第128話 切れ間から光射して 十年越しの信頼! | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
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 拓也が目を開けると、青空が広がっていた。塵やほこりがきれいに洗い流された澄み切った空だ。色鮮やかな虹が左から右へ、とても視界には入りきらない長さだ。白い綿雲も牧歌的だ。

 俺、一体どうなったんだっけ。ふと思って、自分の記憶を探る。そうだ、建物の天井が崩れて、水の中に放り出されたんだ。ユニモンの助けも間に合わなくて。

 ひょっとして、死んでしまったのか。こんなにあっけなく。でも、こんないい景色が見られるのなら悪くな

「いつまで寝てるつもりですか?」

 棘のある声に、拓也は飛び起きた。

「ひっ! あ、ユ、ユニモン!? 輝二も!」

 見ればユニモンと輝二が二人して呆れた視線を送ってきている。輝二は泥だらけだが、元気そうだ。拓也自身の服も似たようなもので、乾いた泥で布地がこわばっている。

「俺、またユニモンに見捨てられたんじゃなかったか?」

「僕が二度もあなた方を見失うと思ったんですかっ。すぐに背中に乗せて、地上まで引き上げました。拓也さんは気絶してたんで、気づかなかったでしょうけど」

 ユニモンが歯をむき出した。拓也が思わず後ずさる。

「僕だって、お二人をネプトゥーンモン様から預かった意地があります。そりゃあ一度は申し訳なかったと思いますけど……だからって今度も信じてもらえないなんて。あんまりです。僕いじけちゃいます」

 最後は本当にそっぽを向いて、ひづめでのの字を書き始めてしまった。何やらどよーんとした空気まで漂わせている。

 拓也が「ごめんな!」と手を合わせても「どうせ僕なんか。ただの馬だし」とのの字のの字。しばらくいじけるつもりらしい。

 困って頬を掻き、輝二に目をやる。輝二は大して興味もなさそうに「ほうっておけ」と口だけ動かした。

 拓也は仕方なく、ユニモンから離れた岩に腰かけた。岩の表面は乾きかけのようで湿っぽい。

 そういえば、と拓也は改めて辺りを見回した。十歩ほど離れた所に左右に長い湖。ひどく濁ったそれはさっきまで三人が潜っていたものだ。ぬかるんで凸凹した地面からも、激しい雨が最近まで降っていたのが分かる。

 だが、景色は変わっていた。雷雨はやみ、雲も空の半分を覆うだけである。その間から、太陽が地面を照らし出している。霧はまだ巻いているが薄い。遠くの山の輪郭が分かるほどだ。

「お前が気絶している間に、お前のデジヴァイスからデジコードが出て、空に昇っていったんだ」

 事情を呑み込めない拓也に、輝二が説明してくれる。

「雲に達したとたん、雷雲があっという間に引いていった。アンドロモンが取り込んでいた、雷の闘士の力だろうな」

 輝二がそばの地面を指さす。そこには球になったデジコードが転がっていた。時々静電気のような光と音を発している。ひとまずの役目を終え、ここに戻ってきたらしい。

「エリアを完全に回復させることはできないけど、半分ぐらいは、ってところか」

 安心して、拓也は肩の力を抜いた。


「拓也さーん、輝二さーん!」

 呼ばれて立ち上がると、遠くから走ってくるバーガモン兄弟が見えた。六兄弟とも表情が明るい。

 エビバーガモンが拓也に飛びついた。

「本当に結界を取り戻してくれたのね!」

「正直、ちょっと不安だったんだけど……」

「だから言っただろ! 拓也と輝二は実は友樹達より強いんだって!」

 一部、首を傾げたくなるような言葉があるが、とにかく喜んでくれている。

「ユニモンもお疲れ様」

「はい、ごほうびだよ!」

 二人がユニモンにも駆け寄って、袋からハンバーガーを取り出す。

「ありがとうございます。よく分かってるじゃないですかっ」

 さっきまですねていたくせに、嬉々とした態度でハンバーガーを頬張るユニモン。現金、というより食欲第一なデジモンである。


 拓也達のデジヴァイスが電子音を発したのはその時だった。

 二人は表情を引き締め、素早く手に取る。

「雷のエリアのみなさん! 聞こえますか? この通信が聞こえる人は返事をしてください!」

「そうか、雷雨がやんだから通信できるようになったんだ!」

 バーガモンが飛び跳ねる。

 拓也と輝二は顔を見合わせた。

「でもこの声、どっかで」

「もしもし、こちら雷のエリア」

 輝二が試しに、デジヴァイスに向かって声を出す。

 数秒間があった。

「――輝二、さん?」

 半信半疑の声。

「ああ、源輝二だ。拓也もいる」

「うわあああああ! 無事じゃったんじゃなああああ!」

 直後、音割れした大音量に、全員が耳をふさいだ。

「ぐあっ……え、ボコモン?」

 片耳をふさいだまま拓也が聞くと、風を切る音が聞こえてくる。通信機の向こうで激しく頷いているようだ。

「無事じゃったんじゃな! みんな心配しとったぞい!」

 言われてみれば、渋谷駅の地下で仲間と別れてから何か月も経っている。拓也達はネプトゥーンモンから仲間の大体の様子を聞いていたが、ボコモン達は拓也達について何の情報もなかったのだろう。突然の通信に驚かれるのも無理はない。

「ごめんな。二人とも元気だ。雷のエリアに残っていた闘士の力も取り戻した」

「ここからでも見えたよ~。晴れたね~」

 ネーモンののんきな声もする。輝二が一瞬眉をひそめる。

「ネーモン、『ここ』ってどこだ? お前達今どこにいる?」

「私の――元セラフィモンであるエンジェモンの城です。友樹さん達もつい最近までここにいましたよ」

 最初の声が答える。拓也が笑顔になって、背筋を伸ばした。

「お前パタモンが進化したのか! 友樹達も元気か? 信也は?」

 不自然な沈黙が流れた。

「あれ? ボコモン?」

 拓也がデジヴァイスに口を近づける。

 やがてボコモンが、珍しく言いにくそうに話し出した。

「友樹はん達は、もう氷のエリアに出発してしまったマキ。異常気象の影響でもう通信はつながらん。信也はんは…………とにかく、城まで来てくれハラ。詳しくは、会ってから話すマキ」

 その雰囲気に、拓也も追及をためらった。少なくとも、簡単に解決できそうにない問題が起きているのは確かだ。聞きたい質問を呑み込んで、拓也は短く答えた。

「すぐに向かう」

「そちらには救援を向かわせます。戻ってくるトレイルモンに乗ってきてください」

「雷の闘士のデータはどうする?」

 輝二に聞かれて、エンジェモンがしばし考える。

「データ修復のできるデジモンも一緒に行ってもらいましょう。人格は戻せなくても、結界の機能なら復旧できるかもしれません」

「分かった。そいつが着いたら渡す」

 輝二が答えて、通信を切った。


 拓也は腰に手をやり、じっと地面を見つめていた。しかし、考えても答えは出そうになかった。

 実際の所、拓也はデジタルワールドに来てからの信也を何も知らなかった。




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注)ユニモンは800歳です。


そろそろ核心になる情報を順次出していかないとな、と思って脳内メモをパソコンに書き出してみました。すると、思っていた以上にずらずらーっと書き並べる羽目に(汗)

この話の時点で128話ですし、200話がリアルに見えてきました……。