お正月特別編 羊毛捕獲大作戦! | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

「星流の二番目のたな」をお読みくださっている皆様! 改めまして、あけましておめでとうございます!

本年も『デジモンフロンティア02~神話へのキセキ~』と『デジモンユナイト』をご愛読のほど、よろしくお願いします!


何とか松が明ける前に間に合いましたね(苦笑)今年は去年よりか余裕がある予定だったんですが……空いた時間は泥のように眠って疲労をいやしていました。早めに書いておけばいい話なんですけど、時間に余裕があるならできるだけ本編の更新に回したいとも思うし。悩みどころです。


さて、2015年の主役は羊さんですね。というわけでお正月恒例のカオス展開をどうぞ!





―――





「シープモンの羊毛枕ぁ?」

 俺の拍子抜けした言葉に、友樹が真面目な顔で頷いた。

「それが、エンジェモンからの頼まれごとなのか?」

「うん、僕と信也にお願いしたいって」

 オリンポス十二神族と戦ってる真っ最中だっていうのに、なんでそんなこと頼まれるんだよ。

 俺があからさまにぽかんとしているのを見て、友樹が詳しく説明してくれた。

「このお城のワーガルルモンは毎年今頃になると、シープモンの群れの所に行くんだって。それで、シープモンの羊毛を刈り取って、それを城中の枕に詰めるんだ。でも、この戦いでワーガルルモンはケガをしちゃって、とても羊毛刈りにはいけないって」

「それで、俺達に行けと?」

「シープモンの枕はぐっすり眠れて、疲れも取れるスーパー枕なんだ。でも、効き目が一年しかもたない。戦いで疲れたデジモン達のためにも、絶対必要なんだよ!」

 友樹が熱いこぶしで机を叩いた。……なんか、妙に気合入ってないか?

 俺は若干体を引きながら、もう一つ聞く。

「で、でもさ。羊の毛を刈るだけなら、他のデジモンでもいいんじゃないか? 何も主戦力の俺達が行かなくても」

 俺が言い終わる前に、友樹が俺の腕をつかんだ。

「エンジェモンによると、シープモンには並みのデジモンじゃ近寄れない。その毛を刈るには速度と技術力が必要らしいんだ」

 ……シープモンって羊だよな? 羊ってそんなにヤバい生き物だったっけか?

 とにかく、詳しくは着いたら話すから! と言われて、俺は訳も分からずトレイルモンに乗せられた。


 木のエリアの奥、レールの途切れる果ての地でトレイルモンは止まった。同じ森の中と言っても、城の辺りと違って草も木々も鬱蒼としている。

「本当にこんなところに羊がいるのか?」

「シープモンがいるのはこの上だって」

 友樹が地図と見比べ、目の前に見える崖を指さす。その高さ約二階分……待て、これをよじ登れと?

 友樹が俺の肩をぽんと叩いた。

「信也、よろしく」

 ヴリトラモンおれはタクシーかよっ!


 友樹を抱えて、俺は崖のふちまで上がった。茂みに隠れる位置で進化を解く。崖の上は広い草原になっていた。俺達の膝くらいまである草の向こうに、ピンクのもこもこ軍団が見える。背中に二連のバズーカを備え、頭にくるんと巻いた赤い角を持つ羊達だ。顔も愛嬌がある。危険な雰囲気なんかかけらもなく、のたっ、のたっとした動きで歩き、草を食べている。

 その数、一匹二匹、三匹、四ひ、……。




「信也、起きてったら! 信也!」

 頬を何度も叩かれて、俺はようやく重いまぶたを開けた。何だよ、せっかく寝てたのに。って、俺何してたんだっけ?

 寝ぼけた頭が少しずつ回るようになって、やっと羊毛刈りに来ていたことを思い出す。群れに目を向けかけると、友樹が俺の頭をつかんでぐいと向きを戻した。(首が変な音を立てたような気がする)

 友樹が真面目な顔で忠告してくる。

「シープモンの群れを長い間見ないで。動きにつられて眠くなるから。僕らの前にもグレイドモンってデジモンが刈りに来たらしいんだけど、シープモンの動きを見極めようとして、三日三晩ここで寝た挙げ句、雨に降られて『デジフルエンザ』にかかったらしいよ」

 友樹の真実味のある声に、頬を汗が一筋流れる。シープモン、なんて手ごわい相手なんだ……。

 今度は注意深く、横目で群れを見る。

「見ちゃダメなら、どうやってあいつらの毛を刈るんだ?」

「ワーガルルモンは、群れからはぐれた奴を狙えって」

 俺は群れの周囲をそれとなく見る。なるほど、群れから離れた場所で草を食うはぐれシープモンが何体かいる。あれ単体なら動きを見ても眠くならない。逃げられないよう茂みに隠れ、足音を忍ばせて近づく。右手をポケットに伸ばし、バリカンをつかみとる。

「でええい!」

 茂みから飛び出すと同時に、足払いをかける! 油断していたはぐれシープモンはあっさり横向きに倒れ込んだ。その足を抑え込み、バリカンを起動!

「《ウールグレネード》!」

 背中のバズーカが俺を向き、桃色毛玉を打ち出す。

 が、俺は上体を大きく反らしてそれを避けた。ふっ、見たか俺のマトリックス避け!

 バリカンを握りしめ、いよいよ毛を刈るべく体を起こす。

 その視界に入ったのは、俺目がけて走りくる怒涛どとうの羊達。さっきののろい動きとはけた違いの速度。全てのバズーカが俺をロックオン。

「《ウールグレネード》!」

「《ウールグレネード》!」

「《ウールグレネード》!」

「《ウールグレネード》!」

「《ウールグレネード》!」

「《ウールグレネード》!」

「《ウールグレネード》!」

「《ウールグレネード》!」

「《ウールグレネード》!」

「《ウールグレネード》!」

「《ウールグレネード》!」

「《ウールグレネード》!」

「《ウールグレネード》!」

「《ウールグレネード》!

「《ウールグレネード》

「《ウールグレネード

「《ウールグレネー

「《ウールグレネ

「《ウールグレ

「《ウールグ

「《ウール

「《ウー

「《ウ

「《




「信也、起きろって! 信也っ!」

 頬を盛大にひっぱたかれて、俺はようやく重いまぶたを開けた。頬がじんじんする。
「えっと俺は、何をしに」

 言いかけたところで友樹が再び平手を振り上げ、俺は慌ててさっきのことを思い出した。

「言われた通りにやったけどダメだったぜ。なんだよあの羊の大群」

「確かに動きは良かったけど、遅すぎたんだ」

 友樹が真剣な顔で批評する。

「シープモンの群れは一匹の危険に気づくと一斉に襲いかかる習性があるんだ。グレイドモンの後にカラテンモンってデジモンが刈りに来たらしいんだけど、得意の先読みを上回る弾幕を張られて、その場で昏睡。三日三晩寝た挙げ句、『デジふく風邪』にかかったらしいよ」

 友樹の真実味のある声に、頬を汗が二筋流れる。シープモン、なんて恐ろしい相手なんだ……。

 こんな相手と毎年戦っていたワーガルルモンは十闘士を超える猛者じゃないのか。

 いや、ここで諦めるわけにはいかない。十闘士としての名誉を守るためにも、必ず羊毛を持ち帰る!

 膝を叩いて気合いを入れる。

「友樹、他にも何か情報ないか? ワーガルルモン以外に羊毛を持って帰れた奴は?」

「カラテンモンの後に来たゲコモンが枕二つ分だけ持って帰れたらしいよ。シープモンの性質を逆に利用して、子守唄で眠らせたんだって。それでも途中で他のシープモンに見つかって、命からがら帰ってきたんだ」

 子守唄、か……。俺と友樹には向いてないな。

 アグニモンもフェアリモンに比べたら早く動けるデジモンじゃないし。ん?

「そうだ、氷と炎の合わせ技でいかないか? つまり、チャックモンの力で、群れを凍らせて、アグニモンが溶かしながら羊毛を。って、さすがに無理か」

 いくら友樹が氷の闘士になっても、群れ全部を一気に凍らせるほどの範囲技はない。何度も分けて凍らせてたら、残ったシープモンに攻撃されてしまう。

 もう少し、他に手を考えないと。


 突然友樹が立ち上がった。こぶしを握り、妙に気合いの入った……いや、すわった目をしている。

「分かった。僕に任せといて!」

「待てって、チャックモンの《カチコチコッチン》でも数体が限界だろ! ダブルスピリットのフロストモンも自分のそばに冷気をためるタイプだし」

「信也、デジヴァイスの中に土のスピリットと進化補助プログラム入ってるよね?」

「え? あ、ああ」

 訳が分からないながらも頷く。

「じゃあ貸して。木のスピリットの補助でフロストモンになれるなら、土のスピリットの補助でもっと別のデジモンになれるかもしれない! というかなれる! そんな気がする!」

「お前何か変な電波受信してないか!?」

 ドン引きながらも、気迫に押されて手がデジヴァイスに伸びる。土のスピリットと進化補助プログラムが友樹のデジヴァイスに送り込まれた。

 友樹の左手に何輪ものデジコードが浮かぶ。


「ダブルスピリット・エボリューション!」

「――――――!」




 友樹が進化したその姿を、俺は記憶から抹消している。

 覚えているのは、ヴリトラモンをはるかに超える巨体と、それが暴れまわりシープモンの群れを冷凍したことだけだ。

 俺はその陰でアグニモンに進化し、シープモンを解凍しながら毛を刈っていたから。

 そう、作業に集中していたんだ。親友の衝撃的な暴走を必死に現在進行形で抹消し続けながら……。




「おお、これだけあれば城中の枕が詰め替えられる!」

 俺達が城に帰ると、松葉杖をついた二足の狼デジモンが出迎えてくれた。これが噂の枕職人ワーガルルモンか。

 ワーガルルモンは杖を器用に使って、トレイルモンの貨物車に近寄った。そこには二両分いっぱいに羊毛が積まれている。

 ワーガルルモンが満面の笑みで俺達に振り向いた。

「戦闘を見てても大した奴らだと思ってたが、まさかシープモンの群れとさえ戦えるとはな! 一体どうやったんだ?」

「十闘士の企業秘密です」

 無邪気に笑って答える友樹。

 それを見て、俺は「二度と土のスピリットを渡さない」と決心した。




―――




フロストモン初進化以降、ユノモン戦以前のどこかの時系列です。

最強の羊を書くはずが、気づいたらもっとトンデモナイ何かが降臨する羽目になりました。