あまりに何気ない言い方に、大輔は一瞬何を言われたのか分からなかった。
「別行動って、どこに行くんだ?」
「ほの、あーいや、特に決めてはいないんだけど、一人でスピリット探しに行ってみようかなあって」
何かごまかしている感があるが、大輔が聞く前に友樹が口をはさんだ。
「でも、拓也お兄ちゃんはまだ戦えないんだよ。一人で旅してたら危ないよ!」
「まあ、そりゃそうだけど……でも俺はみんなとは別にスピリット探しがしたいんだ」
拓也は頑固に繰り返す。危険だと分かっているのに、どうしても別行動がしたいらしい。大輔は改めて拓也に聞いた。
「拓也、何かあったのか?」
「べ、別に何かあったってほどじゃないけど。最近大輔に頼ってばかりだからさ。自分で戦う力を手に入れるためにも自分を少し追い込んでみようと思うんだ」
拓也の目が泳いでいるようだが、言っていることは一応筋が通っている。
でもなあ、と大輔は頭を掻いた。
「それでもやっぱり、一人で行くのは危なすぎるんじゃ」
「だったら私が拓也と行くわ」
泉が小さく笑って右手を上げた。拓也が目を丸くして泉を見た。
「何で泉が!?」
「ちょっと、私と二人じゃ不満なわけ?」
泉が両手を自分の腰に当てて拓也をにらむ。拓也は素早く首を横に振った。
「じゃあ僕も一緒に行く!」
言い出した友樹は拓也が止めた。
「友樹はダメだ。年下だし何かあったら大変だろ? 友樹が大輔のそばにいれば、俺は安心して旅に出られる」
「……分かった」
友樹はむくれて押し黙った。
純平がどんと自分の胸を叩く。
「任せとけよ拓也、泉ちゃん。友樹は俺と大輔とブイモンがちゃんと守るからさ!」
「そうじゃマキ。わしらがついてれば百人力じゃ」
「どーんといってらっしゃーい」
純平の横で同じポーズをとる二人。
「……お前ら、いつの間に戻ってきたんだ」
大輔とブイモンが呆れた目を向けた。
引き込み線をひき返すと、崖の端にある分岐点に着いた。そこで二方向に分かれる。
大輔達は森の方へ。
拓也と泉は炎の町の方へ。
しかしそう進まないうちに、大輔達は新たな旅の連れを見つけることになる。
森の入り口で、木にもたれかかっている人間には見覚えがあった。
「輝二!」
大輔に名前を呼ばれて、輝二も意外そうに立ち上がった。
「なんだ。お前らもこの辺りにいたのか」
「ひょっとして輝二はんも、森のターミナルを探して?」
ボコモンの問いに、輝二が頷く。
「デジモンのうわさによれば、この森の奥に不思議な場所があるらしい」
「じゃあ、そこが森のターミナル?」
「さあな」
友樹が期待に目を輝かせて、輝二はそっけなく肩をすくめた。
「あの声が教えてくれたのは名前だけだし、それ以外には通信もない。俺も怪しい場所を渡り歩いてるだけだ」
「そっか。まあとにかく、みんなで森の奥に行ってみようよ」
ブイモンの言葉に、大輔も力強くうなずく。
「だな。早く森のターミナルを見つけて、拓也達にも教えてやろうぜ!」
―――
分岐点で散り散りになる子ども達。それを崖の上から見下ろしている。
「ひひっ。言っただろ、あの子どもは絶対本気にするって」
声に振り向けば、この世界に共にやってきたデジモンの姿があった。
二足歩行の人型デジモンで、上半身が真紅、下半身と頭が黒。遠目でも違和感を覚えるだろうほどに細い。肉を持たず、骨とデジコアのみで生きる存在だ。
かけられた言葉に対し、静かに口を動かす。
「俺はこういう卑怯な手は好きじゃない。次からは俺のやりたいようにさせてもらう」
「いいぜ。オレの仕事は済んだ。あの犬はもう少しやってくれるかと思ったんだが、残念だ」
残念という割に、頭がい骨には笑みが張り付いている。
「だがそれでも、『物語』をねじ曲げる役は十分に果たしてくれた。奴にやった力も回収してきたしな」
そう言って、デジモンは持っていたデジコードを自分のデジコアに戻した。
「さて、オレは一度戻る。お前はどうする?」
「俺は」
聞かれて、自然と目が子ども達に向いた。
「少し腕試しをしてから帰る。スカルサタモンは先に戻っていてくれ」
「そう言うと思ったぜ。戦うのはいいが『あれ』がいなくなった後にしろよ」
「分かっている」
返事をしてすぐに、背後の気配が消えた。視線を子ども達に向けたまま、小さく息を吐く。強風に短い髪がなぶられて、ようやく布きれを巻いたままだったことに気づいた。
無造作に結び目をほどく。濃紺のバンダナは風に乗って、かなたへ飛び去った。
◇◆◇◆◇◆
工場内での拓也との会話シーンといい今回といい、書いてて、とっても、楽しかったです!←
〔24〕 において、作者(というか地の文)は一言もあれが輝二だなんて言ってません。(若干ずるい手を使ったのは認めますが)
〔24〕の時点で気づいてた方……いらっしゃるんだろか。
リアルの都合で一週間ほど星流の反応速度が落ちます。ご了承ください。