堀に沿って歩いていくと、すぐに正門に着いた。石の正門は四角と丸を組み合わせた模様で覆われている。
そこから木製の跳ね橋が降りていた。長いこと風雨にさらされて黒ずんでいる。それでも分厚い板が大きな金具で止められていて、まだしっかりとしている。歩いても問題なさそうだ。
俺は跳ね橋へと一歩踏み出した。
途端に、俺の方に歩いてくるデジモンが見えた。雨の中跳ね橋が上がるのが見えた。燃える城から悲鳴が。そんな断片的な光景が次々と重なって増えていく。
目に何十もの景色が飛び込んで
耳が張り裂けそうなほど大量の音が流れ込んで
あちこちを 時間だ
跳ね橋を 荒れ地のに 通すな
毎日 いい 聞いた
すぐ カタキは 街に 噂を ここを なんとしても 疲れた
城を 僕は デジモンが 攻めて 天気だ
目を閉じても耳をふさいでも止められない
上げろ だった
ただの もう 5年前には 街並みに いう 旅日和だ
立派な 進め そこだ
ない 見上げた
いると 今日も 絶好の なった
目の前の 異常は 行き交う
「信也!」
呼び声と腕をつかんできた手が、俺を混乱の渦から引きずり出した。
ラジオの波数が合うみたいに、五感がクリアになった。
僕は目の前の城を見上げた。青く晴れた空が、真っ白な壁を引き立てている。三本の塔の先は緑の丸い屋根になっている。まっすぐにそびえているそれを、僕は順番に、目を丸くしてながめた。
「ねえ、ほんとに、今日からここに住んでいいの?」
横にいるデジモンに、もう一回確かめる。中からはにぎやかな話し声や足音が聞こえてくる。
こんなすごい場所に住ませてもらえるなんて、冗談みたいだ。
背中を丸めたディノビーモンは、赤い目で優しく僕を見下ろした。
「本当だとも。君が前にいたところはずいぶん狭かったからな。それに君は、少し変わっている。住むところも少し変わっていたっていいだろう」
僕はくすりと笑った。ディノビーモンなりに、僕の緊張をほぐそうとしてくれている。大きな城を前に怖くなっていたのが、笑ったら落ち着いた。
ディノビーモンが僕の背中を押す。
「さあ、城のデジモン達に君を紹介しよう。君にぜひ会いたいと言っているヒトもいる」
俺は――神原信也だ。俺は、跳ね橋の上でうずくまっている。
その感覚を取り戻すのに、しばらくかかった。でもまだ、頭はぐらぐらするし吐きそうな気分だ。
「うぇ。『マトリックス』と『サザエさん』と『水戸黄門』を同時に見させられた気分……」
「信也、大丈夫?」
ノゾムが、つかんだままの俺の腕をゆすった。俺は空いてる方の手で汗をぬぐう。
「サンキュ。とりあえず落ち着いた。でも、何だったんだ今の」
言いながら顔を上げる。ノゾムの表情は硬い。でも、俺と違ってダメージを受けてはいない。
「今のは、この城に残っている記憶だと思う」
「どういうことだ、それ」
ノゾムの変な言い方に、俺は聞き返した。
「『ユウレイ現象』って呼ばれてるんだ。普通デジモンが死ぬと、デジタマになるデータ以外は細かいデジコードになって飛び散る。でもデジモンが死にきれない思いとか強い感情とかを持っていると、その記憶が土地に染みつくことがあるんだ」
「それが、さっきの幻ってわけ?」
ユウレイだけに化けて出たか。俺の予想通り、ノゾムが頷いた。
「僕も見るのは初めてだけど、ここまですさまじいのは聞いたことない」
俺は改めて辺りを見回した。フラッシュバックの嵐は去ったけど、まだ時々幻が現れては消える。色も薄いし、本当にユウレイみたいだ。
「この城が十闘士に滅ぼされた時のデジモンの怨念、ってとこか。これだけ大量に出たら、たまったもんじゃないな」
堀の底にデジタマがいくつも転がっている。きっと、前にこの城に来た遺跡荒らしだ。
来てすぐに幻に襲われて、その嵐に精神を押しつぶされ、正気を失って堀に落ちた。デジタマは始まりの町に旅立つこともなく、黒ずんでひびわれている。死んでも怨念から逃げられず、ここに縛られている。
光の城に行ったデジモンは誰一人帰ってこない。おっさんの話の正体はこれか。
俺もノゾムが呼んでくれなきゃ、同じ目にあっていた。ぞっとして腕をさする。
「ノゾムはユウレイに襲われずに済むんだな」
「そうみたい。多分、僕がここに住んでいたから。僕に関する記憶が強く引き寄せられて、他の記憶を押しのけているんだ」
「ってことは、やっぱりさっき見えたのは」
俺が言葉を切ると、ノゾムが嬉しそうに小さく笑った。
「僕が、初めてここに来た日。懐かしい感じがしたから、間違いない」
俺もにっと笑ってノゾムの肩をこづいた。
「やったな。ユウレイだらけの城に来たかいがあるじゃん」
ノゾムは微笑んだまま肩をすくめた。表情も柔らかいし、口数も多いし、ノゾムの調子がいい。俺も負けていられないな。
「こうなったら、もっと奥まで行ってみようぜ。俺もノゾムに触れてれば幻につぶされずに済むみたいだし」
ノゾムの手を左で握って立つ。念のため、デジヴァイスを出せるように自分の右手は空けておく。
「道案内頼むぜ、ノゾム」
「まだそこまで思い出したわけじゃないけど……気になる場所、色々行ってみる」
ノゾムが俺の先に立って歩き出す。
分厚い石の門をくぐると、前庭が広がっていた。目の前で道が二つに分かれて、円形を作っている。その周りを生垣や花壇がいろどっている。中心には黒い石の噴水。昔はきれいな庭園だったんだろう。
ただ、焼かれたりへし折られたり、戦いの跡が色濃く残っている。その跡も今は、雑草に覆われている。
円のつながった先には城内への入り口があった。扉は吹き飛ばされて、残骸だけが上の方にぶら下がっている。
風にきしんだ音を立てる残骸の下をくぐって、建物に足を踏み入れた。
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最初の滅茶苦茶な文章は、7,8文の文章を書いて、全部文節分けして、数字を振って乱数表で順序替えしました。読んでいて気分が悪くなる文章になっていたら成功です。星流自身は頭が痛くなりました。
あと、ネクストオーダーの新しいPV出てましたね。
解説の声って……鈴村さん、ですよね。
あの声で気さくにデジモンのこと話されると、耳が自動変換してしまって、もう、テンション上がって、心拍数上がって心臓痛いくらいで……。あうう、私って単純にできてるんだなあ(苦笑)
※フロ02ワールドマップ に光の城を追加しました。
今回初登場のデジモン