事情を聞いた輝二は、当たり前のように自分も行くと言った。
さっそく起き上がりバンダナを縛る輝二。それを見て、拓也が顔をしかめた。
「無理するなよ。まだ動ける体じゃないだろ」
「無理でも何でも行く。お前達が戦うのに俺だけ寝ている気はない。それに、ダスクモンが俺と同じ顔をしているというのも気になる」
「それ、言った覚えないんだけど」
拓也が大輔に視線を向ける。輝二に余計な心配をかけたくないから黙っていよう、と決めたはずだった。大輔は俺じゃない、と首を横に振った。
「ごめん、僕。輝二さんをだましてるみたいで、ガマンできなくて」
友樹が申し訳なさそうに右手を上げた。
大輔と拓也は顔を見合わせて、まあ仕方ないか、と苦笑した。純粋な友樹には無茶な約束だったのかもしれない。
「ところで、どうやってみなさんを元の世界に帰すかですが」
セラフィモンが話題を変える。
「最初にみなさんが来るのに使ったルートは潰れているようです。私が新しく人間世界にターミナルを形成してもいいのですが、時間がかかります」
「だったら、テレビの森から戻ろう」
テイルモンの提案に、ヒカリもうなずいた。
「そうね。私達のD-3ならあそこからゲートを開ける」
「よし! じゃあ準備ができたらすぐ出発だな」
「おうっ!」
大輔が言うと、ブイモンもこぶしを上げて答えた。
昼過ぎに一同は森のターミナルに移動した。セラフィモンの手配したトレイルモンが待っていてくれた。
トレイルモンに乗る直前、輝二はソーサリモンから布袋を押しつけられた。
「これは患部に塗る薬。こっちは痛み止めの飲み薬です。一日一回飲んでください」
「余計なお世話だ」
「傷を少しでも早く治したかったら指示通りにしてください。不調のまま戦って勝てると思っているのですか」
ソーサリモンの厳しい言葉に、輝二は渋々薬を受け取った。
行きは二日かかった道のりだったが、トレイルモンが飛ばすと半日もかからなかった。大輔達がお礼を言うと、汽笛を鳴らして去っていった。
時間は夜。適度な雲がかかり、森の木は既に明るく輝いていた。
「大輔、あれタケルの家じゃないか?」
ブイモンが一本の木を指さした。そこに映っているリビングには、確かに見覚えがあった。
「きっと光子郎さんのパソコンから見た景色だな」
「それにしちゃ、誰もいないみたいだけど」
純平が不思議そうに画面をのぞき込む。このデジタルワールドと現実世界のつながり方を考えると、向こうではあまり時間が経っていないはずだが。
「考えてても仕方ないだろ。大輔、ヒカリ、頼む」
拓也がD-3を持つ二人を見る。二人は頷いて、一歩前に出た。仲間が周りに集まったのを確認して、D-3をテレビに向ける。
テレビからまぶしい光があふれだし、全員を包み込んだ。
足の裏に、硬い床の感覚。見回すと、そこは高石家のリビングだった。
「無事に戻れたみたいね」
泉の言葉にうなずきながら、ヒカリが時計を見上げる。
「五時半……。私達が出発してから三時間くらい経ってる」
「ちょっと待ってくれよ。俺達が出発したのは六時なのに」
ヒカリの言葉に、純平が慌てて時計を見た。拓也も卓上カレンダーを見つけて目を見開く。
「七月!? 嘘だろ三ヶ月後じゃないか!」
真っ青になる拓也達を、大輔は混乱しながら見ていた。
「俺達がトレイルモンに乗ったのはほんの四日前だろ?」
「違う、四月の初めよ! まだ春休みだったんだもの」
泉が素早く言い返した。その横で純平がポケットを探る。
「携帯――あ、デジヴァイスになったから使えないや。大輔、近くに公衆電話あるか?」
「ああ、一階のコンビニのそばに」
「僕、うちに電話してくる!」
「俺も!」
「私も!」
大輔達が止める間もなく、拓也達五人は外に駆け出していった。
「……どうなってるんだ? おれたちも たくやたちも、おなじひに トレイルモンに のったのに」
チビモンが小首をかしげる。
その横でテイルモンがあごに手を当てる。
「無理に二つの世界をつなげたせいで、ずれた時間がつながってしまったんだろう。つまり、私達の世界の七月と泉達の世界の四月が」
「そういやみんな春服だったな」
今さらながら大輔は納得した。
と、大輔とヒカリのポケットで同時に着信音がした。
D-ターミナルを取り出し、開く。光子郎からメールが来ていた。
『この世界に戻ってきたら着信するだろうと思い送信しておきます。竹芝ふ頭で怪物が暴れているというニュースがありました。映像からしてデジモンに間違いありません。先に向かっています。 追伸:机の上に玄関の鍵を置きました』
「デジモンが暴れてる?」
大輔とヒカリは顔を見合わせた。チビモンがテレビに近寄ってスイッチを入れた。
『――お伝えしています通り、現在竹芝の海に謎の怪物が出現し、怪物同士の戦闘が行われています。周辺住民はすみやかに避難し、現場には近づかないようにしてください。なお、この事件の影響でゆりかもめは上下線ともに運転を見合わせ――』
大輔達の視線は画面にくぎ付けになった。橋よりも背の高い、悪魔ともイカともつかないデジモンが映っている。その周りには、イッカクモンやサブマリモンらしき姿も見える。
「よし、俺達も行こう!」
大輔がこぶしを握ると、全員がうなずいた。
玄関に鍵をかけ、エレベータに乗り込む。
「私、光子郎さんに戻ってきましたってメールしておく」
ヒカリがD-ターミナルで手早く文面を打ちこんだ。
マンションを出て、コンビニ――アイマートの方に回る。
公衆電話の前では、拓也達が戸惑った様子で言葉を交わしていた。
「家族と連絡ついたか?」
大輔が聞くと、輝二があいまいにうなずいた。
「ついたことはついたんだが。俺達が行方不明になっていた様子がないんだ」
「どういうことだ?」
大輔がぽかんとして聞き返す。三か月行方不明になっていたんじゃないのか。
純平も腕を組む。
「うちの親なんか、『塾が終わったなら寄り道しないで帰ってこい』だってさ。まるで今日が、俺達が出発した日みたいだ」
「俺んちも。信也が――弟が、『早くしないとケーキ食べちゃうよ』って。確かに俺が出発したのは弟の誕生日だった」
拓也にも言われて、大輔は頭がこんがらがってきた。
「これも無理やり世界がつながってる影響か……。全く、ただでさえデジモンが現実世界に出てるってのに」
「デジモンが!? どこに!?」
泉が驚いて聞いてきた。そうだ。ずれた時間の事は気になるが、今は戦ってるデジモンをなんとかしないと。
「竹芝でデジモンが暴れてるんだ。俺達の仲間が戦ってるらしい」
「私達はそっちに行くけど、泉ちゃん達はどうする?」
ヒカリが聞くと、泉は少し考えて顔を上げた。
「一緒に行くわ。ここで考えててもしょうがないし」
「うん! 僕達も手伝うよ!」
友樹も元気よく返事をする。拓也、輝二、純平も力強い目で答えてくれた。
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時間のずれは、のちのち光子郎さん辺りが解説してくれるので、こんな現象が起きているらしい、ということだけ覚えておいてもらえれば結構です。自分で書いてて複雑だと思いますし(汗)
ふ頭到着までやるつもりだったんですが、星流あるあるでたどり着きませんでした……。次回こそ戦闘です。