ギガスモンの体が、ゆっくりと前に崩れ落ちた。同時に、切られたデジコードが光の粒になって飛び散った。白いデジタマすら残らなかった。
その光景だけで、大輔達が青ざめ、身構えるには十分だった。
背の高い、人型のデジモンだった。頭から爪先まで、黒い鎧を身につけている。最も気味が悪いのは、そのあちこちでぎょろつく目だ。両肩、両膝、両足、胸に赤い目が配されている。それが顔とは別に絶えず周囲を見張っているのだ。
「この世界なら、その場でデジタマに戻るのに……」
「何てことしやがるんだ!」
ヒカリのか細い声に、大輔の怒りの言葉がかぶさる。
デジモンの顔が、つと大輔に向いた。
「こいつだけはあの場を離れていて生き延びた。つまり、先程まで命を長らえていただけだ」
「ケルビモンの陣営を襲ったのはお前か」
マグナモンの問いには軽くあごを上げて答えに代えた。その態度に、アグニモンがこぶしを握りしめる。
「ボコモンやネーモン、輝二達を襲ったのもお前のしわざか!」
「そうだ」
デジモンは迷わず肯定した。泉が気力を込め、きっとにらみつける。
「どうしてそんなことを! あなた、ケルビモンを襲ったんでしょ!? ケルビモンの敵なんじゃないの!?」
「敵かどうかではない。俺はただ、物語のゆがみを修正しうる存在を消去している」返事は抽象的で、子ども達には理解できなかった。
ネフェルティモンだけが、言葉の端から意味を読み取った。
「ゆがみ……そうか、二つの世界が重なり出したことと、拓也の仲間への襲撃はつながっているんだ。拓也の仲間やケルビモン達が世界を重ねる中で邪魔になると考えて、襲ったのか」
「察しがいいな」
ネフェルティモンの推測に、短い言葉が返ってくる。
「何でそこまでして。お前たち誰だ! どうしてこんなことしてるんだよ!」
大輔の声に、デジモンは目を細めた。笑っているようだった。
「俺の名はダスクモン。デーモン様の命で動いている。一連の事件のおおもとの原因は、本宮大輔、お前がかつてデーモン様を封印したことにある」
「…………へ? 俺?」
気合十分に聞いたはずが、大輔はぽかんと口を開けてしまった。
自分が原因だと言われても、デーモンだの封印だの、全然全く、そりゃもうこれっぽっちも記憶にない。
念のためパートナーにも視線を送ってみるが、「誰だろう?」と首を傾げられた。
「ここでお前に言っても、身に覚えがないだろうがな」
ダスクモンに図星を指されて、大輔は無駄に悔しくなった。
「ったくもう! 俺にも分かるように説明しろっ!」
大輔が改めて声を上げると、マグナモンも敵に向かって構えた。
ダスクモンは目を細めたまま、両手の紅い剣を上げる。
「それは力ずくで、という意味か? いいだろう」
「大輔、みんな、ここは俺に任せて」
マグナモンの言葉に、アグニモンは仲間を見回した。
アグニモンやネフェルティモン、泉はグロットモンとの戦いで消耗している。この状態で未知の敵にぶつかるのは危険だ。ここはマグナモンに託した方がいいだろう。
「分かった」
「頼むぜ、マグナモン!」
アグニモンと大輔の声を背に、マグナモンは宙を蹴って飛んだ。
初手のこぶしは剣でいなされた。空振りになり、バランスを崩す。
その腕にもう一方の剣が振り下ろされた。
甲高い金属音が響いた。
「くっ」
弾け飛んだのはダスクモンの剣の方だった。マグナモンの籠手には傷一つついていない。
一度距離を取ったダスクモンが、籠手と剣とを見比べる。
「なんという硬さだ」
「当然だ。この鎧はクロンデジゾイド。並大抵の攻撃は通じない!」
「ならばこれでどうだ!」
今度はダスクモンの方から接近してきた。振り下ろされた剣を、黄金の籠手を掲げて受け止める。キン、という音と共に剣はたやすく止められた。
だがその直後、紅い剣が鈍く光った。
「《エアオーベルング》!」
剣に触れていた籠手がひび割れ、砕けた。
「何!?」
動揺するマグナモンに、二振りの剣が迫る。
「くっ、《プラズマシュート》!」
マグナモンは至近距離でミサイルを放ち、それを弾き返した。
地面に落ちた籠手に、素早く目をやる。黄金の色がくすんで石のようになっている。
「クロンデジゾイドの強度が奪われた!?」
「何なんだ今の!」
離れた場所で、大輔も目を丸くしている。
ネフェルティモンが、敵の剣に視線をやった。
「あの剣よ。今の技で鎧の力を吸収したんだ」
ネフェルティモンの言葉通り、籠手に触れていた方の剣が黄金色に変化している。クロンデジゾイドの強度自体を吸収したらしい。
こうなると、剣に触れられたらアウトだ。こちらの防御力を奪われ、あちらの攻撃力が増してしまう。
遠距離攻撃で、一気にかたをつけるしかない。
マグナモンは一瞬目をやって、仲間の居場所を確かめた。みんながいるのは離れた森の中。あれだけ距離があれば、全力を出しても大丈夫だ。
キメラモンとの戦いで初めて進化した時。あの時はワームモンの力をもらって《エクストリーム・ジハード》を放つことができた。本物のデジメンタルを得た今、あれ以上の力が体に宿っているのが分かる。
接近してくるダスクモンをまっすぐに見つめて、マグナモンは全身に力を込めた。全身が黄金色のオーラに輝く。
「《シャイニングゴールド……ソーラーストーム》!」
レーザー光の旋風が敵に向かって放たれる。
ダスクモンはとっさに両手の剣をクロスさせ、身を守ろうとした。二振りの剣は、レーザーに焼かれて根元から折れる。
マグナモンのオーラが消える頃には、敵はデジコードを浮かび上がらせ、仰向けに倒れていた。
「やったなマグナモン!」
大輔達が駆け寄ってくる。マグナモンも片手を上げてそれに応えた。
「アグニモン、スキャンを頼む」
「ああ」
アグニモンがデジヴァイスを持って進み出る。
と、その前にダスクモンの全身がデジコードに包まれた。思いがけない現象に、アグニモンが足を止める。
デジコードが消えると、そこには人間の少年が横たわっていた。その顔を見て、大輔とマグナモン、アグニモン、泉が息をのんだ。
「輝、二……!?」
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遅くなりましてすみません。忙しいのと暑いのと、今回の展開が複雑なのとで時間がかかってしまいました。ともかく、やっと出せました(*^-^*)そして戦闘を書くのが楽しくて長くなって、予定していた展開までたどりつきませんでした(キリッ←
読み手のみなさんには、大輔達より先回りしてあれこれ想像していただければ幸いです。