昼過ぎに一度足を止めて、食事と休憩をとることにした。
気持ちでは少しでも早く信也に追いつきたいけど、疲れ切った時に敵とぶつかるわけにはいかない。焦ってる時ほど、こまめに休憩を取った方がいい。二年前の旅で自然と学んだ。
みんなでたき火を囲んで、担いできた肉リンゴを焼く。昼でも夜のように暗い空に、白い煙が上っていく。
「そうだ、ボコモン」
焼けるのを待つ間に、輝二が口を開いた。
「これから行く光の城について、名前以外に情報はないのか?」
「そうね。この先に敵が待ってるかもしれないし、分かってることは今のうちに教えてちょうだい」
泉もボコモンに顔を向ける。
「任しとき!」
ボコモンはどんと胸を叩いて、腹巻からいつもの本を取り出した。
「これから行くのは、デジタルワールドの歴史における重要な場所じゃハラ。大事なところだけ話すが、長くなるんで肉リンゴを食べながら聞いてくれなはれ」
「ディノビーモンの話は前に少ししたな。今朝行った永遠の城に住み、ルーチェモンの統治を支えていたデジモンじゃハラ。ディノビーモン達がルーチェモンのために作った城。それが、今から行く光の城じゃマキ。
ルーチェモンの統治は、最初は穏やかだったハラ。その頃はこのエリアも青空の見える明るい場所だったハラ。光の城の周りには大きな街ができて、多くのデジモンでにぎわっていたマキ。
しかし、平和は十年ほどしか続かなかった。
ルーチェモンがある町を訪れ、いきなり焼き払ってしまったんじゃ。理由は分からん。じゃが、町にいた千体近いデジモンが、ほんの一時間足らずで滅びたと記録されているハラ。
大粛清と呼ばれたその事件から、ルーチェモンは暴走し始めたマキ。周りの話を聞かず、自分に反対するデジモンは力でねじ伏せるようになった。
ん? 純平はん気づくのが早いの。その通り、反抗するデジモン達のリーダーになったのが古代の十闘士じゃハラ。
十闘士は二十年もかけて仲間を集め、また自分を鍛えた。オリンポス十二神族と交信し、技を伝えられたのもこの頃じゃな。
そして十闘士の率いる反乱軍はディノビーモンを倒し、ルーチェモンを封印した。
その直後、光の城を中心に空が暗くなり、今のような不気味なエリアになったんじゃと。光の城に行くと呪われるという噂も広がって、誰も近づかなくなったハラ。
うむ、そうじゃ拓也はん。闇のエリアが恐れられるようになったのは、光の城が原因じゃマキ。城の話さえみんな怖がってしなくなり、『闇のエリアに近づくな』という話だけが残ったのじゃろう」
「呪われるって、どういうこと?」
友樹の顔色が悪い。三年生の頃と変わらず、怪談が苦手なんだ。「わしも調べてみたんじゃが、光の城が今どうなっているのかは分からんかった」
「行ってみないと分からないってことか」
輝一が城の方角に顔を向ける。年中暗いエリアの向こうは、ここからじゃまだ見通せない。
俺は肉リンゴの芯を捨てて、ボコモンにうなずいた。
「サンキュー。気をつけて行こうな」
「そうじゃな。早いとこ、飯をすませ、って、あーっ!?」
ボコモンが悲鳴を上げて跳んだ。
「わ、わしの肉リンゴがないー!?」
焚き火を囲んでいた肉リンゴは全部食べられて、芯と串だけが転がっている。そういえば、ボコモンは食べてなかったっけ。
ネーモンが膨らんだ腹を満足そうに撫でて言う。
「食べながら聞けって言ったのボコモンじゃん」
「わしの分まで食べていいとは言っておらーん!」
ネーモンの腹を、容赦なくゴムパッチンが襲う。
「ごめんボコモン。ほら、僕の半分残ってるからあげるよ。おなかいっぱいだし」
「俺の板チョコもやるよ。最後の一枚」
友樹と純平が苦笑しながら、肉リンゴと板チョコを手渡す。
ボコモンは不機嫌な顔のまま勢いよくかぶりついた。光の城も怖いけど、食べ物の恨みはもっと怖いかも。
「私、偵察に行ってくる」
「俺も行くよ」
フェアリモンとカイザーレオモンに進化して、二人が出かけていった。
二人を待つ間に、ボコモンは食べて、俺達は焚き火を消して荷物をまとめる。
それが終わっても、二人は戻ってこなかった。
「何かあったのかな」
俺のつぶやきの答えは、闇の向こうから届いた。
二人の行った方角に、一筋の紅い光が見えた。信号弾みたいに、地上から空へ伸びる光だ。
輝二が真っ先に立ち上がった。
「ライヒモンの《ロートクロイツ》だ!」
「ダブルスピリットしたってことか!?」
純平も顔色を変える。ダブルスピリットして、俺達にSOSを出す事態になったんだ。
「急ぐぞ!」
俺が言うまでもなく、四人ともデジヴァイスを出していた。
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山場乗り越えてきましたー。とりあえず、小説書く余裕ができた。
そして歴史背景書くのが楽しくて調子に乗り、書き過ぎたのを半分ぐらい削りました(笑)城建設以前の話とか、ここで書く必要性がないし……。大半は裏設定化しそう。