ユニモンを待っているうちに、レッパモンが遅めの朝食を運んで来てくれた。クロワッサンにベーコンエッグ。急ぎで簡単なものしか用意できなくて、とレッパモンは恐縮したけど、柔らかくておいしかった。
俺達が食べ終える頃に、ユニモンが一人で戻ってきた。輝二と俺はすぐさま立ち上がる。
「どうだった、結果は?」
「もう少しかかるので待っててほしいそうです」
そう答えてからユニモンは机の空いた皿を見た。
「ところで、僕の朝ごはんはどこですか?」
クロワッサン20個とベーコンエッグが6皿消えた頃、ようやくトゥルイエモンから呼び出された。満足気のユニモンを連れて、俺達はトゥルイエモンの書斎へ向かう。
以前は書斎とは名ばかりの物のない部屋だったけど、今はデジコード球の並べられた棚や書類の積み上がった机など調査設備が整えられている。トゥルイエモンは机で広げたデジコードを見ていたが、俺達が入ると立ち上がった。
「待たせたな。ユニモンのデータを調べて、予測に確信を持てた」
「それで、何が分かったんだ?」
この城に来て最初に聞いたことを、もう一度問い直す。
「十二神族の世界が滅びた原因。ひいてはユピテルモンが私達の世界に侵攻してきた本当の狙いだ」
ユニモンの体がこわばった。
「僕達の世界が滅びた原因なら、ユピテルモンによってとっくに明らかになっています。究極まで高められた十二神族の肉体データが世界のデジコードに負担を与え、崩壊させているって。実際に、十二神族がよく行く場所ほど、早くに崩壊しました」
何度も噛みしめてきた事実だったのだろう、すらすらと言葉が出てくる。その口の動きが、止まった。
「……嘘だったのか」
動けないユニモンに代わって、輝二が聞く。トゥルイエモンがユニモンから目をそらすのは、せめてもの優しさ。
「今まで十二神族が侵攻してきた場所の土地データを調べたが、肉体データの重量による土地の破壊は見られなかった。十二神族の体格や強さから考えても、肉体データ量はかつての三大天使と同程度。一般のデジモンに比べれば圧倒的に多いが、それによって土地が崩壊することはない」
「じゃあ、本当の原因は?」
俺の問いに、トゥルイエモンが机に広げたデジコードを指し示す。
「ユニモンから取り出した肉体データのサンプルだ。虫眼鏡を当ててある部分をよく見てみろ」
言われたとおりに机に近づき、虫眼鏡をのぞく。普通のデジコードと変わりないように見えるけど。
いや、少しだけ違う。細かくて分かりづらいけど、数本のデジコードが小刻みに揺れ動いている。テレビの砂嵐のような、寄り集まった微生物のような、そんな動き。
輝二に虫眼鏡を譲り、俺は顔を上げる。
「この小さいデータは一体?」
「私は便宜的に『ウイルス』と呼んでいる。単純な電気信号で構成された疑似生命体だ。デジコードの中に巧妙に組み込まれている」
「これが土地データを破壊した犯人か」
「そうだ。こいつは肉体データに対しては無害だが、土地データに付着するとそれを破壊するようプログラムされている。組み込まれたデジモンはこのウイルスをばらまく苗床にされていたわけだ。肉体データ量の多いデジモン相手なら、ウイルスもより多く仕込めるだろう」
「まだ僕の体の中にあるんですか」
ユニモンがようやく、震え声を漏らした。
「陸や海を壊して、沢山のデジモンを巻き込んだそれが、まだ僕の中にいるんですか!?」
ユニモンがひづめで、もう一方の足をせわしなくかきむしる。自分の知らない生き物が体の中にいると言われて、うごめいていると聞いたら、落ち着けるわけがない。
トゥルイエモンが素早くユニモンに近づいて、その足をつかんだ。ユニモンの目を見て、静かに言う。
「安心しろ。君に組み込まれていたウイルスは先程の検査で全て取り除いた。もう、君の歩いた地面が崩壊する危険はない」
ユニモンの足から力が抜けた。その場に弱々しく座り込む。
独り言のように言葉がこぼれる。
「思い当たることがあります。崩壊現象が起き始めた時、十二神族とそれに関わる全員が検査を受けたんです。原因を調べるという名目で、ユピテルモンが指示したものです。最初にユピテルモンがウイルスを撒いて、十二神族を検査する理由を作ったんでしょう。そしてウイルスを埋め込んだ。……後は、僕達が勝手に、ウイルスをばらまいて、崩壊を、早めて」
最後は苦しそうで、言葉にならなかった。うなだれるユニモンをそっとして、トゥルイエモンが立ち上がる。
「ユニモン達には辛い事実だが、彼らの世界の崩壊は事故ではない。ユピテルモンが意図的に起こしたことだ」
「何でそんなことを」
輝二がこぶしを握りしめる。トゥルイエモンは首を横に振った。
「それはユピテルモンに直接聞くしかあるまい。だがそれに関して、もう一つ分かったことがある。このウイルスは、私達の世界の土地データには大して被害を及ぼさないということだ」
「でも、マルスモンの時には周りの土地データが変化してた」
「だが一時的なものだった。あそこのデータも調べてみたが、侵食はわずかだった。恐らく、二つの世界では土地データの組成が異なるのだろう」
人間にも病気になりやすい人とそうでない人がいるように、俺達の世界の土地データはウイルスに強い仕組みになっている、ということか。
「ユピテルモンが世界を壊した張本人なら、世界を救うために十闘士の世界を襲う、という理由づけも嘘になる。俺達の世界もウイルスで壊そうとしたが、上手くいかなかったのか?」
「恐らくそうだろう」
輝二の推測に、トゥルイエモンも賛成した。
「理由は不明だが、ユピテルモンは十二神族と十闘士の世界、双方を破壊しようとしている。だが、ウイルスは期待した効果を上げていない」
だとしたら、ユピテルモンは次にどう出る?
考える俺の脳裏に、アポロモンの言葉が蘇った。
『ユピテルモンは二人目の炎の闘士にひどく興味を抱いているようでした』
「まさか、信也を使う気か?」
輝二とトゥルイエモンが俺を見た。
「信也……スピリットの構成データさえエネルギーに変えてしまう特性、だったか。確かに上手く使えば莫大な力を発揮させられるかもしれないな」
「だが、それはスピリットを持っていたらの話だ。今の信也はスピリットを持っていない。ユピテルモンが与えるとしても、あのひねくれ者のことだ、敵の与える力など受け取るはずがない」
二人の言う通りだ。信也は敵のくれるものを受け取ったりしない。いくら力を失って絶望していても、信也のプライドはそこまで落ちたりしない。
ユノモンに調査させて、ユピテルモンもそれは知っているはずだ。
だとしたら、なぜまだ興味を持つ? 秘策でもあるのか? それとなく信也に力を与えられるような?
「もしかすると、信也に与える力はスピリットの形をしていないのかもしれない」
トゥルイエモンの言葉に、俺は眉根を寄せた。
「どういう意味だ?」
「考えてもみろ。スピリットは元々古代十闘士のデータだ。生きたデジモンだった。デジヴァイスに直接取り込まずとも、外部からデータを送り込めるようなスピリットを作り、それをデジモンに埋め込めば……」
俺もその状況を想像する。パッと見はただの生き物。でも、そばにいることで信也のデジヴァイスにデータを送り込み、進化できる力を与えられる。
そんなデジモンが作れれば、信也に怪しまれずに近づける。
輝二がデジヴァイスをポケットから出した。
「拓也が信也を探しに行ってる。今の話をすぐに伝える」
その「力」と信也が接触する前に、間に合うといいけど。
信也が行方不明になってから一週間以上経っている。
既にユピテルモンは手を打っているはずだ。
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情報山盛りになってしまいました(汗)皆様、上手く飲み込めましたでしょうか……。
メタな言い方をすれば、人間に力を与えられるデジモン(あるいはそれに類する何か)と思ってください。
普通のパートナー制の立場逆転です。
ここ訳分かんねえよって部分があったらどうぞツッコんでください。修正します。
どうにも星流は伏線の撒き方と回収の仕方が下手で……。精進せねばっ。