、オレノ、口ノ中ニ~!」
がぶっ。
「って、だいすけ! あけてないから食べられないよっ!」
袋ごと食べてから、チビモンがツッコんだ。
大輔とチビモンの漫才に、とうとう友樹が吹きだした。
「おっ、笑った笑った」
「ありがと、大輔さん、チビモン」
友樹が小道具のチョコパンを受け取った。
チビモンの歯形がくっきりとついているが、まあいいだろう。
和気あいあいと食べるうちに、今朝のショックも落ち着いてきた。
十一人と四匹分のゴミを公園のゴミ箱に捨てる。時計は十時過ぎを指していた。真夏の海辺は更に蒸し暑くなりつつある。「ヤマトさん、空さん、丈さん、ミミさん、伊織くん……あと、一乗寺くんも。全員に現状をまとめてメールしておきました」
ノートパソコンを操作していた光子郎が、顔を上げる。
「それで、これからどうする?」
太一が全員を見回す。
口火を切ったのは純平だった。
「さっきの話だと、昨日戦った竹芝ふ頭に敵のアジトの手がかりがあるかもしれないんだよな。だったら俺、行ってみるよ」
「僕も同行します」
光子郎が当然のように申し出た。
「……俺は、ダスクモンを探してみる」
輝二が硬い声で言った。
「あいつが俺と同じ顔をしている理由が知りたい。人間の姿になって、何をするつもりなのか」
「確かに。俺達をだますためだとしても、もうバレてるしな。人間のふりして、人間世界で何か企んでるとか?」
拓也が腕組みする。
テイルモンが右手を上げた。
「だとしても、どうやって探す? デーモン同様、手下の居場所も分からない」
「渋谷駅」
ヒカリがぽつりとつぶやいた。顔を上げて、もう一度言う。
「大輔くんが十闘士のデジタルワールドに行く前に、渋谷駅であの子を見たわ。近くに隠れ家の入り口があるかもしれない」
「おれたちがたくやたちと会って、デジタルワールドに行ったえきだな!」
チビモンが元気よくつけたす。
「三つの世界の交錯点。なるほど、他の世界に通じる場所があってもおかしくありませんね」
光子郎もあごに手をやって同意する。
「じゃあ、輝二と俺とチビモン、ヒカリちゃんとテイルモンで行ってくる」
大輔が話をまとめた。
京が少し考えながら手を上げた。
「あの、これはもしもの話なんだけど。昨日、ブイモンとワームモンが紋章の力で完全体に進化したでしょ? 私や伊織にも、紋章ってあったりしないかなーって……どうかな?」
太一、光子郎、タケル、ヒカリが顔を見合わせた。
「どうだろう。紋章は7年前に光が丘にいた僕達をスキャンして作られたものだから」
「でも、あの時光が丘にいなかった大輔や一乗寺にも紋章があった」
「他の選ばれし子どもに紋章がない、という証拠もありませんね」
「紋章があるとしたら、どうするの?」
ヒカリの問いに、京が力強く答える。
「私達のデジタルワールドに探しに行こうと思って。紋章があるとしたらデジタルワールドだし、戦力は強い方がいいでしょ?」
「それなら、家から俺のタグを取ってくるよ。大輔の時も光子郎のタグが使えたんだ、俺のを貸すよ」
太一がうなずいた。
会話に拓也も口を挟む。
「俺も一緒に行くよ」
「私も。じっとしてても落ち着かないし」
「僕も行く! 東京にいると、家のこと思い出しちゃうから」
泉と友樹も後に続いた。
パタモンが自分のパートナーを見上げる。
「タケルはどうするの?」
「僕は、母さんに今晩友達を泊められるか聞いてみる」
タケルが拓也達五人に視線を向ける。
「今日中にデーモンを見つけられるか分からないし。今晩、拓也くん達が安心して寝られる場所を作らないと。お兄ちゃんにも相談してみるよ」
「いいのか? 俺は、デジタルワールドで寝るところ探しても……野宿にも慣れたし」
「そんなこと言うなよ」
拓也の遠慮を大輔がさえぎった。
「この世界は、拓也達の世界でもあるんだ。一番落ち着ける場所がここじゃないなんて、さみしすぎるだろ」
大輔の言葉に、拓也がぐっと口を引き結ぶ。大輔には、涙をこらえたように見えた。
「タケル、大輔……ありがとう」
「それじゃあ!」
京が立ち上がり、こぶしを空に突き上げる。
「選ばれし子ども達、十闘士、出動っ!」
「おーっ!」
気合の入った声が公園に響いた。
◇◆◇◆◇◆
再起です。落ち込んでても仕方がない、行動あるのみです!
さて、探すと言ったからには、京と伊織の紋章と進化先考えないとなあ。←ノープラン