「ああ、確かに友樹とか純平とかいう名前だったよ」
トレイルモンのケトルは、拓也の質問に頷いた。黄色いアヒルのような顔が上下に動く。
「じゃあ、二人の行き先は? あなたが乗せていったんでしょう?」
泉が聞くと、ケトルが線路の先を見る。
「森のターミナルまで行きたいって言ったからそこまで乗せてったよ。そこのお店まで食材を届ける用事があったからね。代わりに積み下ろしを手伝うって約束で」
「デジヴァイスに通信してきた声が言っていた場所か。あいつら、まだそこを目指してたんだ」
大輔も記憶を掘り起こした。大輔や拓也は紋章のことやら仲間を探すやらでターミナルどころではなくなっていたが、二人の旅の目的は変わっていないようだ。
「同じ場所を目指して動けば、また仲間に会える。そう思っているのかも」
「そうだな。きっと純平の考えだ」
テイルモンが想像すると、拓也も賛成した。
二人の行き先が分かったのなら、次にとるべき行動は一つ。
「なあ、俺達も森のターミナルまで乗せてってくれよ!」
ブイモンが元気よく頼む。ケトルは全員を見回して、あからさまに嫌そうな顔をした。
「え~、二人だけならともかく六人も? そんなに乗せたら重量オーバーだよ」
「そこを何とかできない?」
「ダメ。こっちだって仕事でやってるんだ。運行スケジュールに遅れが出たらどうしてくれるのさ」
ヒカリが手を合わせても、ケトルはそっぽを向くばかり。
大輔は頬をぴくぴくさせた。
「こいつ……ヒカリちゃんがお願いしてるっていうのに!」
「まあまあ大輔。俺とテイルモンがアーマー進化して走ればいいよ」
ブイモンがパートナーをなだめた。
「トレイルモンほど長時間は走れないけど。拓也と泉は先に行ってもらって、俺達は紋章を探しながら行こうぜ」
「うーん、仕方ないか。二人だけなら乗せてくれるみたいだし」
お互いの旅の第一の目的も違っているわけだし。大輔はケトルに乗るのをあきらめた。
「それじゃあ、先に行ってるよ」
「俺達も後を追う。友樹達のこと調べといてくれ!」
「大輔に言われなくても!」
拓也達が手を振り、遠く離れていく。それが地平線の向こうに小さくなったところで、大輔達も振っていた手を下ろした。
ブイモンがこぶしを握り気合いを入れる。
「よし、じゃあ俺達も行こうぜ!」
「デジメンタル・アップ!」
「ブイモン、アーマー進化!」
「轟く友情、ライドラモン!」
「デジメンタル・アップ!」
「テイルモン、アーマー進化!」
「微笑みの光、ネフェルティモン!」
大輔はライドラモンの背に乗った。反応があればすぐ分かるように、タグを服の外に出す。
「私とネフェルティモンは、空から怪しい場所がないか探すね」
「ああ、頼む!」
大輔が答えてすぐ、ネフェルティモンが空に舞い上がる。ライドラモンはいつもより少し遅く、ジョギングくらいの速さで走り出した。
―――
一日目は収穫なし。日が落ちてきたところで古い物置小屋を見つけ、そこで夜を過ごすことにした。
拓也や泉なしで過ごす野宿。小屋の前で、たった四人でたき火を囲む。食事を済ませてしまうと、静かな時間が訪れる。
話題を探して、大輔はヒカリに話しかけた。
「太一さん達、今頃どうしてるかな」
「こっちと向こうじゃ時間の流れが違うみたいだから、まだ私達が出発して一日も経ってないんじゃない」
「あ、そっか。俺が前にこっちに来た時も、戻ったらほとんど時間経ってなかったっけ」
ヒカリに言われて、大輔も気づく。一日どころか半日だって過ぎてないかもしれない。
「世界を混ぜて、作り変えようとしてる敵、だっけ? そいつがお台場に何かする前に帰らないとな!」
ブイモンが元気に言うと、テイルモンは逆に厳しい顔になった。
「姿も見せない、名前も分からない敵。一体何者なのだろう」
テイルモンの言う通りだ。その敵がいる、という証拠は世界が混じりだしていることと、それが自然現象ではないというゲンナイの言葉だけ。
「そんなことしそうな奴、誰か心当たりないか?」
大輔が聞いてみても、テイルモンは首を横に振る。
「凶悪なデジモンなら何体も見てきたが、そいつらは私達が全て倒した」
「だよなあ。デジモンカイザーだってもういない。っていうか俺達を手伝ってくれてるし」
ブイモンが腕組みする。
そんな中、ヒカリは黙ったまま。体育座りをして、たき火に目を落としている。
「ヒカリちゃん? どうかしたのか?」
大輔が聞くと、ヒカリは怯えたような表情を見せた。膝を強く抱き寄せる。
「……私、会ったかもしれない」
「会った?」
「敵にか!?」
大輔とブイモンが驚き、立て続けに聞く。ヒカリは首を横に振った。
「分からない。本当にあれが今回の敵だったのか。でも、渋谷駅で会ったあの子から、すごく怖い気配を感じた」
「渋谷。そういえば太一と二人で出かけた日があったな。ちょうど大輔や拓也がトレイルモンに乗った日だ」
「ヒカリちゃんも渋谷にいたの!?」
大輔には初耳だった。自分のことで精一杯で、あの日ヒカリがどこにいたのかなんて気にしてもいなかった。
ヒカリはこくりと頷く。
「もしかしたら、とは思ってたんだけど、自信なかったから言わないでいたの。同い年くらいの男の子だった。帽子をかぶってたから、顔は一瞬見えただけだけど」
その時のことを思い出して、ヒカリは体を震わせる。
「目が合った時に、その目の中に暗い何かを感じたの。今にも飲み込まれそうで……お兄ちゃんが支えてくれなかったら、立っていられなかった」
そう言いながらも泣きそうで、今にも倒れてしまいそうだ。
「ヒカリちゃん!」
大輔はヒカリの両肩をつかんだ。ヒカリがびくっとして、恐る恐る大輔を見上げる。
「どんだけ怖い奴が来ても、俺がヒカリちゃんを守り切ってみせる。だから心配しなくていい」
「大輔、くん……」
ヒカリはつぶやいてから、肩に置かれた手を見た。
そこではっとして、大輔は慌てて手を引く。
「あ、ご、ごめん! ヒカリちゃんがあんまり震えてるから、その」
あたふたする大輔の両腕を、今度はヒカリが握る。握ったまま、頭を伏せる。
「いいの……ありがとう」
小さいけれど暖かい声がこぼれる。
ヒカリの震えが止まるまで、そうして動かずにいた。
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星流は普段の言動はあんななのに、こういう展開書くの超苦手なんですぜ。この程度でも書いてるだけでメンタルがっ! はずい!
そういう系が好きな人はあまり星流の書く話に期待しない方がいいと思います、うん(←必死のハードル下げ)