第131話 限られていく道筋 それでも自分達の意志で! | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 前に、遊園地で迷子になったことがあった。
 3年くらい前、ぼくがまだ2年生だった時だ。

「母さん達ポップコーン買ってくるけど、信也も行く?」

「ううん。行かない」

 ぼくは母さんに聞かれても上の空で、キャラクターの着ぐるみに夢中になっていた。確か、風船を配っていたんだと思う。

「でも、父さんはアトラクションに並んでくれてるし、信也一人残していくのは」

「いいよ、母さん。信也はここにいろよ。買ったら戻ってくるから」

 気軽な兄ちゃんに、ぼくもうなずく。

 兄ちゃん達がいなくなってから、ぼくは着ぐるみに駆け寄った。キャラクターは移動しながら風船を配ってて、ぼくはそれを追いかけていった。

 気づいたら、もう自分がどこにいるのか分からなかった。

 とたんに楽しかったはずの遊園地が怖くなった。

 着ぐるみが表情の変わらない顔でそびえたっている。ハイテンポの音楽に引きずられて、胸の打つ音が早くなる。ぼくは泣きそうになるのを必死にこらえて走り出した。

 アトラクションに並んでいる親子の、ベンチに座ってる夫婦の顔をのぞく。どれも父さんじゃない。母さんでもない。

 そのうち走り疲れて、花壇のブロックに座り込んだ。我慢しきれなくなった涙があふれる。腕で何度拭っても止まらない。
 兄ちゃん、どこにいるの、兄ちゃん――。


 ――俺は、何でこんな昔の事を思い出したんだろう。

 石の扉にもたれ、ちびていくたいまつを見ながらぼんやりとしていた。部屋から出る方法を探す間に、たいまつの長さは三分の一に減った。熱さで持っていられなくなって、足元の床に置いている。その横にはハンドル。ここに閉じこめられてちゃ使いようがない。

 新しい明かりを用意したくても、この部屋の物はダメだった。薪も布団も、海水をぶちまけられて水びたしになっていた。ぽたりぽたりと水のしたたる音と、たいまつのはぜる音だけが響く。

 部屋に窓はなく、丈夫な石で囲まれている。つなぎ目の緩んでいる場所はない。鍵を外そうにも使えそうな道具はなかった。ノゾムには「ここを動くな」って言ってきてしまった。

 これ以上方法を考えつかなくて、冷たい床に座り込んだ。

 そうだ。あの日座り込んだ花壇のブロックも、こんな風に冷たかった。一人で、どうしたらいいのか分からず途方に暮れていた。結局あの時は、誰が助けてくれたんだっけ。

 それを思い出す前に、たいまつの火が小さくなっていく。もう、赤い熾火おきひがさみしく灯っているだけ。手をかざして、やっとその輪郭が分かる程度だ。熱もほとんど感じない。視界がきかなくなって、水のしたたる音が大きく聞こえるようになる。

 その音に混じって、軽い足音が聞こえた。はっと体を固くして、耳をドアに押し当てた。俺を閉じ込めた犯人か、それとも。

 足音は少しずつ大きくなって近づいてくる。この音は……下から?

 音の主はドアの向こうで止まった。

「……信也?」

 ノゾム!

 そのかすかな声に、遠い記憶が重なった。

(「信也、ここにいたのか」)

 ドアノブを回す音が聞こえる。俺が扉から離れると、カチャンと鍵の開く音がした。

 ゆっくりと扉が開き、外の光が入ってくる。扉の向こうにいる人影も。

(「兄ちゃん!」)

「ノゾム、探しに来てくれたのか」

 俺が歩み寄ると、ノゾムは少しばつが悪そうにうつむいた。

「あそこにいろって言われたけど、信也、帰ってこないから」

「ごめん。でも助かった」

 俺が肩の力を抜くと、やっとノゾムも少し笑った。

 あの頃は兄貴が近くにいた。今はいない。でもノゾムがいる。その事実だけで、前に進む力が湧いてくる。

 ノゾムが床のハンドルを拾い上げた。

「これ、下の?」

「ああ。早く行こう」

 俺はノゾムの背中を押して部屋を出た。謎の誰かはまだ近くにいるはずだ。気づかれる前に動きたかった。ノゾムの後から階段を降りる。


 と、いきなり玄関が開き、風が吹き込んできた。一階のほこりを舞い上げ渦を巻き、階段を駆け上り俺達にぶち当たる。

 とっさに足を踏ん張ったが無駄だった。人間の体はあっさり飛ばされ、ノゾムもろとも階段を転げ上がった。廊下に仰向けになり、うめく。

「いってえ……ノゾム、無事か?」

「痛い……」

 ノゾムも俺の横で顔をしかめていた。それでもお互い大したケガじゃなくて、すぐに起き上がる。
 もう一度階段の下をのぞき込んでみる。玄関の扉は風にあおられて、ポルダーガイストみたいに壁に何度も打ち付けられている。激しい風は甲高い悲鳴のような音を立てて一階で荒れ狂っていた。降りてもまた吹き飛ばされるだろう。

 ノゾムが俺のそばに寄ってきた。その足が震えている。この風は、ノゾムが階段を上った後に始まった。吹き荒れ方を見ても、自然のものだとは思えない。ノゾムがここに来るのを待って誰かが発生させたんだ。多分、俺を閉じ込めたのと同一人物が。

 俺は後ろにある階段を見上げた。俺達は誘導されている。島で足止めされ。俺が閉じ込められ。追ってきたノゾムが来たところで一階を封鎖する。じわりじわりと選択肢を狭められていく。灯台の最上階へ向かって。

 俺を閉じ込めた足音は、階段の上へ去っていった。その誰かは俺達に自分の足で上って来させようとしている。得体のしれない誰かがいる所へ、自分から向かっていくしかないように。

 負けてたまるか。

 息を吸って、緊張と一緒に吐き出した。ノゾムと目を合わせる。

「行くぞ。俺達を怖がらせて楽しんでる奴を、ぶっ飛ばしてやる」

 ノゾムが目を見開いた。

「信也、戦えるの?」

 俺はポケットの上から、デジヴァイスに触った。

「さあな。『戦う』なんてカッコいいとこまでできるとは思わないけど、やるだけやってみるさ。このまま敵の思い通りにされてちゃ気分悪いからな」

 強気の言葉で自分もノゾムも励ます。ユノモンの予言通りになって、プレイリモン達の期待を黙って受け止めて、ここで誰かの思惑通りにビビったりしてきた。でも、「俺らしさ」が何なのかもう分からないけど、少なくとも他人に流されるのは俺じゃない。

 ノゾムはまだ怯えが消えない様子で、だけどはっきり頷いてくれた。

 二人で支えあいながら立ち上がって、先の見えない階段を見上げる。この階段を上るしかないって言うんならいいぜ。強制されるんじゃなく、俺達の意志で上ってやる。



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最初の一文でぴんときた方は、星流に匹敵するフロ好きです。拓也のセリフ一つを拡大解釈と妄想で味付けした結果こうなりました。


そうそう、先日姓名判断をやってもらったら、相性のいい方の画数で「輝一」がどんぴしゃりしました。なんてこった!


追記:フロ02ワールドマップ を更新しました。