世界を移動するのは一瞬だ。辺りが真っ白になったかと思えば、すぐに目の前に新しい世界が迫る。
だが、焦って飛び込んだ後だと――。
「うわああっ!」
大輔とチビモンは飛び出した拍子にバランスを崩し、その場の物を巻き込みながら倒れ込んだ。悲鳴と倒れる音がごたまぜになって響く。
「大輔さん、どいてください……!」
下から声がして、見ればイスごと伊織を押しつぶしていた。すぐさま起き上がろうとして、ウパモンに引っかかってまたずっこける。
「もう! さっき慌てて出てったと思ったら今度はパソコンから出てきて。あんたいつの間にデジタルワールドに戻ってたの?」
今度は頭上から声が聞こえて、そちらを見上げて。
チビモンと顔を見合わせて。
もう一度声の主を、目をまん丸くして見た。
どう見ても京だ。井ノ上京、小学6年生。
大輔は床に座っている伊織に目を戻した。
「さっきお前達以外は死んだって言ってなかったか?」
聞かれた伊織はぽかんとして、京が目を吊り上げる。
「人を勝手に殺さないでよっ! 私ならこの通り、ぴんぴんしてるわよ!」
「そうでしゅよ、みやこさんはころしたってしぬような人じゃありません」
「ポロモン、それフォローになってないんだけどー!?」
京はすかさずポロモンを捕まえて、両手でぐにぐに引き伸ばす。なるほど、本人の言う通り元気そうだ。
大輔は立ち上がって、窓の外を見た。日差しを受けて輝く海に、緑の葉を茂らせる街路樹。絶え間なく走っていく車の列。平和なお台場の景色が広がっていた。それこそ、さっき見た光景が夢だったかのように。
チビモンも大輔の肩に乗って、目を点にした。
「さっきの、ゆめ?」
考えてた通りの事を言われ、二人で顔を見合わせる。
「二人そろって同じ夢、か?」
大輔が聞き返すと、チビモンはうーんと首を傾げる。
その横から伊織が迫ってきた。
「夢でも見た気分なのはこっちですよ。飛び出してった時から変です。一体どうしたんですか?」
「俺にも何が何だか。なあ、俺が出てってからどれくらい経ったんだ?」
不思議そうな顔をしながら伊織が部屋の時計を見る。
「今5時25分ですから、20分くらいです」
1か月旅をしていたはずなのに、たった20分?
「それで、何があったんですか?」
「えっと……メールが来て、トレイルモンに乗って、違うデジタルワールドに行って、人間がデジモンになって、お台場がめちゃくちゃになって?」
「……わけが分かりません」
あまりにざっくりした説明に、伊織が呆れた表情になる。大輔自身もこんがらがっているので無理もないのだが。誰か説明の上手いやつが一緒にいてくれれば、と大輔は頭を抱えた。既に大輔の頭のキャパシティを越えている。
「とりあえず、最初から順番に話してみたら? そしたら私達も一緒に考えられるし」
京に言われて、それもそうだと手を叩いた。さっそく手近なイスを出してくる。
が、座る前にドアの向こうから顔がのぞいた。
「あれ、みんなまだ帰ってなかったの?」
パソコン室に入ってきたのは高石タケル。大輔と同じクラスで選ばれし子どもの一人だ。三年前からデジモンを知る人物でもある。
彼の質問に京が答える。
「うん。何か大輔が変なこと言い出してさ。タケル君は面談終わったの?」
「結構長引いちゃったけどね。それより、変なこと、って」
タケルの言葉が止まった。目を飛び出そうなほどに見開いて、大輔を見つめている。
正確には、その視線は大輔の胸元に注がれていた。つられて大輔も下を見る。金のペンダントが首から下がっていた。最近ごたごたが多くて持っていることすら忘れかけていたけれど。ずっと服の中にたくしこんでいたのが、さっき転んだので出てきたらしい。
タケルは呆然としたまま、小さくつぶやく。
「どうして、大輔君がそれを」
「どうしたの、タケル?」
タケルのかばんが動いて、パタモンが顔を出した。タケルと同じものを見て、驚いて飛び上がる。
「ええ!? 何で大輔がタグを持ってるの?」
「たぐ?」
「なにそれ? うまいのか?」
大輔とチビモンは言葉が分からず首を傾げる。
タケルとパタモンは黙って顔を見合わせる。そして、改めて大輔とチビモンを見た。
「それ、太一さんやヒカリちゃんにもらった……ってことはあり得ないよね」
「あ、ああ」
「だったら僕達にも聞かせてくれないかな。どうして大輔がそれを持っているのか、詳しく」
その目はいつになく真剣だった。
◇◆◇◆◇◆
大輔「一体何がどうなってるんだー!」
情報が散らばってて混乱状態ですね(苦笑)特に前回の全滅は何だったんだと。
次回我らがブレインに出張っていただきますのでお待ちください。
これで02組初期メンバー全員出せましたー。実質三番組分のキャラを出さなきゃならんので、どうしても小出しになります。